絶望戦士は救われたい。
……あれからというもの頭が冴えてしょうがない。
別に賢くなったという意味じゃなくて、余計な物がいろいろ頭から出て行ったような感覚がある。
出て行ってしまった物の中で大きな部分を占めるのが、もしかしたら人らしい心かもしれないと俺は思う。
だけど、今の俺にはそんな物必要ないと断言できるし、無い方が都合がいい。
俺についてきたあの三人の事だって特になんとも思わないし、都合よく使い潰すつもりでいる。
何より本人たちがそれでもいいと言ってるんだから誰かに文句を言われる筋合いはない。
以前の俺は甘ったれの糞野郎だった。
身近に姫がいて、姫は誰より強く、負ける事なんて無いと思っていた。
だから、俺が死ぬ事があったとしても姫が死ぬなんて事は全く考えてなかった。
それがどうだ?
あの戦いの日、俺は思い知った。
姫だって人間だった。
どんなに強くても、不死身だろうと、神には勝てない。
そんな事少し考えたら分かる事だった。
でも、それでも姫なら……そう思って全部任せてしまった。
俺が出来る事なんて何もなかった。
唯一の取柄も役に立たなかったらしい。
俺がこうして生きているんだからそういう事だ。
「ハーミットさん! 情報通りこの近くで魔族が頻繁に出てるらしいですよ!」
「そうか。じゃあ俺達がやる事は分かってるよな?」
村で情報を収集していた三人が俺の元に帰ってきて、その中の赤鎧の男……ロンザが集めてきた情報によると、どうやらこの村の近くの森で魔族らしき目撃情報が多発している、との事だった。
今のところ村に実害はないものの、視た事も無い恐ろしい姿をした魔物が居る。という情報が来ている所から恐らく相手は魔族だと思われる。
俺は赤鎧のロンザ、魔法使いのコーべニア、神官のヒールニントと共に各地を旅しながら魔族を殺して回った。
魔族は基本的に、自分に余程自信があるのか聞いて無い事までベラベラと喋る傾向にある。
冥途の土産とやらを持たせようとしてくれてる訳だ。ありがたい事この上ないね。
そうやって魔族から情報を集め、殺し、集めては殺し、俺達は魔族達が狙っている都を突き止めた。
ローゼリア。
そこは既に滅びた王国だった。
何故か魔物も沢山いたようだが、俺達が到着した時にはほとんどが魔族に殺された後。
かなりの魔族がいたが激戦の末皆殺しにする事ができた。
あの三人も最初に出会ったばかりの時に比べれば度胸がついてきたように思う。
最初なんて魔族一匹相手に逃げ惑っていたのに、いっちょ前に死を覚悟した上で立ち向かえるようになっていた。
魔族が狙っていた物はローゼリアに眠るアーティファクトらしかったが、どうやら俺達では宝物庫への道すら開くことが出来ないのだそうだ。
魔族から聞き出した宝物庫への入り口に行って、そっちの知識に一番詳しいヒールニントに調べさせた結果がそれなのだから俺は諦めるしかない。
魔族にアーティファクトを奪われないようにするには皆殺しにすればいのだ。
それが出来れば俺がアーティファクトを手に入れる必要は無い。
結果的に、姫や魔王、そして神の情報を得る事は出来ず完全に外れだった。
あれだけの魔族を殺したというのに俺の心は満たされない。
姫が死んだのかどうか、俺はこの目で、この耳で確認しなければいけない。
もし魔王に取り込まれているのならば取り出す方法があるかもしれないし、無いのならば魔王を殺す。
もし姫が魔王と相打ちになっていて裏で糸を引いているのが神だというのなら神を殺す。
魔王でも神でもない第三者だったならばそいつを殺す。
俺にはもうそれしかやる事がない。
その為に生きている。
魔族を殺して殺して殺し尽くしてその裏に居る奴を殺す。
それで俺のやるべき事は終わりだ。
そしたらもうこの命などどうでもいい。
むしろ、途中で息絶えてしまうのならばそこまで。そこが俺の死に場所だ。
だから誰か俺を殺してみせろよ。
出来ないなら俺が殺してやるから。
今一緒に旅をしている三人がいつどこで死のうと俺には関係ないのと同じように、俺がいつどこで死のうとそれもどうでもいい。
生きている限りは魔族を殺す。
死ぬまで殺す。
生き延びてしまったこの命を、終わらせる為に殺し続ける。
もう俺の頭の中にはそれしか無かった。
俺が途中で死んだくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえ。
俺が死んだ後の事なんてどうでもいい。
どうせ誰か違う奴が解決してくれるさ。
姫がご執心だった勇者リュミアあたりが一念発起してやってくれるかもしれない。
結局勇者なんて言われていてもあれから全く姿を見せないし、どこかで活躍してるなんて話も聞こえてこない。
どこかでのたれ死んだかもしれないな。
俺もそうありたい。
自己満足の為に生きて、満足して死にたい。
あぁ、どうしてこんなにも気分がいいんだろう。
魔族を殺す事、死に近付く事。
それが、今の俺にはどうしようもなく救いになっていた。
心は知らず知らずに死という救いを求めているのかもしれない。
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