大賢者は回収してみる。
さて、これからどうしたものか。
変な爬虫類を倒したはいいものの、結局皆と合流する手立てがない。
……そういえば、あの爬虫類魔族はこんな所に何をしに来たんだ?
確か……そうだ。
クリスタルツリーに用があるとかそんな事を言っていた気がする。
こんな魔素が枯渇した木に一体なんの用事があって来たというのだろう?
一応、調べておくか。
私はストックしてある水玉……先ほどあいつの口の中に放り込んだやつをもう一つ取り出し、クリスタルツリーに向かって投げ、上空で圧縮を開放する。
ざっぱぁぁぁぁん!!
凄まじい量の水がクリスタルツリーに降り注ぎ、木の表面に飛び散っていたデッニーロの肉片やら血液やらを洗い流す。
「……失敗した」
今回は障壁を展開するのを完全に忘れていたため、全身ずぶ濡れになってしまった。
水流に流されなかっただけでも良しとするべきか……となんとか自分を納得させて、自分の周りの空気から水分を抽出する魔法唱える。
ずぶ濡れだった服から一気に水分が抜き取られ、きちんと乾いた状態に戻るが、一度濡れた服というイメージからかなんとなく気持ち悪い。
やる事終わったら一度家に帰って着替えようかな……。
私の家、無事かなぁ……?
そんな事を考えながらクリスタルツリーに近付き、濁った幹を覗き込むと、なにやら変な物が見える。
「……アレは何だ?」
木の幹の中、というか正確には地面に埋まっている部分。
根っこに近い部分に何かある。
デッニーロはこれを回収しに来たという事だろうか?
ここに何かがあったとして、どうしてこの世界に帰ってきたばかりの魔族が知っている?
推測できる可能性は二つ。
誰かがここに何かがあると吹き込んだ。
もう一つは、魔族がこの世界に居た頃からここに存在していた。
このどちらかだろう。
もし誰かに吹き込まれてきたと仮定した場合、それはおそらく魔王か、或いは……神。
元からここにあった場合は、一つ疑問が残る。何故当時ここから取り出さなかったのか。
この場合については更に可能性が分かれる。
その当時には必要なかった。
あるいは、意図的にここに封印されていた。
それはそれだけ危険な物かも知れないという事だ。
そして、それらを総合して考えた時に一番可能性が高いのが……。
アーティファクト。
仮に魔王か神に吹き込まれたのだとしても、あいつらなら……特に魔王ならばアーティファクトの回収をさせる理由はある。
例えば、今消耗していて自分が動けない代わりに強力なアーティファクトを回収させる。
しかし、魔族がそれを使って自分に歯向かう可能性もあるか……。
ならば当時からここに眠っている、あるいは封印されていた。
その可能性が一番高いかもしれない。
どちらにせよこのままにしてはおけない。
この状況ならばガーディアンなど出てこないだろうし、これを見ないふりしていたら他の魔族が回収しにくるかもしれない。
私が回収するしかないだろう。
……面倒な物じゃないといいんだけれど。
むしろ、純粋な力に関係するような、それでいて扱いやすい物ならば魔族や魔王に対する切り札にすらなりえる。
私はクリスタルツリーに向かって爆発系の魔法をぶつけてみるが、爆炎や煙が消え、やがて傷一つ無い幹が現れた。
「……これだけ枯れ果ててもやはりクリスタルツリーはクリスタルツリーって事か」
本来クリスタルツリーを切り出す時は出来る限り細い枝に、魔力を込めた武器で切りつけ続け、幾つも破損した頃にやっと枝一本獲得できる。そんな代物だ。
さて……あの根っこ部分までどうやって削り出したものか……。
いくつか魔法を試してみたものの、どうにも傷を付けるのがせいいっぱいでとても太い幹をどうにかする事はできなかった。
確かクリスタルツリーは表面が非常に硬化していて、内部は魔素に溢れている。
現在その魔素は失われているのだから表面さえ砕ければいいはずなのだが……。
……そこで、ちょっと思いついた事を実験してみる事にした。
私は上空に向けて可能な限り高火力の魔法を解き放つ。
そして、同時詠唱していた圧縮魔法を、水を圧縮していた要領でぎゅっと圧縮し、手のひら大の球体にする事に成功した。
「……やれば出来る物ね。これを量産すれば簡易的な爆弾を作る事も……いや、今はそんな事よりも……」
問題はここから。
もし成功したとして、中にあるアレは無事だろうか?
万が一だが、壊れてしまうような事があれば……相手にわたらなかっただけマシだったと諦めるしかない。
私には取り出す方法がこれしか思いつかないのだ。
無事でいてくれよ……!
球体に圧縮した爆発魔法に、転移魔法をかける。
その転移先は……魔素を失い空洞になっている筈のクリスタルツリーの幹の中だ。
私は念の為に自らの正面に障壁を張ってから、その圧縮を開放する。
「うわああああああ!!」
凄まじい爆音が響き、そして内側に爆発エネルギーを充満させて、限界値を超えた幹が大爆発を起こした。
クリスタルツリーの破片が凶器となって私目掛けて豪雨のように降り注ぐ。
「あっぶねぇ!!」
正面から凄い勢いで飛んでくるそれらを全て障壁で防ぎ、その後すぐに障壁を頭上へと移動させる。
上空へ吹き飛んだ欠片が今度は本当に雨のように上から降り注いできた。
一歩遅ければハーフエルフのはやにえだ。
やがてそれらが落ち着き、辺りが静寂を取り戻す。
「……ふぅ、なんとかなったわね。アレは……? 壊れてないといいけれど」
粉々になった木の幹へ近付き、根っこの中を覗き込む。
今まで濁っていて良く見えなかった物が、肉眼ではっきりと見えた。
「……うわ……これ絶対面倒なやつだ……」
そこにあったのは、おそらくアーティファクトなのだろうが、どう見ても……。
人の形をしていた。
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