元魔王は同じ事を言いたくない。


「我の渾身の一撃くらうがいいのである!!」


 空間の穴が塞がる頃には大部分の魔物がぐちゃぐちゃの肉塊に変わっていた。


 しかし、やはり吸い込み切れない魔物は残っているわけで、今絶賛ライオン丸が殲滅作業に勤しんでおる。


 儂としても奴に任せてのんびり見ているだけではいられぬので適度に対処しておるのじゃが……。


 如何せん破壊をまき散らさずに敵を効率よく倒す方法というのが……。

 勿論爆風の方向を操作しつつの攻撃魔法であれば効果はあるじゃろうが、それだと結局のところ結界内で蒸し焼きの可能性もあるわけで……。


 試しにやってみよう、という気にはならんのう。


 その結界をまず破壊できればよいのじゃが、これだけの強度の物そう簡単には破壊できんじゃろうし、それにばかり時間をかけているわけにはいかない。


 じゃから儂としてはいろいろ面倒ではあるが近距離の敵を潰していくしかないんじゃが……。


 ちょっと雲行きが怪しくなってきたのう。

 先程から妙な気配がしておる。


「おーいライオン丸!」


「どりゃぁぁぁっ!! ヒルダ様、どうしたであるか!?」


 少し離れた場所で奮闘しながらライオン丸がこちらに返事をしてきた。


「残りの魔物共はお主に全部任せる! きっちり仕事をしてみせよ!」


「おうなのである! 任せるのである!!」


 そして一際ライオン丸がその大きな斧を振り回し、大立ち回りを始める。


 そちらは任せるぞ。

 儂はちょっとこっちで手一杯になるやもしれんからのう……。


 儂は目の前に広がる魔物の肉塊の中から、違和感のある場所を探り当てそこに雷撃の槍をぶち込んだ。


 魔物達の死骸はその衝撃によりはじけ、辺りに肉片が飛び散る。


「……気のせいじゃったか……? いや、そこにおるな?」


「ふふふ……さすが元魔王と言った所ですね」



「ほう、儂の勘もまだ鈍っておらんかったようじゃ。お主は儂の事を知っておるのかのう?」


 儂が魔王だったと知っている相手ならば多少こちらの情報を調べているという事じゃろう。


「いつまでも隠れてないで姿を見せたらどうじゃ?」


 儂の言葉に反応するように、魔物の死骸の中からゆっくりと何か黒い物が現れた。


 いや、よく見ると、魔物達の死骸がある辺りの空間が割れて、そこから何者かが出てきた。


 見た目はひょろ長く、背が高い。一応人型はしているが手足が尋常ではないほど長い。


 そして、顔には大きな目玉が一つと、口角がこめかみのあたりまでぐいっと伸びている大きな口。


「ぎへへへ……貴女、とても美味しそうですね……ぜひ私に食べさせて下さいな」


 ギザギザした歯をカチカチならしながら下品に笑うのは、明らかに魔族。


「お主がこいつらの指揮をしておるのか? 全滅が嫌なら早急に引かせろ」


「これはまたおかしな事を言う。まず一つ、私は別に指揮を任されている訳ではありません。そしてもう一つ、この魔物共が全滅しようと私が死ぬ事はあり得ません。私一人いれば目的は達成できるので何も問題はありませんね」


 ……なんじゃこいつ。魔族のくせに随分頭が固そうな喋り方をするのう。


「お主の喋り方は最近一緒に行動をしていた奴に少し似ている気がするが……お前はあまり賢そうではないのう」


「なんとでも言えばいい。貴女は姿の見えぬ相手にどのように戦うつもりですか?」


 そう言うと、スゥっと空気に溶けて混ざるように黒い魔族が姿を消した。


「言い忘れておりましたが私の名前はペイルアウト。忘れても構いません。すぐに意味がなくなります」


 はぁ。儂はこんなぷりちーな身なりだから舐められるんじゃろうか?


 先程一瞬現れた時にあやつの魔力の波形は分かった。ならばサーチですぐに居場所くらいわかると言う物よ。


「姿が見えない事自体は儂にとってどうという事もないのじゃ。残念じゃがお主の能力は役に立たんよ」


「それはどうでしょうね?」


 くすくすと笑いながら、そいつの反応が分裂した。


「私は魔族王様よりアーティファクトを預かりし選ばれた魔族。既に魔王でもない貴女など私が……」


「はぁ……じゃから、反応が幾つもあるなら全部始末したらいいだけじゃろうが」


 儂は反応全てに対し一気に攻撃できる魔法、鋭利な魔力の棘を食らわせてやった。

 何人か離れておけばいい物を全て近距離に居たのがこいつの愚かなところじゃな。

 アーティファクトを持っていると聞いて少々警戒したが、使い手がこれではのう。


「ぐぅっ……これは、少々驚きましたが……たとえ全ての私を捉えたところでこの程度の魔法で倒せるとでも?」


「じゃからあまり儂を舐めるな」


 これだから身の程知らずの自信家は困るのじゃ……。


 全ての棘が対象を捉えているのであれば、あとはその棘を通して直接魔力をぶち込めばいいだけであろうが。


 直接体内に流し込むのなら加減はいらぬ。


「残念じゃがお主とのおしゃべりもこれで終わりじゃよ」


 一瞬で棘の先の魔族は内側から爆発し、粉々になった。


「ふふ……舐めるな、とはこちらのセリフですよ。私は粉々になろうと死ぬ事はありません。アーティファクトによる再生力を甘く見ないで頂きたい」


 なるほど、再生能力がメインのアーティファクトじゃったか。しかし、それなら何も問題無い。


「ならばもう一度言おう、あまり儂を舐めるな」


 伸ばしたままになっている棘の先から今度は特定の魔力に対してのみ作用する磁力を発生させる。雷系の魔法と魔力を吸い取るドレイン系の魔法を組み合わせる事で父上が作り出した特別性の魔法じゃ。


「ぬっ、これは……身動きが……」


「動けんじゃろう? 棘の先で固定されている筈じゃからのう? で、じゃ。わしはこれからどうすると思う?」


「何をされようと私が死ぬ事など……」


「死なぬならどこかの異空間にでも放り込んでやるわ。勿論身動きとれぬままでな」


「なっ。そんな訳の分からない事が出来ると……」


 じゃから……。


「何度も言わせるでない。儂を舐めるなよ」


 伸ばした針を一か所に集め、そこに全ての敵、全てのペイルアウトを纏める。棘の形を変質させ、檻のようにしてその中に閉じ込めた。


 後はゆっくりと、もう一度時空に穴を開けてやればいい。


「ま、待って……」


「さらばじゃ」


 あやつの敗因はたった一つ。シンプルな答えであろう。


「お主は儂を舐め過ぎた」


 余談ではあるが、あやうくライオン丸まで吸い込まれてしまうところであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る