第七章:己の証明。

ぼっち姫、不審者につけまわされる。


「おい蛙、それは本当なんだろうな?」


「あっしは本人に会った事があるんでぇ。間違いありやせんぜ」


 うーん。

 本当にそんな事があるのかなぁ?


 私達はまだ王都で毎日ご馳走を貪り食ってはサクラコさんとリンシャオさんがお酒を水か何かみたいにがぶがぶ飲む生活を続けてた。


 すぐに出発する予定だったのにサクラコさんが「タダ酒が飲めるんだからもうちょっとやっかいになろうぜ」とか言い出して今に至る。


 別に私としては急いでるわけじゃないしどうでもいいんだけどさ。


 あ、そうそう。それで今何の話をしてるかっていうと、カエルさんが今日街の中で魔王を見たんだってさ。


 魔王が慌てた様子で街中を走り回ってたらしい。


 そんな事ってある? 魔王様なにしてんの?


 って別にもう人間と同盟を結んでるんだから居たって害はないんだろうけどさ。


 私も今日昼間一人で街中をいろいろ歩き回って、まだ少し残ってた瓦礫の片付けとか、住宅の修理とかを手伝ってきたんだけど、みんなの中で新しい勇者様の人気が凄かった。


 おば様達はもうアイドルの話でもするかのように彼の雄姿を語るし、若い女の子達はクールでかっこいいだとか物凄く強いとか彼女いるのかなとかそんな話ばかりしてる。


 私と一緒に旅してたっていう勇者リ……リャ? なんだっけ? とにかく前の勇者の人の事はみんな忘れちゃったのかな?


 聞けばもうずっと音沙汰無しで、姿も見せないし噂話もまったく出てこないらしい。


 って事は、既に死んじゃったか勇者なんて辞めて隠居してるかどっちかだろう。もしかしたら女が出来て結婚してるんじゃないか? なんて話も出てるくらいだった。


 人の印象っていうのは簡単な物で、実際自分が困っている時に颯爽と現れ、解決してくれた人の事はまるで英雄のように語り、自分のピンチに現れない勇者はもはや居ない人みたいになっちゃう。


 それも分かる気はするんだけどね。

 てかそんなに皆に大人気の勇者様だったら私も会って話がしてみたいよ。


 家の修理を手伝ってたところの女の子にそんな話をしたら滅茶苦茶敵視されて困っちゃったけどね。


 そういうんじゃないってば。

 純粋にどんな人なのか気になるだけだし。


 その子からしたら勇者様を自分の物にしようと狙ってるみたいに見えるのかもしれないけど。


「で、その魔王はどこ行ったんだ?」


「それが、追いかけてはみたんですぜ? でも人込みが激しくて」


「見失ったのか? 使えねぇ蛙だなぁ」


「おっと、その言葉はまだ早いですぜ。あっしはきちんとその後魔王を見つけてるんでい」


 サクラコさんが「おっ?」と興味深そうにカエルさんの話の続きを待つが、どうやらカエルさんの話は結局期待外れだったみたい。


「それが、あっしがやっと見つけた時には転移でどこかに行っちまう所だったんでさぁ。そこに居たご婦人に聞いたら犬を見せてほしいっていうから見せてあげたのよ、だそうですぜ」


「なんだよ結局逃げられてんじゃねぇか。それにしても魔王が犬をなぁ? 随分と博愛主義に目覚めたもんだ」


 何が目的で犬を見てたのかわからないけどね。

 でも通りすがりの犬に足を止めてじっくり観察なんて可愛いところあるじゃないか。


 まぁそれよりも私の方は私の方で単独行動中にいろいろあったんだよね。

 サクラコさん達には報告してないんだけど。


 街での手伝いがひと段落して私が一人街を見て歩いてた時の事。


 なーんか視線を感じたんだよね。

 誰かがずっと見てる。


 それに気付いて私は試しに走ってみた。

 視線はずっと私を追いかけてきている感覚があったから、出来る限り遠回りしたり、周りから死角になるような場所を通ったりしてみたんだけど、結局視線は消えない。


 私は街中を走りながら視線がどこから来ているのかを探る事にした。


 相手も気付かれにくくするために場所を人込みの中からだったり、屋根の上からだったり……ころころと臨機応変に自らの居場所を変え私の事を監視しているようだった。


 周りに遮蔽物が何もない広場に出ると、私の予想通り建物の屋根に移動したようだったので私は覚えたての転移を使って背後に回り込んだ。


 つもりだったんだけど。


「やいやい! いったいなんで私を……ってひゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 やっぱりまだいまいち座標の指定が上手くいかないみたいで、背後は背後だけど足場の無いところに転移してしまいそのままおっこちた。


「ぐぁーっ。いててて……」


 転移に関してはもう少し練習が必要だなぁ。


 私が落ちたのは路地裏のゴミ置き場。

 袋の山の中にどぼーんってなった。


「……なにしてるの?」


 私を監視していた相手はどうやら女性のようだ。

 屋根の上から私に話しかけてきた。

 その姿や表情は逆光になっていてよく見えない。


「うるさいなちょっと失敗しただけよ。そんな事よりあんたはなんで私の事付けまわしてるの?」


 屋根の上にいる監視者は少し無言で考え込んでから、「いろいろ。監視?」と言った。


「ストーカーって事?」


 私も随分人気者になったものだ。

 勿論これは冗談で聞いたんだけどね。


 だけどね。


「ああ、うん。そうとも言う」



 ……キャンディママ、貴女の子供にストーカーができました。

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