悪夢は愉悦に浸りたい。
『無駄だよ。君は強いけれど、メアに敵わない存在が私を止められる筈ないだろう?』
やってみなくちゃわからねぇだろうがよ!
飛び掛かってはみたものの、俺は一瞬で少し離れた場所の地面に転がっていた。
なんだ? 今何をされた?
俺だけが違う場所へ転移させられたのか?
何度あの男に殴りかかっても同じで、近寄る事が出来ない。
あの男の周囲の空間が歪んでいるように俺を拒んだ。
魔法を唱えても、あの男に触れる直前に消え、どこからともなく俺に向かって降り注いでくる。
くそっ、このままじゃ……。
『……おや、これは……いや、しかしまさか……こんなところに……?』
アルプトラウムがメアの身体に手を触れながら何かに驚いている。
ずるり、とメアの身体の中から奴が剣を引き抜いた。
メディファス!!
『これは君の大事な物だろう? 返しておこう。メアには必要ない物だ』
奴がメディファスを俺に向かって投げてよこした。
「おいメディファス! メディファス! 起きろ! なんとか言え!」
『さて、私達はこれで一度退散させてもらうよ。次に会う時にはもっともっと楽しませてくれ』
「おい! メディファスは、こいつはどうなったんだ!?」
『ふむ……機能は停止したようだね。しかし、そうだな……それも面白いだろう。君の為にそのアーティファクトを復帰させるきっかけだけは与えてあげよう』
「なんだと……!? こいつは治るのか!?」
『……さぁ、それは持ち主次第といった所だね。今のままでは絶対に直らないから、直せる可能性を与えてあげようと言っているのさ』
「ありがてぇ。頼む。こいつを助けてやってくれ!」
こんな気に入らねぇ神様にだって頭を下げてやる。
俺の相棒を、なんとかしてやってくれ。
『繰り返すがね、治るかどうかは持ち主次第だよ……さぁ。これ以上君と話す事は無い。次に会える時を楽しみにしているよ。くれぐれも、私を失望させないでくれ』
アルプトラウムはそう言って、メアの身体に魔力を注ぎ始める。
すると、四散した彼女の身体が一瞬で元通りに集まり、その身体を形成していった。
完全に消し飛んだ部分は新たに生成されているようだ。
再生する様子を直に見てもそのメカニズムは全く理解できない。
俺にかけられた呪いとは完全に根本から違う方法で復活している。
身体の修復が終わったメアを抱えるとアルプトラウムは一瞬で俺の目の前まで移動した。
突然眼前に現れた奴に、不覚にも驚いてのけ反り、尻餅をついてしまう。
「なっ、何を……」
『ではさらばだ。いずれまた会おう』
アルプトラウムは俺の額に手を当て、
抵抗する間もなく目の前が真っ白になり意識が消し飛ぶ。
その最後に、何故かアルプトラウムがメディファスに手を触れるのが見えた。
メディファスを治すきっかけ、とやらをくれているのだろうか。
こんな奴に期待しなければいけないのが情けないが、今はそれしか望みが無い。
そもそも全ても元凶であろうこいつに頼るのは不本意ではあるが、今に見てろよ。
メディファスを元に戻して、必ず、必ずいつかお前を……。
結局、俺達は魔王メアリー・ルーナに負けはしなかったが、勝つ事もできなかった。
だが、一つ分かる事がある。
神、アルプトラウムには完全に敗北した。
決して褒められたものではないが、デュクシのとんでもない力すらもあの神には届かなかった。
俺が生き残れたのはロザリアとマリスとメディファスのおかげだ。
厳密に言えばメアに負けなかったのは結果論。
【俺】は負けた。
しかし、ロザリア、マリスのおかげで……そして、メディファスの犠牲で【俺達】は負けずに済んだ。
それだけの事だった。
メディファスの犠牲があって、やっとそこだ。
失った物の大きさだけが、俺に重く伸し掛かる。
そして、どのくらいの時が流れたのだろう?
「……あれ? 私、どうしてこんな所に? ここどこ……? むしろ……私って……えっと……だれだっけ?」
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