妹的に一挙両得。


「実は数日前からこのラージュの短剣にぼんやりと少女の姿が映るようになっていたのです」


 私が短剣の刀身をいろんな角度から眺めていると、キャナルがそんな事を言い出した。


「それが、わたし?」


「このタイミングで貴女が現れた事で、もしやと思っていたのですが……今では明確に貴女の姿が投影されています。貴女がそれを持つ事に、きっと何か意味があるのでしょう」


 ……この短剣を守るためにこの人達は存在するって言ってたけど、これ私が持ってっちゃったらどうなるんだろう?


「……この短剣持ってったらみんな消えちゃうとかやめてよ?」


「何を馬鹿な事を。私達は確かにそれを守るために存在しているが、使命を終えたらその時は楔から解き放たれ自由になるだけだ。貴様に預けるのは気に入らんが、まぁ……我々としてはむしろ楽になる」


 シャリィが相変わらずぶっきらぼうにそんな説明をしてくれた。


「なるほどなー。でもシャリィ、あなたはまだ仕事あるからね?」


「……は? どういう事だ??」


「シャリィ、その方の言う通りです。貴女にはまだやるべき事が残っていますよ」


 私の言葉にキャナルも同意してくれた。やっぱり賢いお姉さんは違う。


「なっ、まさか……」


「そのまさかですよ。だってこの方……えっと……」


「ショコラ」


 そういえばまだ名乗って無かったっけ。


「ショコラさんはジラールの集落の場所も知らないんですよ? この集落で今一番頼りになるのはシャリィです。貴女がショコラさんを案内するのは必然では?」


「ぐっ……不本意ながら、そう言われては反論のしようが……」


「決まった? 本当はキャナルさんの方がいいんだけど、まだだったからシャリィにお願いしようかなって思ってたんだよね」


 シャリィが訝し気な顔でこっち見てくる。


「……ショコラ、と言ったな。今のはどういう意味だ??」


「キャナルは一度頂いたから、次はシャリィかなって」


「きっ、ききき……貴様!! キャナル様! 私を、私をこんな奴に差し出すおつもりですか!?」


「……」


「キャナル様! なんとか言って下さい! キャナル様!!」


「シャリィがダメならキャナル連れてく。私の栄養補給が必要だしこの里を守るんだから正当な対価でしょ? どっちにする?」


 タダ働きはしない。

 私はほら、プロだから。


「シャリィをよろしくお願いします」


「キャナル様!? きゃ、キャナル様ぁぁぁっ!!」


 決まったようなので私はシャリィの首根っこを捕まえて引きずって行く。


 背後からキャナルの「……ごめんなさい」的な言葉が聞こえてきた。


 そんな悪魔に生贄を差し出してるみたいな言い方やめてほしい。


 私はただ仕事に対する正当な報酬をもらうだけ。栄養補給しなきゃがんばれないから。


 シャリィを引きずったまま集落の中を通り、少し開けた場所まで移動する。


 凄まじい勢いでシャリィは人々の注目を集めていたが、私が視線を向けると慌てて逃げていく。


 ……なんだか本当に私が悪者みたいじゃん。


「ねぇシャリィ」


「ひっ、な……なんだ?」


 めちゃくちゃ怯えたような瞳でこちらを見てくる。


 だからそういうのやめてよ。

 たかまるんだってば……。


 ……とりあえず、やる事やってからにしよう。

 成功報酬の方が遠慮なく頂けるし。


「でさ、そのジラール? ってとこはどのへんなの? こっちの方角であってる?」


 無理矢理引きずってきちゃったから適当な方向へ歩いて来てしまったのだが、シャリィは何度も首を縦に振りながらこちらを警戒していた。


「大丈夫。何もしないから……今は」


「今は!?」


「……話進まないからちゃんと案内して。やる気あんの?」


「……貴様にやる気を問われるとは……くそ……仕方がない。今だけは頭を切り替える事にしよう……ジラールへはこちらで合っている。万が一あちらから攻めてくるような事があってもここを通る筈だから入れ違いはないだろう」


 ……じゃあこのまままっすぐ行けばいいって事ね。簡単簡単。


「……道も分かった事だし、私は帰ってもいいのでは……?」


「……後がいい? それとも今がいいって事?」


 私がゆっくりと、一歩シャリィに近付くと彼女は涙目になりながら「ご、ごめんなさい! 違います許して下さいごめんなさいごめんなさい!!」とわめき出してしまった。


 あぁ……やばい。

 嫌がられるとほんと我慢できなくなりそう。


「私も一緒に戦うから! だから許して!」


「……ん。とりあえず我慢する」


 ご褒美は後にとっておこう。


「……でだ、とりあえずこの先にジラールの集落があるのだが、そこの一番奥、大きな建物の中にジラールの巫女が居る筈。集落をぐるっと回って裏手から一気に巫女を襲撃しよう。それが一番無駄な争いをせずに済むはずだ」


 ……何を言ってるんだこの子は。


 私達は谷のようになっている場所を川に沿うように南下していく。

 やっぱり川の近くに集落を作るのが基本なんだろう。


 私も水なかったら干からびちゃうし、砂漠は本当に危なかったな。


 ってそんな事はどうでもよくて、勿論私のやるべき事は一つだけ。


「勿論正面突破するからね」


「な、なんでわざわざそんな……考え直せ! 無駄な争いをする必要は無いだろう?」


 必死になって食い下がってくるけど、そういう事じゃないんだってば。


「……だって、そこの集落もみんな女なんでしょう?」


「貴様……まさか、まさか……」


「私はやるべき事をやるだけだよ? ヤるべき事を、ヤりたいようにヤるだけ」




「……キャナル様……私、貴女を恨みます」


 シャリィは肩をがっくりと落としながらそう呟いた。


「わたしのこころがほくほくして、目的も達成できる。一挙両得。覚えておくといいよ。人ってね、どんな状況下でも楽しまないとダメなんだよ」


「貴様の楽しみはゲス極まってるがな」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る