魔王様の口論大会。
「畜生これなんとかなんねぇのか!?」
アシュリーが障壁をガンガン殴り出した。
結構ぶっきらぼうな対応をしていた割にはなんだかんだあのメリーって子の事が心配らしい。
私の事はナーリアちゃんが必死に説明してくれて、一応は保留って事になった。
私の中に居る姫さえ無事に帰ってくるならそれでいいって。
勿論出来る限りの事はするつもりだけど……私、ちゃんと出来るのかな?
もし姫って人を助ける事が出来なかったら……今ここに居るみんなは私の敵になる。
ナーリアちゃんでさえ、きっと私の敵になる。
私に敵対の意思はなくても、罪は消えない。
私には皆に恨まれる理由があるし、皆には私を恨む権利がある。
無事に私から分離できるかどうかが重要だけど、正直私には私の中のどこにその姫がいるのかも認識できないし、分離ってどうしたらいいのかも見当が付かない。
ここは正直に言うしかないのかもしれない。
私は、障壁をこえる方法を必死に考えてるアシュリーにそっと声をかけた。
「貴女を大賢者と見込んで頼みがあるの。こんな時に悪いんだけど……」
「んぁ……? なんだよ……どうも慣れねぇなぁ……。ナーリアが平気だっていうからとりあえず信じてやるけどよ。……で、なんだって?」
アシュリーは障壁を調べながらもこちらをチラっとだけ見て話の続きを促してきた。
「……ローゼリアの調査が終わったら魔物フレンズ王国に来てくれる?」
「はぁ? そこに住めって事か?」
「違う違う! 私ね、本当に身体の中から姫って人をどうにかして取り出したいの。だけど私だけじゃ知識が足りなすぎるから……」
アシュリーは障壁を調べる手を止めてこちらを正面から見据える。
「……なるほど。あんたの身体から姫を分離する手伝いをしろって事か」
やっぱりこの人はちゃんと話せば理解が早い。私は無言で頷く。
「それは構わないが……あんたの身体を隅々まで調べる事になるぞ」
「構わない。姫分離を最優先でお願いしたいの」
「……お前、私がその身体を調べるふりしてめちゃくちゃにしたりするとか思わないのか?」
「えっ? なんで? 姫を分離しなきゃならないのに私殺す意味ないじゃん」
「まぁそれはそうなんだが……私が姫を分離して、そのままお前の身体をどうにかする可能性だってあるだろ」
……あっ、そういう事か。
要するにこの人はあれだ、簡単に信用しちゃっていいのか? って言いたいんだね。
「まぁその時はその時だよ。私に恨みだってあるんだろうしさ」
「お前さぁ……馬鹿なのか? 自分が死ぬかもって話をそれはその時って頭おかしいだろ」
失礼すぎる! なんで私こんな馬鹿にされてるの……?
「私はさ、以前の事は覚えてないけどよっぽど酷い事沢山してるんだよ。その罪って、私が覚えてない。じゃ済まない話でしょ? だから、やるべき事さえちゃんと完了するなら私がどうなろうと構わないよ。仕方ないじゃん」
私がそう言うと、アシュリーはすっごく怖い顔で睨んできた。
「ふざけんなよ。むしろ私は姫を分離したあとアンタの記憶を取り戻させて悪人に戻してからぶち殺してやりたいんだ。何も知らないアホの子を殺したって楽しくもねぇ」
うっわ。なんだこの人……。
っていうか、何も知らない私を殺したりしないって事だよね?
口が悪いだけでいい人じゃん。
「アシュリーってさ」
「なんだよ」
「ツンデレだよね」
「はぁ!? 今ぶっ殺されたいのか!?」
「私死んだら姫助けられないよ? いいの?」
「てめぇ……覚えとけよ? 身体調べてる時に少しくらい手が滑るかも知れないからな?」
「はいはい♪ じゃあ国に戻ったらよろしくね」
この人とは案外仲良くなれそうな気がする。
勿論姫が助けられれば、だけどね。
「それとお前の国名誰が考えたんだ? クソダサいな」
「なんだとぶっ殺すぞ!」
「うわっ! なんだ急に……お前の沸点が全然わかんねぇよ」
前言撤回!
私の国の素晴らしすぎるネーミングセンスを理解できない人とは絶対に仲良くなれない!
「マスター!」
「おねーさまー!」
お、様子を見に行った二人が近くまで戻ってきてるみたい。
「その障壁多分転移ですり抜けられますよー!」
メリーがこちらに向かいながらそう叫ぶと、アシュリーは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
きっと、そんな事にも気付かなかった自分を恥じてるんだろう。分かる。分かるよその気持ち。
てか転移で中に行けばいいだけって酷すぎる。
本当だったら真っ先に試してみるような事なのに……。
「……まぁ、そういう事も、あるよね」
「……そう、だな。そういう事も、あるよな」
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