魔王は悪癖を直せない。


「ロザリアが居るという事は……まさか、まさかあのエンシェントドラゴンも……!? まずい、すぐに追い出さないと……ッ!」


「遅い! メディファス、マリー、いえ、マリスとこの女を繋ぎとめて! そしてマリスに魔力を注ぎなさい!」


 馬鹿野郎、そんな事したらメディファスが……!


『よいのです。我はきっとこの為に主と共に居たのです。どうか、ご武運を』


 メディファス!!!


 メディファスがマリスとメアを完全に接続する橋渡しになり、マリスにメアの魔力がどんどん吸い込まれていく。


 メディファスをブーストに使いすごい勢いで……。


 メディファスの魔力ごと、すべてがマリスに飲み込まれていく。


「あっ、あぁっ……!」


 メアが苦しみ、やがてその腹を食い破って、大爆発を起こす。

 メアの膨大な魔力を食らって急成長を遂げたマリスを抱え込めなくなったメアの身体が弾け、一斉にその穴から魔力が噴出したのだからその一撃の威力は凄まじく、あたり一面がクレーターになる程だった。


 マリスにかなりの量の魔力を食われた後でもこれだけの余剰な魔力がこの女の身体の中に収まっていたのかと思うと恐ろしい。


 おそらく、この魔力は本人だけの物ではなく、あの神によるものだったり、アーティファクトをその身に取り込んでいたものだろう。


 確かに俺の仲間が近くに居る状況だったら巻き添えを食らっていた可能性が高いだろう。


 大空に向かいエンシェントドラゴンが解き放たれた。


 俺は、俺の身体は無事だ。

 マリスは巨大なドラゴンとなり俺を背に乗せ大空を駆ける。


 最早遠くに見える大地には……魔力を失い、四散したメアの残骸。


「はははっ! やってやった! やってやったわお姉様!! わたくし、ついにやりましたわっ!!」


 ロザリアは耳障りな程の歓喜の叫びをあげた。


 俺の腕には剣は握られておらず、


 勿論、腕輪も存在しなかった。


 ……ちくしょう。


「畜生!!」


 俺は、ただただ悔しくて、ロザリアとは正反対の感情を吐き出す事しかできなかった。



 ……メディファス……あの馬鹿野郎が……。


『やれやれ。これは彼女の完敗だね』


 いつの間にかマリスの背に、あの男が立っている。


『君達も頑張ったね。よくぞここまで力を取り戻したものだ』


「当然よ! わたくしは、この時の為だけに生きてきたのだから……!」


 ……マリスの口を借りてロザリアがアルプトラウムと会話している。


 この二人は知り合いだったようだ。

 ……メアとロザリアが同じ身体を使っていたというのならば不思議な事はない。


『しかしこれだけ大きいと話がし辛いね。もう少し小さくなりたまえ』


「ち、ちょっと待ちなさい! 何するのよ!! 私がせっかく……まで……ばった……のに……」


 アルプトラウムがマリスの背に手を当てると、その体がどんどん小さくなっていき失速し、やがて地面へと墜落していく。


 途中からは俺が抱えられる程度の大きさになってしまったので俺が抱えて着地した。


『あれからいい宿主を見つけたね……あぁそうか、力を奪ってしまうと話が出来なくなってしまうのだったね。これは盲点だった』


 どうやらメアから魔力を吸い取ったマリスから、さらにアルプトラウムがその魔力を吸い取ったようだ。


 ロザリアは完全に沈黙し、マリスは小さなドラゴンになって「きゅぷぷ……?」と困惑している。


『しかし見事にやられてしまったね。だから気をつけろと忠告したんだ。……まだ君に消えてもらうわけにはいかない』


 アルプトラウムがゆっくりとメアの残骸に近寄る。

 歩くというより、地面からうっすらと浮いているようにふわふわと移動していく。


「……あっ、アル……わ、たし、は……」


 メアの奴まだ息があるのか!?

 しかし、魔力が足りないのか修復はできないようだ。


 少し可哀想だが、こいつはこのままここで消えるべきだ。


『君としては不本意だろうけれどね、さっきも言ったがまだ消えてもらうわけにはいかないんだよ。君は私の計画にとって大きなピースだからね』


「おい神様野郎。そいつに魔力を返すつもりか?」


『……そうだ、と言ったら?』


「それを黙ってさせると思うのか?」


 再びメアが復活してしまえば今までの事やメディファスの消滅がすべて無駄になってしまう。


 あいつの存在を、あいつの覚悟を無駄になんてできない。


 俺は、自分の身体を取り戻さなきゃならない事なんてすっかり頭から消えてしまっていた。

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