ぼっち姫。妹のスペックに驚愕。

「……ショコラ……ショコラ・セスティ。プリンおにいちゃんの妹」


「ふぇー。姫ちゃんの妹さんっすか! また可愛らしい妹さんっすね!」


「ぐぬぬぬ……まずい、キャラが若干被っておるのじゃ……」


「尊い」


 ……やれやれだ。

 あの後本当に大変だった。

 家が倒壊した事で集まってきた野次馬が、瓦礫の中に佇むぬいぐるみマッチョマンを見て大騒ぎになり、俺達は逃げるように街を出た。


 ゆっくりしたかったかったはずなのに気が付いたらめちゃくちゃ疲れている。


 今は入り口で預けておいた馬車に飛び乗って、街から少し離れた所まで離れたあと、ショコラの自己紹介もかねて今日は早めに野営の準備をする事に。


 驚いた事に、ショコラがめちゃくちゃ手際がいい。

 馬車の中だけで寝るにはちょっと狭くなってきたのでプルットから貰ったテントを張ろうとしたのだが、あれよあれよと言う間に一人でテントを張り終えてしまった。


 こういうのに慣れているのかもしれない。


 そして今は焚火を起こし、火を囲みながら簡易的なスープをすすっている所だった。


 ちなみにぬいぐるみ状態のライゴスでも普通に食事は取れるようだ。

 口とか体の中とかどうなってんだろうな。



「セスティ殿の妹とは驚きなのである」


「……」


 ライゴスがぬいぐるみ状態の可愛らしい姿でショコラに話しかけるが、ほぼスルーされている。


「ショコラ、ちゃんと自己紹介しなさい」


「うん! おにいちゃんが言うならそうする!」


 ちょっとだけ話していて分かった事は、ショコラは基本的に人と話すのが苦手だ。

 あまり他人に興味が無い上に、基本俺の言う事しかきかない。


 でもこれは逆に言えば、俺の言う事なら喜んで実行してくれるという事だ。


「私、ショコラ。暗殺者やってた。スキルは隠密、毒精製、関節殺し、局所的認識阻害、身体能力強化、瞬間加速。あとはスキルって訳じゃないけど魔術と忍術と柔術ができる」


 ……。そこに居た一同が口を開けたまま何も言えずにいる。


 俺も、正直驚いた。

 きっと今の俺もちゃんと調べたら沢山スキルを持っているのだろうが、普通は三つか四つくらいの所を、六つ所持している。

 上になにやらよく分からない術を使うらしい。



「おいショコラ、いくつかよく分からないのがあったんだけど……関節殺しってなんだ?」


 響きが物騒すぎる。

 ……あ、もしかしてアレの事か?


「関節殺しスキルは、相手の関節の弱点を見れるの。ここをこうしたら痛い、とか。それだけだけど結構便利」


 だから風呂場で俺はショコラに抵抗できなかったんだろうか? 弱点が分かった所で実行できる腕がないと意味がないと思うのだが……。


「じゃあ局所認識阻害って奴は?」


 あまり聞いた事のないようなスキルばかりだ。認識阻害……??


「局所認識阻害は、簡単に言うと一瞬だけ幻を見せる事が出来るよ」


 ……一瞬だけ?


「そう。例えば、目の前から消えたように見せたり、ダガーを投げて、それを小石と勘違いさせたり」


 こわっ! 暗殺者向きのスキルだろうが、それって小石じゃなくてなんにでも見せることが出来るのならかなりヤバいスキルだ。

 使い方次第だが、戦闘中の一瞬で本物と幻を混ぜられたらたまったもんじゃいな。


「あと毒精製って……」


「私の血から毒を作る。普通の毒に混ぜると特別な毒になるの」


 うっわ。えぐい。

 わざわざ血を使うって辺りが……。

 もしかして俺があの時くらって動けなくなった毒はそれだったのかもしれない。


『是非その血のサンプルを頂きたい』


「今の声、何? 檻の中でもこれと話した気がする」


「ショコラ、後で説明するからこんな変態の事は気にするな」


『誤解しないで頂きたいのです。我は知的好奇心故に……』


「だまれ」


『……不条理』


「それはそうと、あとなんだっけ? 魔術? 魔法じゃなくて?」


「魔法じゃない。魔術。ちょっと説明が難しい」


 ちょっと俯き加減に淡々と質問に答えるショコラだが、こいついつこんな事ができるようになったんだ?


 俺も人の事は言えないが、こいつも苦労したんだろうか……?

 一二歳くらいの時に家を出てそれっきりだったから……ショコラには悪い事をした。


「あとは忍術と柔術だよね。忍術は簡単に言うと隠密技。柔術は、そういう戦いの技。……見せた方が早い」


 ショコラが皆に向かって掌を上に向けて腕を伸ばし、指先をクイクイっとやってかかってこいポーズを取る。


 皆どうしていいか分からずに困惑していたので、俺がナーリアに「いいぞ」と声をかけた。


「ほ、ほんとに!? お言葉に甘えてぇぇぇぇっ!!」


 ナーリアが凄まじい勢いで飛び掛かる。


 ショコラはゆっくりした動きで、だけどまったく無駄のない動きでナーリアの腕を掴み、その勢いを利用してそのまま回転力を数倍にしてぶん投げた。


 空中で凄まじい勢いで回転したナーリアが地面に落下する。


「ぐえっ」


 ちょっとヤバい落ち方をしていたので回復魔法をかけてやると、「まだまだぁぁぁっ!!」と叫びながら再び突進。


 懲りない奴だ。


 今度は投げ飛ばさず、ナーリアが掴みかかると足を軽く払って、空中に浮いたナーリアの関節を決めながら共に地面に転がり、押さえつける。


 これは俺が風呂場でやられた奴に似てる。

 この柔術とやらと、関節殺しなんていう物騒な名前のスキルはかなり組み合わせがよさそうだ。


「いっ、いたたたたたぁぁぁっ!!」


「こういうのが柔術。まいった?」


「うぅっ、で……でも、いろいろ密着して……これは、こっれで……ぐふっ、ぐふふふっ」


「……おにいちゃん、この人……こわいよ」


 そうか。安心しろ妹よ。


 俺もこわい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る