ぼっち姫、人助けして一歩前進。
私達の船が港に到着すると、見慣れない船に若干港がざわついたけれど、リンシャオさんが降り立ち、近くの人に一言二言何かを言うと、蜘蛛の子を散らすように野次馬は去って行った。
「さっき何を言ったの?」
ライデンへ向かう道すがらリンシャオさんに先ほどの事を聞いてみる。
「あぁ……我々は王都の要請で動いている特殊な秘密部隊ヨ。我々の事を風潮するような事がアレバ貴様らの命は無い物ト思え。……そう言ってやったネ」
こっわ。
王都の要請で動いている、って所以外全部嘘じゃん……。
リンシャオさんの独特なヤバい雰囲気が、関わったら死ぬ感を助長してるんだろうな。
「おい、ライデンはもうすぐそこだぞ!」
サクラコさんは早く到着したいらしくその場で一人足踏みを始めた。
「ライデンを楽しみにしてるのは姐さんだけですぜ……? あっしは残念ながらこの外見ですから楽しめねぇですしなぁ」
サクラコさんが楽しみな街。
カエルさんがその外見だから楽しめない街。
やっぱり多分ろくなもんじゃないな。
いや、そもそもカエルさんはどこでもその外見じゃダメだろ……。
港からほんの三十分くらいでライデンの街が見えてきた。
あたりは陽が落ち始めだんだんと薄暗くなっていくのに、ライデンは逆に明るさを増していく。
夜なのだから明かりを灯しているのだろうとか、そういう問題じゃなかった。
なんというか派手なのだ。
「これ凄いね……めちゃくちゃ光ってて目が痛いんだけど」
「いいねいいねー! ライデンはこうじゃねぇとなぁ! とりあえず後で宿屋に行くからあたしはこっから単独行動させてもらうぜ!」
そう言うとサクラコさんは「ひゃっほーう!」と雑踏の中に消えていった。
「アイツにも困ったものネ。まぁあの変態は放っておくが正解ヨ」
「じゃああっしらは宿屋へいきやしょうか」
見る物が全て珍しく、煌びやかな街並みや、やたらと露出の高い女性。そして、お金持ちっぽい太めのおじさんたちが沢山。
「リンシャオさんはここ来た事あるの? ……って、あれ?」
きょろきょろしてる間にリンシャオさんとカエルさんは角を曲がってもう行っちゃったみたい。
この街は幾つものブロックに分かれて格子状に小道が沢山ある。
つまり、一度見失うと見つけるのが大変。
案の定角を覗いても二人の後ろ姿は見つからなかった。
「困ったなぁ。……まぁ誰かに宿屋の場所聞けば大丈夫だとは思うけど……」
「きゃぁぁぁっ!」
「騒ぐんじゃねぇよボケがっ!」
うわー。なんか典型的な揉め事の匂いがする。
私は人の波をスイスイっと避けて声がした方へ行ってみる事にした。
すると、案の定分かりやすく女の人がチンピラ三人に囲まれてる所だった。
派手な色の髪をした綺麗なお姉さんと、説明するのも面倒な感じの典型的な小悪党。
「俺達が遊んでやるって言ってんだろ?」
「だったら店に来いって言ってるでしょ!?」
「そんな金のかかる場所じゃなくてさ、もっといいところ行こうぜ?」
「そうそう。皆で一緒に楽しめる場所があるからよぉ」
あーあ。やっぱりどこにでもこういうアホは居るし、基本的に皆見てみぬふりをするもんなんだなぁ。
「ちょいちょいそこのチンピラどもー?」
「あぁん? 誰だ!? ……って、なんだ女か……しかし、めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか。この女の同僚か?」
「兄貴、この子も一緒に!」
「そうだな。こんな上玉滅多にいねぇからな」
男っていうのはみんなこんなのばっかりなのかねぇ?
「分かった分かった。じゃあ私が三人纏めて相手してやるからその子を離しな」
「だっ、ダメよ! 何言ってるの!? それじゃ貴女が……!」
おぉ! この女性はいい人だね。私の心配をしてくれてる。
やっぱりしっかりしてる人はしっかりしてるし、アホは死んでも生まれ変わってもアホなんだよなぁ。
「どうします兄貴?」
「兄貴! 俺この嬢ちゃんがいいよ!」
「……そうだな。今日はこのとびっきり上玉なお嬢ちゃんと思う存分楽しもうじゃねぇか」
「話終わった? じゃあさっそくだけどすぐしようよ」
「えっ、ここで!?」
「そう。こ・こ・で♪ それとも……そんな勇気は無いかなぁ?」
「あ、あああ兄貴をっ! バカにするな!」
「そうだそうだ! 兄貴なら余裕だぜ!」
「おいおい……マジかよ……。しかし俺も男だ! どれだけ人目があろうと据え膳は食わなきゃ男がすたるぜ!!」
「馬鹿っ! あんた辞めときなよこんな往来で……!」
女の子が私の腕を掴んで必死に説得してくるけど、私は今すぐここでしたいんだよね。
「ちょっと離れててくれる? すぐに終わるからさ♪ ほら、兄貴とかいう人だけじゃなくてアンタらも一緒においで」
「「「ふぉぉぉぉっ!!」」」
はい、おやすみなさい♪
「あ、あんた……凄いんだね。ゴロツキ三人を一瞬で……」
私は彼女のおごりで喫茶店に入ってカーフィー
という飲み物を飲んでいた。
ちょっと苦いけどそれが癖になりそう。
「聞いてるかい? 見た目はどこかのお嬢様っぽいのに……荒事に慣れてるの?」
「んー? まぁね♪ 飲み物奢ってくれたお姉さんには特別に教えてあげるけど私は勇者のパーティの一人だったからね」
記憶ないけど。
ちょっとだけかっこつけたくなってしまったのだから仕方ない。
「勇者のパーティだって!? じゃあうちの女将さんの子供と一緒じゃないの!」
……は?
こんな偶然ってある?
たまたま助けた女の子が働いている店の女将さんの子供が勇者パーティのメンバー?
って事は、私が一緒に旅をしていた人の母親って事だよね?
これは一気に核心に近付いた気がするぞ。
それは私の記憶の断片。
そして、私が私でなくなっていく序章のような気がして少しだけ、
少しだけだけど、恐ろしくなった。
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