お姫様と因縁の犬猿。


「で? おじさんは持ち場につかなくていいの?」


「ん、あぁ。おじさんは万が一の時にここを守ってほしいんだとさ」


 ちっ。私はこんなエロ親父と同じ配置なのか……。


「って訳だから仲良くしてくれよな綺麗なお嬢ちゃん」


 ……まぁ、綺麗って言われるのは悪い気がしないけれど。


 胸のサイズにごちゃごちゃ言い出したのは許せん。私だって本当はもっと……!


「ん、おいおいこりゃちょっとまずくねぇか?」


 おじさんが、幾つかあるスクリーンを一通り眺めながらそんな事を言った。


 私も確認してみるが、確かにちょっとまずいかもしれない。


 各方面に配置された戦力は申し分ないのだが、いかんせん数が多すぎるのと、メインの前線部隊が少なすぎる。


 魔物達は中心部で迎え撃つ隊列を組んでるんだから当たり前だし仕方ない事だけれど、少しずつ内部に入り込まれてきている。


 正面と左右だけではカバーしきれない範囲と言う物がある。魔物の群れはその隙間を縫うように王国内へと進軍していた。


 いくら戦力があろうと、広範囲魔法を連発できるような環境ではないのだからこれはやむを得ない。

 その為の中央部隊なのだからきっちり仕事をしてもらわないとね。


 私は改めて中央部隊の方をスクリーンに映し出す。


 そこには様々な姿をした魔王軍幹部たちがずらりと隊列を組み、王国の居住区に敵を入り込ませぬよう円状に広がって待ち構えていた。


 そしてそれよりもう少し前の方に二人の姿。


 サクラコさんとアレクって人だ。


「おいおいあの二人何やってやがんだ? 一人は……うへぇ、ありゃめちゃくちゃべっぴんさんじゃねぇか今度一度お手合わせ願いたいもんだ」


「手合わせ? サクラコさんは戦うの好きだろうからお願いすればいつでも戦ってくれると思うよ」


「う、いや、そういう意味じゃなくてだな……。ってそんな事より、あの二人は何してんだって話だよ!」


 うーん。アレクって人をサクラコさんと一緒にどうかって進言したのは間違っていたかもしれない。


 迫る魔物達をよそ目に、激しく打ち合っていた。


 訓練とか手合わせとかそういう感じじゃなくて、ガチで切りあってる。


「……馬鹿なのかな?」


「お嬢ちゃんもそう思うか」


 ……この状況で何がどうなったらあんな事になるんだよ。

 後ろで隊列組んでる魔物達だってかなり引いてるじゃん。


 下手に止めに入ろう者なら八つ裂きにされそうだしなぁ。


 しかしサクラコさんとガチで対等に渡り合える時点であのアレクって人は相当強いぞ。


 動きは若干サクラコさんの方が速そうだけど、その分アレクは攻撃を受け流すのが上手い。そして一撃の重さは彼の方が上だ。


「何話してんのか気になるなぁ」


 おじさんが言う通り、あの二人は本気で切りあいながら何かを必死に叫び散らしてる。


「じゃあちょっと聞いてみようか」


 私は空間魔法で目の前に小さな穴を開け、それと同じ物をあの二人の首元辺りにも遠隔で配置した。


「なんだそりゃ」


「あの場所とここの空間を少しだけ繋げたのよ。本来はちょっとした物資の移動とかをする為の魔法なんだけど、こうやって使えばあっちの喋ってる声が伝わってくるって訳。転移魔法とか転送魔法の応用ね」


「そりゃすげぇ。そんな魔法まで使えるって事はお嬢ちゃんかなりの使い手だね」


 そりゃ勿論。なんたって私は……って、それは今はいいんだよ。


 それより、聞こえてくる会話内容が酷い。


「てめぇアレク!! こんな機会滅多にねぇんだからいい加減あたしに切られて死ね!」


「貴女はまだあの時の事を根に持っているんですか!? あの後一度は納得した筈でしょう!?」


「うるせぇ思い出しムカつきって言葉知ってるか!?」


「そんな理不尽な言葉この世から死滅してしまえばいいのです!!」


 ……うーん。過去にいろいろあったんだろうけどこの状況で殺しにかかるサクラコさんは本当にどうかと思うよ。


「こりゃあ痴情のもつれってやつかねぇ?」


 おじさんがニヤニヤしながらそんな事を言い出した。


 地上のもつれってなんだろう?


「これはいい! なかなかいい見世物ですがこれは千載一遇の機ですよ! 者ども! あの二人が争っている間にこの国を落とすのです!」


 二人の上空に羽根を生やしたでかい芋虫に手足が生えたような魔族が現れ、魔物の群れに指揮を飛ばした。


「おいおい大丈夫かあれ」


「……心配なさそうよ。ほら見て」


 私達が再び二人の様子を眺めていると、必死に打ち合いながらもお互い魔族の姿をきっちり捉えていた。


「うるせぇ邪魔すんじゃねぇ!」


「こっちは命がかかってるんです! 邪魔しないで下さい!」


 サクラコさんがふっと姿を消し、上空の魔族の背後に現れその羽根を切り落とそうとしたのと同時に、地上からアレクが二本の剣を怪しく光らせ、魔力のこもった斬撃を飛ばした。


「うわぁっ! あぶねぇなあたしまで殺す気か!!」


「黙りなさい! 貴女も少しくらい怪我してしまえばよかったのです!」


 そんな言い合い、切りあいを何事も無かったかのように再会する二人。


 勿論間に挟まれていた魔族は既に八つ裂きになって地面に転がっている。


「……うわぁ……」


 おじさんもドン引き。

 私もドン引き。


 でも、本格的に魔物の群れが二人に迫ると……。


「おいおいこりゃまずいな」

「まずいですね」


「仕方ない。まずはこいつら片付けるぞ!」

「言われなくても!」


 なんだかんだとっても息の合った二人なのだった。

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