お姫様と敵襲。
「私じゃ……ない? え、それってどういう……」
バァン!!
突然けたたましい音を立てて食堂に飛び込んで来た人物に皆の視線が集まる。
今大事な話の途中なのに、という表情の者や、何が起きたと純粋に不安そうな顔。それぞれだった。
「メアっち!! 大変や!!」
一瞬逆光になって、小柄な女性としか分からなかったが、勢いよく開けた反動で扉が閉まり、それは単眼の魔物だと気付く。
「ちょ、ろぴねぇどうしたの!?」
魔王にろぴねぇと呼ばれた魔物は、膝に手を突き、肩で息をしながら「て、敵襲やで!」と声を振り絞るように叫ぶ。
ガタッと、それはもう示し合わせたかのようにその場にいた全員が立ち上がり、武器の準備を始める。
「状況は!? 敵は魔族? 数は!?」
魔王は、一瞬名残惜しそうにこちらをチラリと見てから、すぐさまこの国の防衛の為に動き出した。
本人としてはとても気になる所だったのだろうが、よほどこの国が大事と見える。
「わからん! でもとんでもなくぎょうさん来とるのは間違いないで! しかも……」
彼女がその後に告げた言葉に、魔王は顔を青くした。
いや、その場にいる全員だったかもしれない。
「魔族も多少居るんやけど……ほとんどが魔物なんや!」
魔物はこの国、及び周辺区域に集められ、人に害をなす事はない……。
現状はそういう状態だったはずだ。
この国は大きい。魔物が少しばかり外に流出していたとしても気付かないかもしれないだろうが……。
「待って、ほとんど魔物ってどういう事!? 幹部たちの魔物管理はどうなってるの!?」
「そないな事言うたかて知らんがな! 全く見た事がないような連中ばっかりなんや! あんな数の魔物がどこに潜んで居たって言うんや……」
単眼の魔物がヤケクソ気味にそう吐き捨てると、食堂の隅に居た見た事の無い人物がやたらと身体をくねらせながら皆の前へ出る。
「……これは、もしかしたらもしかするわよん?」
声は男……だと思う。なんだこいつ……。
「クワッカー……まさかとは思うがアレが悪用されとるという事かのう?」
ヒルダさんがクワッカーと呼ばれた男性……女性? に問いかけ、彼……いいやもうめんどくさいから彼で。彼は無言で頷いた。
「どのくらいの数がいるか確認しないと。距離はどのくらい猶予があるの!?」
「もうすぐそこまで来とる!……とにかく尋常じゃない数なんや。飛行種に乗ってホーシアが上空から確認しに行ったたら顔面蒼白で帰ってきおった」
「お馬さんが見に行ってくれたんだ? でも彼がそこまで慌てるって事は……これはちょっとまずいね。急いで対策を練らないと」
しかし何故このタイミングで魔族が急にこの国を襲う?
何か理由があるのか……それとも、これすらただの余興のつもりか?
「でもおかしいわ。そんなに大量の魔物……アナトミー骸蟲を使ったとしても早すぎる」
「理由を考えるのは後じゃ! とにかく少しでも早く動かなければこの国が潰れてしまうぞ! お主がせっかくここまで作り上げた国が滅ぼされていい訳があるまい!」
ヒルダさんはそう言って食堂を飛び出そうとするが、魔王に止められる。
「待って! 今飛び出してどうするつもり!?」
「当たり前じゃ! 戦うのじゃ! 今ここへ向かってい魔物が元々動物なのか人間なのかは分からぬ。じゃが、悪意を持ってここを襲うのであれば対処せねばなるまい。そうじゃ、儂とメアが広範囲の魔法をぶちかませば相当量の魔物を排除する事が出来るじゃろう!?」
「でも……でも、今そんな闘い方をしたらみんなが頑張って耕した畑だってただじゃすまない」
「ぐむっ……た、確かに……」
この国は、居住区も広いがその外に広大な面積の畑が広がっている。
魔物達を自給自足させる為に必要な物なのは間違いないだろう。
それが今破壊されてしまえば、食糧難になってやがて低級な魔物達は人を襲うかもしれない。
「ではどうするのじゃ……? 誰か、何か策はないか……?」
「とにかく現状確認だ! てめぇら外に出てその目で見てみろ。話はそれからだろ!」
アシュリーがざわついた空気を一変させる。
「そ、それもそうやな。皆、とにかく外に出て自分の目で見てや!」
私達はぞろぞろと食堂から出たのだが……。
「ま、まさかこんなに早いなんて……ど、どうしたらええ!?」
「ろぴねぇ、落ち着いて! あんな奴等私が纏めて吹き飛ばしてやるわ! 相手が空なら……」
私達が外にでると、既に王国上空は真っ黒だった。
鳥型の魔物の群れ。隙間なんてほとんどない程に、蠢く黒に塗り潰されていた。
「メア! ダメだ。高威力なのはともかく広範囲の魔法は使うな!」
彼女を制したのはアシュリー。
流石大賢者と言われるだけの事はある。彼女には、私と同じ物が見えているのだろう。
「今ここで広範囲高火力の魔法なんかぶちかましたらそれこそこの王国は消し飛ぶぞ……!」
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