ぼっち姫、おっさんとラブ。
「え、え?? ちょっと待って下さい! じゃあママさんの息子がプリンで私もプリンで私がママさんの娘でいや息子でつまり私は男確定!?」
「お、おおお落ち着きな! あわてるんじゃないよ! とにかくちょっと酒でも飲んで気を落ち着かせな!」
「女将さんも落ち着きなって! お酒なんて飲ませちゃだめでしょ!? どう見たって未成年じゃん!」
「そ、そそそそうか! そうだね。でもわたしの息子はもうとっくに成人してるからこの子も実は見た目より歳なんじゃ……」
「えー!? 私もしかして本当はおっさんなの!?」
もう大惨事。
わちゃわちゃと店の入り口でしばらくそんなやり取りが続いた後、なんとか落ち着いてきたママさんが私を奥にあるママさんの部屋へ案内してくれた。
「状況を整理しようか。あんた……えっと、プリンは記憶がなくて、だけど勇者と一緒に行動していたらしく、きちんとした身分証もある」
「そうですね……」
「んでわたしの息子はプリンで、勇者と一緒に旅をしてた……だけどある時期から息子の話をあまり聞かなくなってね、心配してたんだよ」
じゃあ……その頃に私が、おっさんからこうなったっていう可能性があるって事?
「私……おっさん?」
「き、気にしちゃダメ! 私の息子それなりにだけど外見は整ってるって聞いてるから! もしかしたら魔法とかでその姿になってるだけかもしれないだろう!?」
……一瞬で頭が冷静になった。
魔法で、この姿に……?
その可能性はあるのか?
あるのかも。
いや、それっぽいなぁ……。
「じゃあ私、どういう理由かはともかく男からこの体になっちゃって、記憶なくしたりしたもんだから自分の事を女の子と勘違いしてるって事……? ヤバい、どう考えてもヤバい奴だ……」
自然と瞳に涙が溢れてくる。
情けない……男なのに、何も覚えてないからって自分を女と思い込んできゃぴきゃぴしていたなんて……。
いや、きゃぴきゃぴはあまりしてないけど、してないけどつまりはそういう事でしょ?
泣かずに居られる?
いや、無理だ。
「もう! ……私も悪かったけど、そんな事気にしたらダメだよ! プリンはプリンなんだろ? いまいち私も実感はわかないけど、あんたが男だろうが女だろうが私の子供なんだったらそんな事関係ないさ」
そういって再びママさんは私を、今までで一番強い力でぎゅっと抱きしめて、だけど優しく頭を撫でてくれた。
ママさん、というか……、
「ママ……?」
「ずぎゅーん!!」
びっくりした! ママさん、というかママというか……彼女が突然変な大声をあげたからビクっとしてしまった。
「なぁユリ……」
「なんです女将さん」
「今の私の気持ちわかるか?」
「めっちゃ分かります」
「だよな」
「ですね」
よくわかんないよなんのやり取りなの!?
「決めた! もうあんたが本当に私の子供かどうかとか男だとか女だとか関係ない!」
「えっ、えっ??」
「もう今この瞬間からあんたはプリンセスティ! このキャンディ・セスティの娘だよ!」
唐突ですが、私にママができました。
「……おいおいなんだよその面白そうなイベントはよぉ!? なんであたしを呼ばなかったんだ!」
宿屋に戻って眠り、朝帰りしてきたサクラコさんにママの事を説明したらこれだ。
自分からどっか行って帰ってこなかったんだから呼びようがないじゃん。
そもそも偶然だったんだから予測なんてできなかったよ……。
あの後ママとお互いの事をいろいろ話した。ニポポンって国で倒れてた事から今ここにたどり着くまでの話。
ママは何も言わず、頭を撫でてくれた。
ママもいろいろあったみたいで、プリン……えっと、一人息子が小さい頃に家を飛び出して、その後を追いかけた娘が行方不明になって、夫婦仲もどんどん冷めていって……。
もともと浮気性でドスケベな旦那に愛想を尽かして離婚を突き付け、家から追い出したらしい。
それが私のパパって事になるんだろうけど、今どこで何をしてるか分からないんだって。
ママが言うには、二人は昔かなり名の知れた冒険者だったらしいから、パパ一人だけでも生きていけるだろうとの事。
エロ親父っていうのはなんかやだけどどんな人なのかちょっと気になったりする。
いつかどこかで会う事があるだろうか?
とにかく、パパを家から追い出した後、パパが作った借金がある事が分かって家を売るしかなかったんだって。
それで家も無くなっちゃったママはちょっとした手持ちをやりくりしながらお金を転がして、ここで店を持つまでになったんだってさ。
商売の才能ありすぎじゃない?
どっちにしても苦労人だけどね……。
ずっとここに居てもいいんだよって言ってくれたけど、私一人の旅じゃないからってちゃんと説明して、お別れしてきた。
勿論永遠の別れなんかじゃなくて、また会いに来るからって伝えた。
最後にもう一度お互い抱きしめあったんだけど、それが一番暖かくて優しくて、私はまた少しだけ泣いてしまった。
なんだかずっとずっと、私はこうしてほしかったような気がしていた。
自分を見てほしかった。
優しく抱きしめてほしかった。
何も覚えてないのに変だよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます