ぼっち姫、カオルコサクラコ。
「それでね、しばらく前ににロンシャンが滅びたでしょ? あれおにいちゃんだよね?」
た、確かに俺はそこに居たが……。
「ロンシャン滅ぼしたのは俺じゃねぇぞ」
「分かってるよ。ドラゴンが来たんでしょ?」
ショコラは星空を見上げながら、「嬉しかったんだ」と呟いた。
どうやらその後、カオルコがロンシャンで起きた騒ぎの事をショコラに教えて、そこでロンシャンに勇者が来ていた事を知った。
「勇者の事なんて興味無かったんだけど……そのパーティに鬼人セスティって人が居るって聞いて……」
なるほどなぁ。
しかしロンシャンで俺達の事を知ってる人は居なかったように思うんだが……。
その疑問をショコラにぶつけると、カオルコという師匠が知っていたのだそうだ。
カオルコがロンシャンに買い出しに出掛けたら大騒ぎになっていて、そこに居た生き残りの人々に話を聞いて、こういう奴等がドラゴンを倒したっていう感じで俺達の風貌などを聞き出したんだそうだ。
もともと東の大陸から王都の近くまで出てきてた人物なので俺達の事だとすぐに分かったらしい。
「それにしてもその、ほら、なんだ……ご奉仕? とかしてたのによく俺を探しに出るの許してもらえたな?」
「ううん。めちゃくちゃ反対されたよ」
ショコラはどこか遠くを見るような目をして、「あれは大変だった……」なんて言ってる。
「聞かない方がいいやつかな……」
「師匠は私より強いんだ。ニンジャマスターカオルコサクラコと言えばニポポンでも伝説級の忍者だから」
カオルコなのかサクラコなのかどっちだ。
「でもね、私は師匠の弱点を知ってる」
「ああ、確か関節殺しで弱点見れるんだっけ?」
「……違う。そういうのじゃなくて」
ん、だとするとやっぱり聞かない方がいいやつかもしれない。
「師匠の体の弱い所は熟知してる」
ほら。
「だから足腰立たなくして逃げてきた」
えげつねぇな。むしろその逃げ方だったらそのカオルコサクラコはショコラを連れ戻そうとしてくるかもしれないなぁ。
こうしている今もその師匠がショコラの事を思い出して身悶えしているかもしれないと思うと俺は軽く寒気がした。
だってこのパターンだと俺が恨まれるじゃんかよ。
それでショコラより強いんだろ? 恐ろしすぎるぞカオルコサクラコ。
もうヤバい女は間に合ってるから出来る限り関わり合いになりたくない。
「それから自力で簡単な船を作って、ライデンまで帰ってきて……いろんな国を回って情報を仕入れたんだけど、おにいちゃんの情報がある時を境に途絶えちゃって……」
リュミアが逃げた時だな。
当然ながらパーティが解散しちまってからは勇者の話を聞くことも減るだろう。
「それで路銀が尽きちゃったからクレバーで雇われ用心棒兼暗殺者やってたの」
「お前さ、よく奴隷として売り払われたくせに奴隷商人共の用心棒なんかやる気になったな」
「私、倫理観とか死んでるから。目的の為なら手段を択ばないよ? この時の目的っていうのはお金稼ぎね。本当はライデンにでも行けば楽に稼げたんだけど、このあたりで勇者の目撃情報があったから」
なるほどな。リュミアの情報を聞きつけてナランまでやって来たって訳だ。
「そしたらクレバーの事を嗅ぎまわってる人を見つけたの。その人が……」
「リュミアか」
そこで俺が知りたい情報と繋がってくるわけだ。
そうかそうか。ショコラはそれを話すためにわざわざ夜中に起きてきてくれたんだな。
「勇者って分かったからおにいちゃんの事聞いたんだけど、話を濁されちゃって」
リュミアはあれでかなり律儀な奴だからなぁ。プリン・セスティは女だ、なんて話を言いふらしたりはしない。
その認知が俺を苦しめるのを知ってるからだ。
勿論ちゃんと中身が男で今までと変わらないと説明してやればいいんだろうが、セスティ=女。程度の認識を持たれるのが一番困る。
それを心配して安易な情報提供はしなかったんだろう。
「勇者と一緒にオークションを潰すって約束して協力関係になったんだ。オークションの商品を知って勇者はすっごく驚いてたよ」
そりゃそうだろうよ。
セスティの情報を聞かれてる最中に本人がオークションで売られてるんだもんなぁ。
「まぁ、あの時俺が売り物にされたのはお前のせいだけどな」
「……いじわる」
ショコラはしゅんと俯いて近くの草を千切っては風に舞わせていた。
「ごめんごめん。それはもういいよ。……それで、本題なんだけど、リュミアは今どこに居るんだ?」
そう。そもそも俺はそれが知りたくてピンキーキャットを待ってたんだ。
それ次第で次の目的地が決まる。
ショコラはこちらを見つめて、その小さな口を開いた。
やっとこの時が来た。
待ってろよリュミア。
「しんない」
……??
「なんだって? もう一回頼む」
「しんない」
シンナイ? そんな街あったか? それとも別の国まで移動してるのだろうか?
「ごめん。勇者の事なんてしんないよ」
目の前が真っ暗になった気がした。
唯一の薄い望みすら断ち切られた。
また一から情報集め直しだ。
「ごめんね」
「そうか。……まぁ、しょうがない、か。お前のせいじゃないよ。情報はまた集めればいいさ」
ちょっとだけ途方に暮れながらショコラの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。
そうだ。また探せばいい。
でもそうなると次の目的地どうすっかなぁ……。
今は逃げるようにナランを飛び出してきてそのままだったけど、ちゃんと目指す場所を決めないと。
行くとしたら、ここからならアシュリーの所か。
そうだな。そろそろマリスの事も相談しておきたい。あの変なお嬢様みたいな奴の事も気になるし、久しぶりにアシュリーの顔も見ておきたいしな。
どうせアシュリーは俺の顔を見るなり「何しに来たの?」なんて言うんだろうけど。
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