ぼっち姫、船酔いしながら上陸す。
「おいプリン! 見えてきたぞ!」
私はサクラコさんに呼ばれて船の甲板に出る。
目の前には大海原が広がっているだけのように思えたが、確かに遥か彼方にほんの少し陸地っぽい何かが見える。
あれがユーフォリア大陸?
私達の頭上には白い大きな鳥が沢山飛び、吹き抜ける気持ちのいい風に身を任せていた。
私も髪をかき上げながらその鳥たちを見つめ……。
「うげぇぇぇぇっぇぇぇぇぇっ……」
「なんだよお前まだ船酔いしてんのか? 情けねぇ……」
「仕方ありやせんぜ。あっしだって我慢しておりやすが割と……うっぷ」
「はぁ……お前らちゃんとした船乗るの初めてなのか?」
わかんないよそんなの……でもロンシャンには行った事あるみたいだし私は乗った事あるんだろうけど……うえぇぇ……。
「あっしはありやすぜ。……と言ってもほんの数回ですがね」
数回でも乗った事があったり、乗った記憶があるんだったらいいけどさぁ……私は完全に頭白紙状態だからこんなに気持ち悪い事になるとは思ってなかった。
甲板で外を眺めているよりも自室で横になっている時の方が気持ち悪いのはどうしてだろうね。
周りが見えてる方が頭の中で平衡感覚が仕事してくれるのかなぁ。
私は、あの地下闘技場半壊事件から半年近く、ずっとリンシャオさんにこき使われていろんな仕事をひたすらこなしてた。
地下闘技場の修復作業は勿論、街の復興業務、ごみ拾い、ガラの悪い連中の始末などなど。
特に最後のは結構大規模な組織で変な薬とかを売りさばいてる糞野郎だったから頑張ってぶっ潰した。
衣食住に関しては保証してくれて、ほぼボランティア状態で与えられた仕事をこなし続けた。
その過程で近所のおじさんおばさん、おじいさんおばあさん、それにやたらとスカートを捲ろうとしてくるクソガキ共なんかと仲よくなったりして、ぶっちゃけとっても幸せだったんだよね。
なんていうか、記憶なんてなくってもこうやって良くしてくれる人達がいて、その中で私も頑張って……誰かの役に立つことができて、それを感謝されて……。
そんな毎日ってさ、結構こう、なんていうのかな。きっと記憶なくす前の私がしてこなかった生活なんじゃないかな。
全部が全部新鮮で、暖かくて……。
たまに遭遇する魔物も全然危なくないし、むしろおとなしくて。
気が付いたらどっかいっちゃったけど。
サクラコさんが言うには、最近になって魔物が急におとなしくなったのだとか。
魔物がおとなしくなってに人間と敵対しなくなるのならそれが一番だよね。
無駄な争いが減るし。
そういえば私もほとんど魔物とは戦って無い気がする。
むしろ悪い人間ばっかり。
下手に力を持ってる人間の方が悪事ばっかりするから大変だ。
結局のところ、八割くらい負債を返した所でリンシャオさんは「もういいヨ」と言って許してくれた。
それでも少しの間は、復興が進んだ街を離れるのが嫌で滞在していた。
私のわがままで滞在を伸ばしてしまったが、私の記憶を取り戻そうとしてくれているサクラコさんが、私の妹を探しにもいきたいと言っている訳だし、今更もういいなんて言い出せなかった。
「アンタらに船をくれてヤルわけにはいかナイが、ユーフォリアから同盟交渉の提案が来てるカラ、その時に一緒に連れて行ってやるヨ」
リンシャオさんはそう言って私達を船に乗せてくれた。
今になって気付いたんだけど、ユーフォリアから同盟の提案って、王都からって事でしょ?
なんでそれがリンシャオさんに来るの?
国の偉い人の所にいくもんじゃないの?
てかロンシャンは王室制だったみたいだけど、もう滅びちゃって今では民主主義な国になった。
なのになんで代表がリンシャオさん?
よく分からないパイプが多すぎるんだよなぁあの人……。
そんな事をぼけーっと考えていると、港がもう目前まで迫っていた。
「さて、この港の少し先にライデンって街があるんだ。とりあえず今日はそこで一泊する事になってるから。……今夜はお楽しみだぜ!」
何がお楽しみなんだろ。
娯楽が充実した街なのかな?
「まったくサクラコにも困ったものネ。本当ならすぐに王都までいきたい所なのにあいつのワガママで今日は一泊ヨ」
ずっと自室に籠っていたリンシャオさんが甲板に出てくるなりげんなりした声を出す。
「いやいや。お前もその様子だと気持ち悪くて全然休めてないだろ? まさかお前まで船に弱いとはね」
「うるさいネ。ワタシはお前と違ってデリケートなのヨ」
今回王都ディレクシアへ向かうのはリンシャオさん、サクラコさん、カエルさん、そして私。これだけ。
ロンシャンからもっと人員連れて来なくていいのか聞いたけど、
「逆にロンシャンの人間が多いといろいろ警戒されてしまうネ。勇者パーティの一員だったプリンが一緒なら安心ヨ」
私はボディーガード兼信用の為のカードって所だろうか。
「ところでサクラコさん。今日泊まるライデンって所はどんな街なの?」
「ふっふー。まさにあたしの為にあるような街だぜ!」
……あぁ、多分ろくでもない場所なんだな。
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