魔王様と蟲の被害者。
「それにしても……この成長具合を見る限りでは宿主に寄生してから数か月といった所であろうな。この近辺にクワッカーが潜んでいる可能性は高いのじゃ」
「ちなみにこれはどの程度の速度で成長し、成長しきったらどうなる?」
アシュリーの質問、それ私も気になってた。
「そうじゃなぁ……確か以前聞いた話じゃと大体半年くらいかけて宿主の身体を変質させていく蟲じゃったな。成長しきるとその身体を乗っ取って魔物化するのじゃ」
人間を魔物に変える蟲? えぐいなぁ。
「ヒルダ様、人間への寄生の経路などはどうなるのであろうか?」
「んー。まちまちではあるのじゃが、大抵は食事に混入、誤って口に入るケースがほとんどじゃろう。意図的に投与された場合は別じゃがな。それと何も魔物化するのは人間だけではないのじゃ。小動物から大型の獣、そして人間。生き物であれば大抵の物を魔物に変質させてしまうのがこいつの恐ろしいところよ」
「しかしそんな恐ろしい物がありながらあまり使用されていたという話は聞かないのであるが……」
「らいおん丸が知らんのも当然じゃ。なにせ実際に使用されたケースはほぼ無いのじゃから。何せ一年計画で魔物を増やすなんて気の短い魔物達が率先してやる訳なかろう?」
つまり、魔物達からしたらそんなのんびりした計画の成果なんて待ってられるか! って事だったのかな。
「特に先代の魔王なんて気が短いの最たる者じゃったからのう。わざわざそんな物を使用してまで魔物を増やす気があったかどうかも謎じゃし」
その時、私の中で言い知れぬ不安がわきあがる。
「もし誰かに投与、或いは植え付けられたと仮定する場合、この宿主の身近な人とかは……」
「まとめて実験台にされている可能性は高いのう」
「なんとした事だ! 我ともあろう者が寄生虫が原因と分かった上で何故調べなかった!! 急いでリナリーの所に戻るのである!!」
やっぱそうなるよね。
リナリーのすぐそばで生活してきたパパさんが無事である保証はどこにもない。
具合が悪いようには見えなかったけれど、大人だから進行が遅かっただけかもしれない。
私もあの時一応パパさんの身体も調べておくべきだった。
「皆近くに来て! 転移するよ!!」
私の言葉にアシュリーも自分でやるより早いと思ったのか私の隣へやってきた。
ヒルダさんも、場所が分からないからだろう、私の腕を掴む。
ライゴスさんはその頭の上だから別にどうでもいい。
「ライノさんありがとう! またそのうち顔出すから!」
「おう、気をつけてな」
ライノさんに挨拶だけしてすぐにリナリーの家の前まで転移した。
とても静かなままの風景。
何事も起きていないのがすぐわかる。
「よかった……。とりあえずパパさんを調べにいこう!」
私達はドアをノックして相手を待つ、という事もなんだか待ちきれなくなって無理矢理こじ開けて中に入った。
「う、うわわわっ!? あ、あれ、さっきの方々……ですよね? どうしましたか? やっぱり金銭の要求ですか!?」
「違うのである馬鹿者! リナリーの病気は悪質な寄生虫が原因であった。お主の身体も念のために調べるのである!」
「えっ、わ、私ですか!? 私にもその寄生虫が……?」
「わからんから調べると言っているのだ! とにかくそこに横になれ!」
「わ、わかりましたからあまり騒がないで下さい。今リナリーがやっと寝付いたところなんですから」
ごちゃごちゃうるさい!
とりあえず私は無理やりパパさんを魔法で眠らせ横に転がす。
そしてニーサの勾玉を使い全身をくまなく調べていく。
「……居た!!」
しかしその寄生虫はほんの小さな物で、内臓を傷つけるような状態では無かった。
ただ体内に入り、どこから手を付けようか迷っている段階、そんなふうだった。
「これなら……すぐに摘出できる!」
中身を作り替える必要なんてない。
ただ無理矢理こいつを引っこ抜く!
私はズブリとパパさんの身体に手を差し込み、寄生虫を捕まえて引きずり出した。
勿論パパさんの身体に傷なんて残らない。
そこは部分的な空間の穴をあけて直接蟲を取り出したのだから問題無い。
「ふぅ……パパさんはこれで大丈夫ね」
「まて、おかしいのじゃ。同じ時期に寄生されてここまで成長具合に差が出る訳がないのじゃ!」
「ど、どういう事であるか!?」
「すこし考えりゃ分かるだろ……これを寄生させた奴が、リナリーに寄生させたのとはまた別の時期……それもすぐ最近またやってきてこいつに植え付けたんだよ」
アシュリーがイライラしながら吐き捨てるように言った。
それってどういう事!?
やっぱり近くにそいつが潜んでて、以前はリナリーに、そして再び現れてパパさんに……って事?
「やはりこの近くに居るのじゃ! これ以上被害が拡大する前に見つけ出してどうにかせんと……」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁつ!! ぐごごごるるぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
家の外で、何かとてつもなく巨大な生物らしき雄たけびが聞こえた。
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