ぼっち姫、かぶとむし。


 私達は村から出て、辺りを見渡すと早速魔物の姿を発見した。


 結構小型の魔物で、昆虫みたいな姿をしていた。見た感じ多分言葉は通じないだろう。

 私とサクラコさんは一度木の影に隠れて、蛙さんが魔物に近付く。


 蛙さんってば呑気に鼻歌を歌いながら口にくわえた枝みたいなのをピコピコさせて軽快に歩いていった。


 魔物はすぐに蛙さんに気付いたけど、同じ魔物だってすぐに気付いたみたいで攻撃してくるような事は無かった。


「ふーむふむふむなるほどそういう事ですかい」


 何か分かったんだろうか? と、私とサクラコさんが様子を伺っていると、ふいに蛙さんがこっちを見て手招きをしてくる。


「サクラコさんどう思う? 行っていいのかな?」


「呼んでんだからいいんだろ。行くぞ」


 サクラコさんは迷わない。

 基本的に即決即行動。

 こういう所は純粋に見習いたいと思う。人として絶対に尊敬は出来ないけどね。


 サクラコさんは本当に何も気にする事なく蛙さんと魔物の方へスタスタと歩いていく。


 私はといえばもうちょっと木陰で様子を見ていた。

 するとどうだろう。サクラコさんは魔物の所まで行って蛙さんと一言二言会話してから、その魔物の頭を撫で始めた。


「おーい。プリンもこっち来いよ。こいつ意外と大人しくて可愛いぞ」


 ……魔物に敵意は無いらしい。


 私は恐る恐る魔物に近付いてみるが、昆虫みたいな魔物は良く見ると大きなカブトムシみたいな外見で、私に気付くと頭から生えた角をこちらにこすりつけてくる。


 ……これは甘えてるのか?


「ねぇ、蛙さん。これってどういう事なの? 魔物ってもっと危ないものじゃないの?」


「あっしにもよく分からないんですがね、ここにいる魔物はどうやらみんなこんな感じのようですぜ」


 魔物としてそれでいいのか?


「こいつが言うにはこの林の奥に洞窟があって、そこから何か妙な気配がするらしいんでさぁ。この近辺の魔物はその気配に引き寄せられて来たらしいですぜ」


 へぇ。その妙な気配っていうのなんだろう? てかむしろ蛙が甲虫と話せるって事の方が驚きだよ。


「じゃあその気配の元を突き止めて排除すりゃ魔物も散るって事でいいのか?」


「そういう事になりやすね。ここにいる魔物達は一切敵意はないみたいですんで原因さえ解消できれば大丈夫でしょうや」


「じゃあさっさとその原因ぶっ潰しちまおうぜ。このカブトムシ連れていけば他の魔物からも襲われずに済むだろ」


 そう言って、サクラコさんはおもむろにカブトムシを背中に背負う。


 うっわ。

 甲虫ってさ、結構可愛い感じもするけど足とかよくみると意外とグロいんだよね……。

 ちっちゃい棘とかあって結構痛いし。


 それを全く気にせずにひょいっと背中に背負うんだからこの人は凄い。


 良く言えば細かい事を気にしない。悪く言えば何も考えていない。


 そんな感じかな。

 別に良くも悪くも凄い人だと思う。

 どのくらい強いとかはまだよく分からないけど、そういうんじゃなくて人としての力に溢れている。

 生命力、っていうのかな。


 なんだか私にはそんな精神的なアクティブさが羨ましい。


「ほれ、さっさと行くぞ。まだお日様が昇ってるうちに解決してやろうぜ」


 カブトムシがそれに応えるかのようにその足をわさわさと動かした。


「この子も喜んでやすぜ」


 ごめん、私はまだ虫の感情までは読み取れないわ。


 サクラコさんの先導で林を進むと、どんどん暗く、光が射しこまなくなってきてじめじめが半端ない。


 目が慣れるまで時間がかかって足元ばっかり注意してたから周りが今どうなってるかまで気が回らなかった。


 気が付くと私達の周りにはいろんな姿をした魔物だらけになってた。


「ひっ!」


「姫さん心配はいりやせんぜ。この魔物達も戦う気は無いみたいでさぁ」


「こいつがさっきから妙に羽根を振動させてるからそれで他の奴に何か伝えてるのかもな」


 サクラコさんの背中でカブトムシがぶぶぶぶっと羽根を震わせていた。


 ……魔物さん達は確かに私達を襲ってきたりはしなかったし、特に私達に興味も無いみたいだった。


「なんでこの子達はこんなところに……?」


「おいおい。それを今から探りに行くんだろうが。ほれ、この洞窟の中に何かあるみたいだぜ」


 サクラコさんが顎でクイッと指した方を見ると、めちゃくちゃうさんくさい洞窟がぽっかりと口を広げていた。


 入ったらばくりと食べられちゃいそう。


 そして私はわらわらと集まっている魔物達に見送られながら、真っ暗な洞窟の中へと第一歩を踏み出して……。



 転んだ。

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