絶望戦士は面倒を省きたい。


「ハーミットさん、何か妙な反応が近付いてきます!」


 俺達は次の目的地のあてが無いまま、少し人の多い町でも目指そうかと街道を歩いていたのだが、コーべニアが何者かの反応をキャッチしたようだ。


「魔族か?」


「……いえ、魔族ではないと思います。反応は弱いですし、どちらかというと……人? いや、もしかしたら獣人の類かも……」


 ……そりゃ珍しいな。


 確かに世界にはいろいろな種族がいる。

 人間、エルフ、ドワーフなどがそれにあたるが、それ以外にも半獣の獣人たちなど。

 しかしそういう奴等は基本的に隠れて住んでいる為人前に現れる事は少ない。


 あのオークション会場には獣人の子供たちもいたけれど。


「……おかしいです。先ほどの反応が動かなくなりました」


「どういう事だ? こちらに気付いて警戒してるのか?」


「いえ、反応が小さくなってきています。もしかしたら深手を負っているのかもしれません」


 ……怪我をした他種族……?


 もしかしたら使えるかもしれないな。


「よし、反応のある方へ案内しろ。すぐにだ。それとヒールニントは出来る限り効果の高い回復の準備をしておけ」


「「分かりました!」」


 俺達は速足でコーべニアの案内で三百メートル程度進んだ頃だろうか。


「あっ、あそこに誰か倒れています!」


「ヒールニント!」


「は、はい! かの者に癒しの加護を!」


 街道から少し離れた場所の草むらに倒れていたのは、数ある種族の中でも人前に出てくることは本当に珍しいリザードだった。


 フォルムは人とほとんど変わらず、頭には髪の毛もあるが、顔やその他全身は硬い鱗に覆われていて、太く長い尻尾が付いている。


 背中がパックリと裂けていて、血まみれだったがヒールニントの加護を受けてもう傷は塞がっている。


 相変わらず彼女の加護はすさまじい。

 特に回復に関しては特化していると言ってもいいくらい効果が高い。


 姫の使っていたエリクシールライトにも匹敵するだろう。


「う……うぅ……」


「おい、無事か?」


 声をかけるとリザードはゆっくりと目を開く。まだ呼吸は荒いが、傷が塞がり痛みが消えている事に気付き、驚いたようだ。


「……こ、これは……貴殿が?」


「いや、傷を治したのはこっちの聖女だよ。感謝しときな」


「聖女って呼んでもらえるなんて……照れてしまいますね♪ でもでも、リザードさん勘違いしちゃだめですよ? 回復してやれって頼んだのはこっちの勇者ハーミット様ですからね?」


 彼女の言葉を聞いてリザードはクワっと目をかっぴらき、慌てて飛び起きた後、その場に膝をついて頭を垂れた。


「勇者様に聖女様!? かたじけない……! 我が命を救って頂き誠に……!」


「いや、そういうのいいって」


「そういう訳にはっ!」


 いや、本当にそういうのはいいんだ。俺に必要なのは情報だけだからな。


「それより何があったのかを教えろ。命を救われた事を感謝するならば、情報だ」


「なるほど……勇者殿、我々はここから半日程歩いた所にある隠れ里のリザードで御座います。我の名前はリッキューリオ。この御恩は……」


「だから、恩とかは気にするな。それより背中の傷はどうした? 今は狂暴な魔物もほとんどいないだろう?」


 リッキューリオは何かを思い出すように目を閉じ、口の端に力が入るのが見えた。


 その際白い歯が見えたのだが、それを見た俺は、こいつらちゃんと歯あるんだな。なんて感想が頭によぎっていた。


 てっきりヤモリとかトカゲみたいに歯は無いもんかと思ってたけど、これなら俺達と食事とかもあまり変わらないのかもしれないな。


「正直言いますと……我らリザードは人間を快くは思っておりませぬ。しかし、我が命を助けて下さった勇者様と聖女様を信用し、恥を忍んで我らの里に起きた事を語りましょう」


 そう前置きをしてからリッキューリオはゆっくりと語り始めた。


 と言っても、大体俺が想像していた通りだったが。

 奴の話を簡単にまとめるとこうだ。


 里に謎の化け物が来た。そいつは里の近くで管理している魚の養殖場を占拠した。武闘派で知られるリザード達は勿論対抗し、里に住むリザードの半数が返り討ちにあい、現在は全く手を出せずにいる。

 多くの戦士を失い、戦意を削がれた里の生き残りは戦う事を諦めた。

 誰も戦おうとしないその現状に不満を感じ、リッキューリオは単身勝負を挑んだが、あっさり返り討ちにあい、命からがら逃げてきたらしい。


「本来ならば最初に戦士達が戦いに行った時、私も一緒に行きたかった。その日に限って里を離れていたのです。里に帰ってみれば仲間達は皆死んだ、この里はもう駄目だと長に言われました。私はそんな情けない事をいう長を許せなかった……。しかし、今思えば皆の命を守る為だったのでしょう……愚かなのは私だ」


 語り出したら、思い出して悔しくなったのか一気にまくし立てる。

 目から一筋の涙を流し、悔しそうに地面に付いた膝を拳で何度も叩く。


「そうか。分かった……じゃあその里に案内しろ」


「なっ、今の話を聞いておられましたか!?」


「……何を言ってるんだ? 聞いたから案内しろって言ってるんだが」


 何を不思議そうにする事がある。それ以外に話を聞く理由があると思ったのだろうか?


「し、しかし相手はリザードの戦士が束になっても……」


「えっと、キュリオさんでしたっけ? この人はこういう人ですから諦めて下さい」


 ヒールニントがだんだんと俺の事を適当に扱っている気がするのは気のせいだろうか?


 じーっと見つめると、こちらの視線に気付いたらしく頬に両手を当て顔を真っ赤にして目を逸らされた。


 ……それは一体どういう感情だと思えばいいんだよ。

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