絶望戦士は死に場所を見つけたい。
………………。
しばらくしてやっと三人が落ち着いた頃、もう一度改めて同じことを聞いてみると、聞いたことの答えよりも先に賞賛の声があがる。
「あ、あんた何者なんだ!? 俺達だってそれなりに魔物討伐の経験はあるがあんなのは初めてだった。それをあんな簡単に……」
「はい! すっごくカッコ良かったです!! この赤鎧野郎なんかと違って素敵でした!」
「おいその赤鎧野郎っていうのはもしかして俺の事か!?」
「あんた以外に誰がいるのよ!」
「ボクとしてはとても高名な剣士様とお見受けしましたね。もしかしてあの鬼神セスティ様の生まれ変わりなのではと思ってしまう程ですよ」
褒められるのは思ったよりも嬉しいもんで、こんな奴等からでもはやし立てられたら悪い気はしなかった。
しなかったんだけど今お前なんて言った?
「おい、もう一回言ってみろ」
「ですからとてもカッコ良かったです!」
「あー、違う違う。君じゃなくてそっちの魔法使い。今セスティ様がどうしたって?」
俺に指名されて緊張したのか魔法使い風の男が「え、えっと、その……」とかどもりながら、その言葉を投下した。
「その、半年前にエルフの森で五万の魔物に立ち向かって勇敢に散った鬼神セスティ様の如き腕前だと……」
勇敢に、散った……? あぁ。やっぱり姫ちゃん、死んじまったのか……。
もしかしたら生きてるんじゃないかなって期待もあったんだけど、こうはっきり第三者から言われると落ち込みが半端ない。
……ん?
ちょっと待てよ。
「今半年前って言ったか? 俺ここにきてからまだ一か月くらいしか経ってないぞ!?」
「えっ、それどういう意味ですか……? もしかして貴方はセスティ様、とか……?」
「馬鹿野郎。鬼神セスティは死んだんだって。この人がセスティさんな訳ないだろうが」
神官女の発言を赤鎧野郎が否定する。
「俺はその姫ちゃ……えっと、セスティさんと一緒にエルフの森で戦ったんだ。その時、魔王が現れて、だけど魔王はめっちゃ強くて……最後に俺しか残ってなくて……」
あの時の事は今でもついさっきの事のように思い出す事が出来る。
「これでも最後まで頑張ったんだけどよ。どうしようもなくて、いっそ魔王と心中するつもりだったんだ。そしてそれは成功した筈だった。……だけど気が付いたら俺はここに倒れてたんだよ」
三人は俺の話を口をぽかーんと開けながら聞いていた。
ちょっと余計な事を話しすぎたかもしれない。
「まぁそれはいいんだ。大事なのは、俺がここに倒れてたのはつい一か月くらい前の話だって事。あの戦いが半年前っていったいどういう事なんだよ!」
俺は疑問をこいつらに投げかけ、答えを待ったのだが……そんな事より俺がエルフの森で戦ったとか魔王と心中だとかそういう話にばかり食いつかれてしまい聞きたい事はなかなか聞けなかった。
しかし、少しずつ話を整理して分かった事がある。
何故かあれから半年が経過している事。
正確な日数は数えてないから分からないが、俺がここに来てから一か月程度しか経ってないのは間違いない。
どう考えてもおかしい。
俺が半年近く意識を失って倒れてたわけでもあるまいし、これでは計算が合わない。
姫ちゃんの件をこいつらが知っていたのは、里を守った英雄としてエルフ達がそんな話を広めたらしい。
そして、あの場で戦っていた他のメンバーについても消息不明。
誰が何人その場に居たのかすら世間では分からないようだった。
誰か生き残っているなら会って話を聞きたい。
詳しく状況の説明をしてほしい。
そして、万が一にも魔王が俺のように生きているのなら、何としても殺さなくては。
「決めた。俺は魔王の生存確認をしに行く。もし生きているようなら必ず殺す」
「あ、あの……お願いがあります! 貴方の旅に俺達を連れていってくれませんか!? もっともっと強くなりたいんです!」
赤い鎧の男が何かを決意したように、俺に向かってそう告げる。
その顔はとても真剣で、俺の返事を歯を食いしばりながら待っていた。
「私、役に立ちますよ! 回復つかえますよ!」
「ボクだって魔法使いの端くれです! 少しでも力になりたいです!」
残りの二人も赤鎧に続いた。
……頼りないメンツだけれど、一人でやみくもに皆を探す旅にでるよりよほどいい。
「そうか、その代わり、もしかしたら死ぬかもしれないぞ。俺も、お前らも。……それでもいいなら勝手にしろ」
今までのように甘えてはいられない。
これは確認だ。
魔王が生きているのか、それとも死んでいるのか。
もしまだ生きているようならそれを始末する。命に代えても。
それだけの為にもう少し生きてみよう。
言うなれば、これは死に場所を探す旅だ。
姫の騎士になる事を目指していたのに、先に姫を失ってしまうなんて情けないにも程がある。
俺は弱い。弱すぎた。姫に甘えすぎたんだ。
だから守る事なんてできずに失ってばかり。
生きる意味も目的も失って途方に暮れていたけれど、朽ちるのはもう少しお預けにしよう。
魔王が死んでいたなら、もう俺の役目は終わり。
もし生きていたなら……。
そこが俺の死に場所だ。
俺は、心のどこかで魔王の生存を期待してしまっている事に罪悪感を感じながらも、いい意味でも悪い意味でもそこでこの命を使い潰せるならそれでいいや、なんて事を考えていた。
ここから始めよう。
俺が死ぬ為の物語を。
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