ぼっち姫、飽きる。
「アシュリー……何しにきたの?」
「待て、待て待て。そんな目で見るなよ。私の力で開ける事が出来ないってだけで中に入る事はできそうだぞ」
「えっ、ほんと? 中に入れる?」
そう声をかけた私をチラリと見て、アシュリーはため息をついた。
「こりゃ重症だ。記憶喪失で完全に女になってるとか……以前の姫に見せてやりたいよ」
うっ。今の状況を男の私に見せたいって事だよね? 死にたくなるからやめてほしい。
「いいからさっさと中に入る方法教えて。勝手に来たんだから役に立って」
いいぞショコラもっと言え!
「うるさいなぁ……分かったよ。この中から私の魔力を感じるんだ。多分以前来た時に姫が粉でもばら撒いたんだろう」
なんで中からアシュリーの魔力? 粉?
「あぁ、あの転移アイテム用の粉の事かのう? でもアレは半年くらいしか効果が無いと聞いた覚えがあるのじゃが」
「メリニャンはその時姫と一緒にここに居たんでしょ? その時からこの空間が閉じられっぱなしだったなら霧散せずにマーキングが生きていても不思議じゃない」
めりにゃんはその説明を聞いて、なるほど! と胸の前で手をぽんと打つ。
羽根がぴこんってなる。かわいい。
「転移魔法は対象の座標を目指してそこまでの通路を自分で組み上げてゲートを開く物だけれど、私の転移アイテムは粉を撒いてある場所と直接的なゲート接続をするんだ」
なんのこっちゃ。
「えーっと……うん、それで?」
「あんた分かってないわね……? まぁいいわ。この場所はジャミングが発生していて魔力を組み上げる過程を邪魔されているんだ。簡単な攻撃魔法ならともかく、正確な調整が必要な転移魔法なんて発動できない」
「う、うん……そ、それで?」
「はぁ……。姫にも分かるように言ってあげるとね、道具で向こうに跳ぶなら問題なく行けるって事」
「すごい!」
何故か褒めたのにアシュリーが思い切りため息をつく。
この子ため息ついてばっかりじゃん。よっぽど人生に疲れてるのかなかわいそうに。
「まぁいい。とりあえず手持ちの道具で飛べるのは三人が限界。私は行くぞ? あと姫が行くとして、残り一人はどうする? メリニャ……」
「私が行く。メリニャン、お願い」
ショコラがめりにゃんの手を握って、今まで見た事ない真面目な表情で頼み、頭を下げた。
「お、おう……まぁお主はセスティの妹じゃしな……その資格はあるじゃろう。悔しいが、この場は譲るのじゃ」
「ありがとう」
ショコラはぎゅっとめりにゃんを抱きしめた。
あっ、ちょっとうらやましい。
「な、ななな何をするんじゃ! いいからはよ行ってセスティの記憶を取り戻してくるんじゃ!」
「わかった……アシュリー、お願い」
「はいよ。じゃあ姫とショコラこっちきて」
アシュリーに促され扉の前まで行くと、彼女は私達に身体につかまるように言って、何か球体みたいな物を取り出した。
「お姉様! 早く帰ってきて下さいね」
「……うん、待ってて」
「はいですの♪」
なんかこっちはこっちでラブコメってるし……。
「行くぞ」
私はこの目まぐるしい状況に流されて、全く心の準備ができないまま扉の向こうへと跳んだ。
そこはかなり広い空間で、ちょうどニポポンでガーディアンと戦った場所にとてもよく似ている。
『侵入者発見。何者か?』
ブー! ブー! とどこからか警告音みたいなのと、誰かの声が聞こえてくる。
「おい、ここのアーティファクトがメディファスなんだろ? なんだこの声は」
「知らない」
「私も知る訳ないじゃん!」
「……人選間違えたな。完全にメリニャン連れてくるべきだった」
『答えよ。汝らは何者か』
えっと……あ、そうだ!
「私以前ここでこの剣を手に入れたんだけど壊れちゃって、直しにきたの!」
『……剣、など知らぬ』
「メディファスはもともと剣じゃないから」
ボソっとショコラが言うけど、そういうのはもっと早く訂正してください!
「ほらこれ! この剣メディファスって言うんだけど!! 元々は違う形だったんだって!」
しばらくの沈黙の後、
『……確かにそれはアーティファクトの残骸。しかもメディファスである事を確認した。汝が盗人か』
「ち、違うって! ちゃんとガーディアン倒して手に入れたんだよ!」
って聞いてるもん!
『状況分析中……』
「黙って聞いてりゃお前は誰なんだ? メディファスは姫がここで手に入れた物だろ……お前こそ名を名乗れ」
うわぁ……こんな得体のしれない物に対しても喧嘩腰だよ大賢者様すげぇ。
『……我の名はメディファス』
……どういう事? この剣がメディファスなのにここで喋ってるのもメディファス??
『メディファスというのはシリーズ名。我とそこのメディファスはそのうちの一つ。メディファスを所持する者よその力を見せよ』
「どうやって?」
『我の造りし番人と戦い、力を示せ』
ゴゴゴ……と、地面が盛り上がって巨大なガーディアンが生成されていく。
「こういうのもう飽きたんですけど……」
『あき……た……?』
「うん」
私は目の前のガーディアンが完全に生成されきる前に、その巨体を結界の中に閉じ込めた。
『……何を?』
ショコラは無言で見つめてる。
アシュリーはなんか口をあんぐり開けて呆けてる。
私は面倒が嫌なので、その結界の中に無理矢理手を突っ込んで多属性の魔力をしっちゃかめっちゃかに思い切り暴発させた。
だってここでもジャミングかかったままだったら危ないし。
ちゅどーん!!
『……なんと馬鹿げた事を……!』
「馬鹿っていうなこらっ!!」
結界の中が爆炎で見えなくなり、私が結界を解くと、パラパラと粉末だけが降り注いだ。
『え、えぇ……? や、やり直しを希望』
「うっせーお前も粉々にすっぞ!」
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