大賢者は嫌な予感が拭えない。
おかしい。
何かがおかしい。
メディファスが複数あるという事も驚いたが、そんな事よりも姫だ。
姫は確かにとてつもない魔力を持っていた。
それは肉体に起因するもので、ローゼリアの姫の身体自体が大量の魔力を持っていたから。
……それは分かる。
だけど、姫自体は肉弾戦がメインだったはず。
少なくともこんな魔法を使えはしなかった。
私らとはぐれた後に何かがあったのだろうか?
魔法について学ぶ機会が……?
いや、仮に魔法を誰かに教えてもらったとしてもこんなはちゃめちゃな魔法誰が教えるというんだ。
確か魔王戦の時にメリニャンが多属性をメディファスに宿していたのを地上から見た。
もしかしたらあれの応用なんだろうか?
一気に多属性の魔法を同時に放つ事はかなり難しい。
私でも三属性程度使用するのにかなり精神力を使う。
それを姫は一瞬で、それを防ぎきるだけの結界魔法を展開した上で無理やり手を突っ込んだ挙句に多属性、恐らく見た限り五属性ほどまとめてぶっ放した。
同時に発動させたのとは違う。
以前メリニャンがやったように、多属性を自分の中で練り上げて一つの力に変換した上で解き放っている。
よく見ると、姫の持っているメディファスがうっすらと輝いているので、メディファスが魔力をブーストしているのかもしれない。
興味は尽きないしもっといろいろ考察したい所ではあるのだが残念な事に今はそれどころではない。
『……仕方あるまい。少なくとも汝は力を示した。認めざるを得まい』
「あ、ほんと? よかったー♪ じゃあこの剣直してよ」
『承知した。我と再び接続する為、台座へ』
地面がもこもこっと盛り上がって台座が出来上がる。
姫はそこにメディファスを乗せた。
「修復にかかる前に聞かせてほしい事がある。アンタはさっき、再び接続するって言ったな? メディファスがここに安置されていた頃からアンタはここに居たのか?」
私は疑問に思った事を問いかけてみる事にした。再び、という言葉が妙にひっかかったのだ。
『修復をしながらでも質問に答えるくらいは問題ない。並行して進めるが構わないな?』
「私に異論は無い」
「……我とそのメディファスは元は一つの存在……同一のメディファスレプリカであった。以前そのメディファスが持ち出された際、どういう訳かこの場との接続を無理矢理切断されたため、遺跡その物である我とは切り離されて二つに分かれたという訳だ』
なんとなく疑問の答えが出たが、まだ知りたい事はある。
「こっちのメディファスはアンタとはだいぶ性格が違うみたいだったが?」
『我とて元はこうではなかった。残っている部分を修復し、ある程度の力を取り戻すまでにはかなりの時間を要した。お互いが分かたれた事によって我は我なりの進化を遂げたというのが一番分かりやすい説明であろう』
……アーティファクトが自主的に修復をした……? しかも分割された残りカスみたいなものが、だ。
メディファスというアーティファクトは何かおかしい。
サポート型とはいえ自我を持ち、かなり限定的な物ではあるが能力も相当高い。
そして、何より……進化している。
「メディファスはレプリカがあるって言ってたがそんなにいくつもアンタみたいなのが存在しているのか?」
『……どうであろう? おそらく長い時の中で多くは機能を停止しているのではないだろうか。そして、誤解が無いように言っておくが我等メディファスレプリカというのは、メディファスというアーティファクトのレプリカという意味ではない』
……? どういう意味だろうか。
メディファスはレプリカが存在するが、メディファスというアーティファクトのレプリカではない?
「じゃあメディファスって誰なの?」
姫が話題に割って入ってきた。今いいところだからもうちょっと黙ってろよ。誰とか人じゃあるまいし。
『メディファスとは……』
「そこから先は私から説明しましょう」
直接脳みそに流れ込んでくるような声。
この感覚には覚えがある。
姫も、ショコラも同じことを思ったのか瞬時に戦闘態勢を取った。
でも、違う。
あの神の声ではない……。
その声の主は……あの剣だ。
正確には、剣を置いた場所に現れた一人の……女性?
全身はまるでホログラムのように不安定に揺らいでいて、長い白髪は毛の一本一本がまるで絹糸のようだ。
身体のラインが分かりにくいふわりとした大き目のローブに身を包んでいる。
『修復が完了したようだ。回路の一部が焼き切れていただけなのですぐだったな。しかし……これはどういう事か。我の役目は終わったという事であろうか?』
「メディファス、お疲れ様でした。貴方も私の中へお戻りなさい」
「承知。我は御身と共に」
そんなやり取りをして、私が口を挟む間もなく遺跡としてのメディファスは消滅した。
おそらくこの女性に取り込まれたのだろう。
だとしたら。
この女性が、メディファス本体……?
「綺麗なお姉さんが急に出てくるからびっくりしたよ。てっきり神様かと」
そう言うのは姫だが、そんな事よりも私は女性の返事に言葉を失った。
「私は貴方達が言う所の神、であるのは間違いありませんよ」
神があいつ一人じゃない……だと? また面倒な事ならないだろうな……?
「じゃあお姉さんも神様なの?」
「はい。私の名前はメイディ・ファウスト……貴方達がメディファスと呼ぶ物の本体です」
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