らいごす君の大噴火。
「パパおかえりー♪」
おそらく我はそのパパとやらに見つかってしまうと面倒な事になりそうなので柱の陰に身を隠しつつ様子を伺った。
魔法で動くぬいぐるみだなんて言われて納得する能天気な大人はおるまい。
「おお、リナリー。今日はどうだい? 具合の方は……」
「うん♪ 元気だよ? らいごす君も居るし!」
くっ、これが子供の恐ろしい所なのである。
急に知らない名前が出てきたら大人は間違いなく……。
「らいごすくん……? その人、誰だい……? もしかして今、家の中に居るのかい?」
「うん♪ らいごす君はね、いっぱい楽しい話をしてくれるの!」
うーん。
この流れはよくないやつなのであるな。
「らいごす君はねー魔法で動くお人形なんだけど、いっぱいいっぱいいろんな事を知ってて、私のお話相手になってくれたんだよ♪」
「ぬいぐるみ? ……あぁ、ぬいぐるみか。そのぬいぐるみはどうしたんだい?」
「シロが咥えてきたの」
「あぁ。シロがどこかから拾ってきたのか……それなら問題なさそうだね」
……どうやらパパとやらは、我の事をただのぬいぐるみで、リナリーがぬいぐるみ相手におままごとでもしていたと思ったのかもしれない。
そう勘違いしてくれるのであればそれに越したことはないが。
どちらにせよ我はこのまま、退散した方がいいかもしれぬな。
リナリーに何も言わずに消えるのは申し訳ないのであるが……。
「ちょっとラシールさん? もう降りていいかい?」
……誰か馬車にもう一人乗っている?
「あぁ、すいません。ここが我が家です。そしてこの子が話していたリナリーです。ほらリナリー、挨拶して」
「……パパ、この人誰?」
……血の匂い。
間違いない。あの男から血の匂いがする。
「こら、彼はガメルさんと言って、有名なお医者様なんだそうだ。ほら、挨拶なさい」
「はじめまして。リナリーです。お医者さん? 私を、治してくれるの?」
……医者、であるか。
確かに医者ならば手術などもするのであろうし血の匂いがしてもおかしくないのである。
我の考えすぎであったか。
そう判断し、三人の視界に入らぬよう壁伝いにこっそりと離れようとしたのだが……。
「勿論私が治してあげるから安心してね。……ところでラシールさん。本当に用意できるんですよね?」
「も、勿論です。リナリーを治してくれる人を見つけたらお願いする為に毎日必死に働いてお金をためていたんですから! 家の中にちゃんと保管してありますよ!」
「……家の中に、ですか。ほうほう……それならいいのです」
……何やらあのガメルという男……
「わふっ!」
かぷり。
「うわわわっ、やめろ、やめるのである!」
あのもふもふが突如目の前に現れ我に噛みつき振り回すのでつい大声を出してしまった。
「な、なんだ!? リナリー、誰かいるのかい!?」
「だかららいごす君だってば」
「おいおい……まさか同業者じゃねぇだろうな?」
空気が変わる。
まずい、これは、まずいのである。
「誰だか知らねぇが俺が目を付けた金を横取りなんかさせねぇぞ!」
「が、ガメルさん!? どういう事ですか? ちゃんと、ちゃんとリナリーを診て下さるなら必ずお支払いしますと……」
「はっ、ばーかじゃねぇの? 俺が医者な訳ねぇだろうがコロっと騙されやがって。まぁもうどうでもいい。金出しな。さっきの声の野郎はどこだ? そいつもここに連れてこい」
「そ、そんな……話が違う!」
「違うも糞もあるかボケ! 俺はすぐにでも金が必要なんだよ。俺の役に立てるんだからありがたく思え」
「おじさんお医者さんじゃないの……? 私、治らないの?」
「はっ、心臓の病気なんだってな? 治る訳ねーだろバーカ! どうせ死んじまうんだからそのお金を人の為に使おうな? 俺の為に使ってやるからありがたく思えよ」
……これは、いったいどういう事であるか?
事情がいまいちわからぬが、パパとやらが騙されて、ガメルという男が詐欺師か強盗で、そして……そして……。
リナリーを傷つけた事だけは我にも解るのである。
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