お姫様と本当のおじさん。


 ……城は高台になっている為各方面の様子がなんとなく分かる。


 既に戦闘が始まっていた。


 ここにいる連中は強い。いくら相手がとてつもない大群だったとして、負ける事はないと思うが……。


 とはいえ戦況は気になる。


 ……少し覗いて見るか。


 私は離れた場所を目の前に投影する魔法を使い、それぞれの方面を映し出した。


 まずは中央、魔王の担当する方面だが……少々見たのを後悔した。


 あいつ、何をしてるの……?

 クレイジーすぎるだろ……。戦っているドラゴンがかわいそうになってきた。


 なんだかんだで魔王として魔物達の上に君臨しているのだからそれなりにどうかしているって事なんだろう。


 気性の荒い魔物達をまとめ上げ、人間を襲うのを辞めさせた上人間と同盟を結ぶなんてどう考えても頭のネジがどこか行ってしまってる。


 そして、ほどなくしてドラゴンは見るも無残な生ける樹木と化した。


 正面に迫る魔物達は物凄い力技でその数を激減させていた。

 妙な事を考える物である……。


 おそらくあちらは大丈夫だろう。


 えっと……次は、そうそう。魔王の次は元魔王だ。

 私の中にもあの子に対する保護欲というか、こう何とも言えない気持ちが身体に残っているというか……。


 なんて事を考えながらめりにゃんを投影すると、彼女が魔物肉団子製造機になっていた。


 目の前で起きている惨劇を、彼女は涼しい顔で眺めていた。

 そして、彼女にしがみ付いている巨漢、ライゴスは……なんとも情けない表情でガタガタ震えていた。



 ……見なかった事にしよう。うん、それがいい。



 あとはアシュリーか。


 私がアシュリーの姿を投影すると、そこでも惨劇が起きていた。


 何やら回転するディスクのような物を縦横無尽に飛ばし、次々に魔物の首や胴体を切断していく。

 辺りは血飛沫と臓物でぐっちゃぐちゃ。


 そして、当の本人はとっても嬉しそうに、楽しそうに、それこそ大魔王と言われても違和感ないような凶悪な笑顔で殺戮を繰り返す。

 その背後で地面に肘をついて転がり、うとうとしているショコラがなんとも対比としていい味を出していた。


「ショ……コラ? これは、ショコラなのか!?

 お嬢ちゃん、これはいったい!?」


 突然背後から声をかけられ、心臓が口から飛び出して炸裂するかと思った。


「誰ッ!?」


 振り返ると、そこには……なんていうか、なんだろう。とってもうだつの上がらないおじさんが一人。


 その瞬間理解した。


 あの時彼女が言っていたおじさんというのはアレクの事ではなくこのおじさんの事なのだと。


 だってどうからどうみてもおじさんという言葉がしっくりくるのだ。


「おじさん……誰?」


「いや、おじさんの事は気にしないでくれ。それよりそこに映ってるのはショコラじゃないか?」


 えっと……暴れてるアシュリーの後ろで本格的に寝ようとしてる少女。確かにそれはショコラだけど……。


「おじさんはショコラの事知ってるの?」


「知ってるというか……うん、まぁ……もう何年も姿を見て無いから自信は無かったんだけれどやっぱりあれはショコラなんだな……立派に育って……」


 なにこのおじさんちょっとキモいんだけど。

 まるで有名になってしまった知人の事を、わしが育てた。とか言い出すタイプの人なのかな。


「どうでもいいけどおじさんが……えっと、魔王が呼んでた人?」


「おお、そうだそうだ。ぐっすり寝てる所をさっき目玉一つのお嬢ちゃんにたたき起こされてなぁ。こちとら二日酔いで頭痛てぇっていうのに……なんでも随分面倒な事になってるらしいな?」


 ギロっとおじさんの目つきが変わる。


 視線の先は……上空の魔物達……でも、私の映し出したスクリーンのショコラ……でもなく、えっと、私?


「……何?」


「C……いや、Bか。お嬢ちゃん、嘆くんじゃないぞ? まだまだこれから」


「どこ見てんだてめぇぶっ殺すぞ」


 なんだこの世界の人間の男というのは、特にこのおじさんっていう人種は基本的にセクハラをするのがお約束なのか?


「おお怖い怖い。……それにしても空で大暴れしてんのは……あぁ、ちょっと前に来た聖竜って奴か」


 おじさんが今度こそ上空を見つめだしたので私もつられてそちらを見ると、確かに白いドラゴンが大空で暴れている。


 大空を埋め尽くしている魔物達の群れに少しずつ穴が出来始めていた。

 そして上空からぼとぼとと魔物が落下してくる。


 これはこれで迷惑だなぁ……いきなり頭上に落ちてきたらそれなりに痛いし普通の人間なら衝撃で死ぬぞ。


 私は上空の様子を投影してみた。

 すると、驚いた事に聖竜さんって人よりカエルさんの方が活躍している。


 器用に魔物の背中に飛び移り、足場にしながら空を縦横無尽に駆け回り次々に敵を屠っていた。


「やるじゃんカエルさん」


「あんなカエルうちに居たか……?」


 おじさんが私の肩に顎を置くようにスクリーンを覗き込んだ。


「どさくさに紛れて変なところ触るな殺すぞその手をどけろ」


「ちょっと尻を撫でただけだろうが……最近の若いもんは年寄りに対するサービス精神ってもんがたりんのでは……」


 ギロッ。


「……すいませんでした」



「分かればよろしい」


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