魔王様の同盟提案。
「ちょっとなんでまたどっか行っちゃうのよ!」
せっかく仲良くなるために握手しようとしたら消えちゃうんだもんなぁ。
「そんなに私の事殺したい?」
私は再びあのナーリアとかいう弓士を迎えに城門前にやってきた。
彼女は門の外だからか私への殺意を隠そうともしない。
「当たり前です。貴女は私の大切な人を奪った。許せるはずがありません」
あちゃー。それは許せなくて当然だ。
覚えてないなんて言ったら怒っても仕方ない。
「……ごめんなさい」
「謝って済む問題ではありません!」
「その人は、私が殺したの?」
一瞬、ナーリアの眉間に深い皺が刻まれ、そしてすぐに悲しそうな表情に変わる。
「本当に、覚えていないのですか……? 貴女は姫を……その体の中に取り込んだのですよ?」
えっ。私が人を体の中に取り込んだ?
なにそれ気持ち悪すぎる……。
「な、なんで私そんな事したの……?」
「私に聞かれても困ります! 姫の力を手に入れる為でしょう!?」
うぅ……これは話が出来るような状態じゃないぞどうしよう。
「もし、本当にその人が私の中に居るっていうなら、全力でその人を私から分離する努力をする。その方法を考える。だから話を聞いて」
私には出来る限りの誠意を見せるしかできない。
「……それが、可能……なのですか?」
分からない。分からないけれど……。
「少なくとも、出来る限りの手は尽くしてみせる。信じて。……って言っても無理か……」
「いえ、私は特別魔物が憎い訳ではありません……姫さえ無事に返してくれるのであれば……貴女の事は許せないけれど、姫が帰ってくるなら……」
この人にとって姫って人は余程大切だったんだろう。
私はこの人の気持ちに応えなきゃならない。
「……約束する。なんとか頑張ってみるから。だから……お願い。もしその人の事どうする事も出来ないって分った時は、私の事殺してくれて構わない。抵抗はしないから」
覚えてないとはいえ、私がやった事には変わりない。だったら責任はとらないといけない。
「貴女……本当に人が変わってしまいましたね……」
「でも、一つだけお願いがあるの。私を殺すってなったら、その前にヒルダさんって人を探してほしい」
「めりにゃんを? 何故です?」
……めりにゃん? それがヒルダ様?
「その人、私が追い出した元魔王だって聞いて……。もし私が死ぬなら前の魔王様に帰ってきてもらわないと国の皆が困っちゃうから。今ね、人を襲わないですむように皆で一生懸命農業したり、自給自足で頑張ってるの。だから……」
皆私の事を信じてついてきてくれた。
それがやっと形になろうとしているんだ。
だから私がもし途中でリタイアする事になるなら、後を継いでくれる人が必要。
「ヒルダさんはとってもいい魔王だったみたいだから、きっと私のかわりに皆を導いてくれると思うの。人と魔物が争わなくていい世界を作ってくれるはずだから。だから、お願いしてもいい?」
ナーリアは顔をくしゃくしゃにして困ったようにゆっくり頷いた。
「わかりました……。生憎とめりにゃんは今行方不明ですが……私も約束します。必ず見つけると。ですが、そうならないようにまずは貴女が姫を返して下さい。私は……それで充分です。貴女に悪意が無い事は信じましょう……むしろ、今の貴方がやろうとしている事はあの人の……」
ナーリアはそこで言葉に詰まってしまったため、何を言おうとしたのかは分からなかったけど、少しだけ私の言葉に耳を傾けてくれた事が嬉しい。
私も出来る限りの事はしてあげないとだね。
「じゃあ、とりあえず王様の所へいこう?」
「そうですね。同盟について、私も賛成いたしましょう」
「なるほど……魔物は金輪際人間を襲わない……か。確かにここの所魔物の姿が見えなくなっていた。それはお主が魔物達の意識改革を行っていたおかげだったのだな」
結構王様は物分かりがよさそう。話が早くて助かるよ。
「うん。そういう事になるね。でも、魔物全部を一か所に集めきれては居ないと思うんだよね。もしそういうはぐれ魔物が人を襲ったら、私達もその子たちを裁く覚悟はあるし、人間側で対処してくれても構わない」
「ふむ……。同盟、と言ったがそれは魔族と戦う為の共闘関係と思えばいいのか?」
勿論それはある。でも、それだけじゃない。
「魔族に対する協力は勿論だけど、欲を言えば物流とかそういう面でも協力しあえたら助かるかな。私達も食料をきちんと確保できないと国が破綻しちゃうから」
「それはもっともな意見であろう。我としてはそれについては構わんと思っておる。……だが」
だが、と来た。
ここからが本番ってやつだよ。多分あちら側からもいろいろ条件を出してくるだろうから、それをどこまで受け入れるか。
そして無茶な事言われたらきちんと断らないと。
「物流関係の協力に関しては魔族の件が片付いてからでないと表立った動きは出来ぬ。こっそりと多少の援助はできるだろうが、堂々とやるには周りの街からの理解を得るのが難しいだろうからな。だが、魔物からの被害がなくなり、魔族を滅ぼす為に協力してくれたともなればこちらも表立って動く理由が出来るであろう?」
……へ?
「それだけ??」
「何がだね」
「条件だよ条件。人間側の条件それでいいの?」
拍子抜けもいいところだ。
もっといろいろ迫害じみた展開になるかと思ってた。
「勿論構わぬさ。人間に被害が出なければこちらとしては問題ない。あとは民衆の意識を変えさせないといけないからその為に時間が必要というくらいだ。その代わり、同盟がそちらから破られるような事があれば全力で戦争をするしかなくなるが」
その一瞬相当怖い顔になってた。この人も伊達に王様じゃないって事だね。
「ありがとう。約束する。私が、必ず魔物フレンズ王国を立派に人間の同盟国にしてみせるよ」
「……それは頼もしい。しかし……その国の名前は他に何かなかったのかね」
え? めっちゃいい名前だと思うんだけど。
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