大賢者は実験してみる。


 とりあえず私は根っこの中から人型の何かを引きずり出してみた。


 お、重い……。

 とてもじゃないが私が持ち運べるような重量じゃないぞこれは。


 とりあえずなんとか身体能力を限界まで強化しても私のベースが貧弱すぎるので自力では少し引き摺って根っこから出すのが精いっぱいだった。


「ふーっ! ふーっ! 重すぎるだろこいつ……っ!!」


 何で出来てるんだかさっぱり分からない。

 とりあえず詳しく調べる為に私の家へ運ぼう。

 転移魔法なら一発だ。



 ……よかった。

 私の家ちゃんと無事だった。


 全体的に埃が積もっているものの私の部屋は当時のまま残されていた。


 この場所なら出来る。

 この人型のアーティファクトについていろいろ調べてみよう。


 数日たった頃、エルフの生き残り共が私がこの家に戻ってきている事を知って大騒ぎしていたのだが、やはり私が考えていた通りかなりの月日が経過していたらしい。


 大体半年ほどが経っているらしい。

 エルフ共を許した訳ではないが、今はそんな事はどうでもいいので必要な情報だけ聞いてあとはもう関わらない事を条件に許してやる事にした。


 やはり姫は死亡したのだろうという事。

 もっとも、私はその件については懐疑的だ。

 メアが生きているのならばその中から姫だけを取り出す事が可能かもしれない。

 それと、私はずっと行方知れずだったとの事。

 私は知らない場所で目覚めた。恐らくあの魔王か自称神が何かをしたのであろう。


 まぁそれは大体見当がついていた事なのだが、エルフ共の証言によって確定された。

 大事なのはそこだ。


 仮定の想定が確定的になっただけでこちらもすべき事がはっきりしてくる。


 まず魔王の生死確認。そして生存しているなら姫を取り戻す方法を探し、構築する。


 その為にもまずは力が必要だ。

 魔王の生死確認は別途で進めつつ、とにかくこいつの解析を進めないと。


 こいつの外見はほとんど人間と変わらない。継ぎ目なども特に見当たらず、この異常な重さが無ければ人と勘違いするほどだ。


 まずこの髪の毛。いったい何でできているのだろう?

 とてもサラサラと美しい長髪で、姫よりも明るい金髪。

 人毛ではない事は確かだが、素材が分からない。一本一本が凄まじい強度を誇っており、私が何をやっても切断する事は不可能だった。


 そして、その顔も美しくあどけない少女。とても作り物とは思えず、まるでただ人が眠っているだけのようだ。


 みすぼらしい布のような物は羽織っていたが、そちらはただのぼろきれだったので今ははぎ取ってある。

 身体の隅々まで調べてみたが、一か所を除きおかしな点は見当たらない。

 透き通るような白い肌、表面はきちんと柔らかく、どう見ても人肌で、うっすらと温かい。


 表面を削り出して組織を調べようとしても、その柔らかい肌に傷一つつける事ができない。


 これは造りを調べるにも限界がありそうだ。

 そうなると、とにかく起動させるしかないかもしれない。


 起動させる事によって面倒な事になるだろうなっていうのは分かっている。

 しかし、何も進展がないまま時間だけが過ぎていくよりここで一つアクションを起こしてみるのは有りだ。

 停滞していた物が動き出す可能性だってある。

 万が一こいつが暴走してしまうようなら……その時はいろいろ諦めるしかない。


 ……よし、悩んでても仕方ないからとにかくやろう。


 私はその体の、人間とは違う部分を注視する。


 人間で言う所のへそのあたり。そこにぽっかりと穴が開いているのだ。


 正確に言うと、へその中に小さなスイッチがあってそれを押したら開いた。

 何かを入れる場所なのだろうが、今は何も入っていない。

 おそらくここに動力源を入れて、動く人形型アーティファクトなのだろう。


 アーティファクトがアーティファクトを動力源にするというのも変な話だが、恐らくここにはもともと別のアーティファクトが入っていたのだろう。


 私なら多分動かせる。この手の物は大抵魔力で動く。それをアーティファクトで補っていたのなら……。


 私は部屋の机、その引き出しから疑似アーティファクトとを取り出し、魔力の充電量を確認する。

 以前魔力を注いであったのでほぼ満タン。念の為に追加で少しばかり魔力を込め、更なる念のために私の命令一つで爆破できるように魔法をかける。


 アーティファクトが暴走した時、こいつ自体は破壊できずとも動力源を潰せば停止させる事も出来るだろう。


 おそるおそる疑似アーティファクトの球体を、窪みに入れてへそのスイッチを押す。


 ウィーンと微かな音がして、球体が体内に取り込まれていった。


 そして……。



「貴女が私のマスター?」


 少女人形が目を開き、その青い瞳で私を見つめ、小さな口を開き私に問う。マスターかと。


「……ええ、そうよ」


「……そう、おやすみなさい……すぅ……」


「寝るんじゃねぇっ!!」


 ぽかっ!


 思わず私はその頭をどついていた。堅すぎてこっちの手が痛い。


「……ひどいです。マスターは何故私に暴力をふるうのです?」


「あぁ……こりゃまずいぞ」


「まずい? そうだ、私お腹がすきました。マスター何か食事を下さい。野菜は苦手なのでお肉かお魚が食べたいです」


 まずい。これはまずい。


 考えていた方向性とは全く別の方向で、考えていた以上に面倒くさいぞこいつ。


「ところでここはどこですか? ローゼリアからは遠いのですか?」


 ……は? なぜここでローゼリアが出てくる? そこに、何かがあるのか?


 確か私が記憶しているアーティファクト所在地の中にローザリア方面のがあった気がするな。


 調べる価値はあるかもしれない。


「私おうち帰りたいんですけど……あ、その前にお風呂借りてもいいですか? あ、お腹すきましたご飯まだですか?」


「わかったわかった。いろいろ言いたい事は山積みだがとりあえず飯を食え。そして風呂に入れ。そしたらいろいろ聞かせてもらうからな」


「眠くなってきまし…………すぅ」


「寝るんじゃねぇっ!!」


 ……誰か私を助けてくれ。

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