絶望戦士は許されたい。
「ハーミット様、顔色が悪いですが大丈夫ですか? 回復魔法が必要なら言って下さいね……?」
俺を心配そうに見上げてくるのは神官のヒールニント。
こいつも最初に会った時に比べればいろんな補助魔法を覚えたし、使える女になった。
何故こんなにも俺を慕ってくれるのか分からないけれど、それで命までかけてくれるというのだから便利に使ってやらなければならない。
「あまり無理はしないで下さいね。ローゼリア、王都と厳しい戦いが続きましたから。森へ魔族を探しに行くのはいいですが今日くらいはここで一泊しませんか?」
そう言ってきたのは魔法使いのコーべニア。
こいつの攻撃魔法はさすがにアシュリーに比べればまだまだだけれど、珍しい毒系の攻撃魔法を使えるし、詠唱に相当時間がかかるが一日に数回程度だけ高火力の魔法を使う事が出来るのでその点では役に立つ。
「休息が必要ならお前らだけこの村に泊めてもらえ。俺は行く」
もしこれでこいつらが離脱するならそれでいいし、不便になるが仕方ないと割り切れる。
「いや、俺達はついていきます。ただこれだけは分かって下さい。俺等が心配しているのはハーミットさんの身体の方ですからね?」
赤鎧の戦士ロンザの言葉に残りの二人も大きく頷いた。
ロンザは正直言ってかなり使える。
格上相手の戦い方を理解していなかった事と、妙な慢心、そして死に対する覚悟。
それを克服したロンザは耐久力、攻撃力に関して申し分ない戦士だ。
多少動きが遅いが、それは残り二人の盾として十分機能しているしバランスがとれている。
だからこそ俺が好き勝手に動けるというのもある……か。
こいつらは本当にどこまでも俺についてくるつもりらしい。
「わかった。だったら今日だけこの村にやっかいになろう。一泊と言っても明日の早朝にはここを出る。大体五時間程度……すぐに宿を取って寝るぞ」
「「「はい!」」」
俺は姫みたいに面倒見よくできないし、姫のように慕われる要素だって無い。
ただの自分勝手な男だと思う。
それなのにどうしてこいつらはここまでするんだろう。
理由はどうあれ使えるものは使おう。
その為にも多少こいつらのパフォーマンスに注意してやるべきか……。
ロンザがこの村唯一の宿屋に交渉しに行ったが、どうやらもう宿は廃業してしまって部屋はただの物置になってしまっているらしかった。
「なら俺が直接話してくる」
俺は宿の主人に、物置でいいから部屋を貸してくれと言ったが、人が泊まれるような状態じゃないと断られてしまったので、この村付近で目撃されている魔族を殺してやるから馬小屋を貸せと言って、その許可を得た。
「おいお前ら。今日の宿はここだ」
宿屋の裏手にある馬小屋へ三人を案内すると、驚いた事に女であるヒールニントですら一言も文句を言わない。
「寝泊まり出来る場所があるだけ幸せですよ」
なんて笑った。
何が面白いのか。何が楽しいのか分からないが本人がそれでいいならいい。
むしろこれを嫌がるようなら置いていくだけなのだが……。
「明日は早い。さっさと寝ろ」
他の連中の事は無視して俺は牧草の山の中へ身を投げた。
今まで相当無理がたたっていたのか驚く程簡単に俺の意識は遠のいていく。
考えてみれば、こんな劣悪な寝床だとしても、こんなに柔らかい場所寝るというのが久しぶりだった。
まどろみの中で俺は当時の弱虫な俺に戻っていた。
「姫ちゃん、俺は……いったいどうしたらいいんすか……?」
「お、急にどうした?」
「俺、この先一人で……やれるっすかね? 不安なんすよ……姫ちゃんが死んだって言われて……皆もどうなったかわからないし」
「なんだそんな事か」
姫ちゃんはいつものように、ニヤっと笑いながら、
俺にこう言った。
「お前なぁ、無い頭で難しい事考えたってしょうがねぇだろうがよ。お前はただやるって決めたらそれに向かって突っ走ってりゃいいんだよ」
「……そういうもんすかね?」
「そういうもんだよ」
「俺なんかが、一人でできるっすかね?」
「一人じゃ無理なら周りを少しは頼ってやれ」
「周りって……あいつらは……」
「まるで俺と旅を始めたばかりのデュクシとナーリアみたいじゃないか」
俺はちょっとだけ傷付いた。
俺ってそんなふうに見られていたんだろうか……。
いや、姫ちゃんの言う事は正しい。
分かってる。
むしろあの当時の俺より、ロンザ達の方がよほど強い。
覚悟もある。
「お前はさ、人の命を背負うのが嫌なだけだろ? 自分の命を軽く見てるからそうなるんだよ」
「でも、俺なんて……」
「バカ野郎。お前は俺の仲間だぞ? 俺が期待して育てようと思った仲間だ。お前がやるときゃやるって事、俺にはよく分かってんだよ」
「姫ちゃん……」
「大丈夫よ。デュクシなら出来る。私がそう思ってるんだから信じてみなさいよね♪」
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