ぼっち姫、VSキャメリーン。
「テロア、面倒な魔物だから騎士団避難させとけ」
「それには及びません! 私が引き込んでしまった魔物ならば、私が責任を取らなければ。私と、この第三騎士団が相手になりましょう!!」
テロアが自責の念からかしらないがやたらと張り切っている。
魔物に気付いた騎士団員達がテロアに続くようにぞろぞろと集まってきた。
各々やる気満々なセリフを吐きながら剣を構えるのだが……。
「張り切るのはいいんだけどこいつはちょっと普通の魔物とは違うから人数多いと逆に混乱するかもしれないんだよ。だから下がっててくれ」
と、テロアに説明し、テロア自体は多少こちらに耳をかしてくれそうだったのだが……魔物を目の前にした若い騎士団員が雄たけびをあげてキャメリーンに襲い掛かる。
「あっ、馬鹿! 危ないから下がれって言ってんだろ!!」
俺の忠告は間に合わず、キャメリーンがすぅっと背景に溶け込んでいく。
透明になったとしても、歩いた時の音とか、些細な痕跡をメディファスに解析させれば居場所を突き止める事は可能だったのに。
混乱に乗じてキャメリーンは完全に姿を消した。
騎士団員の攻撃は空振りし、何が起きたのか分からずきょろきょろと周りを見渡しているうちに、騎士団人の群れの中で悲鳴があがる。
「ど、どうした!?」
テロアがそちらに向かって叫ぶが、時すでに遅く地面には血だらけの騎士団員が倒れていた。
傷だけなら治してやる事も出来るが、言葉通り、首の皮が一枚繋がっているだけ、のような状態。
完全に死んでいる。
戦闘能力が低いといえど人間の首を切り落とすくらいどうという事は無いのだろう。
無警戒の相手なら鎧の隙間から切りつける事も可能だろうし、こう密集している場所に溶け込まれてしまうとまったく手が出せない。
「テロア、状況が分かったか?」
「は、はい! 申し訳ありません。 お前ら!二人一組になり背中合わせに警戒しろ!!」
テロアの言葉が終わる前に、騎士団員の一人が派手に転倒する。
皆がそちらに注視している間に、そこから一番離れた場所に居た二人組が地に伏せる。
完全に後手に回っている。
早めになんとかしないとまずいぞ。
「くくくく!! 貴方方にいい事を教えてあげましょう!」
どこからともなくキャメリーンの声が響く。
建物内を反響しているのか、声の出所がよく分からない。
「もしかして私が何にでも姿を変えられると思っていませんか?」
……は? 違うのか?
めりにゃんにちらっと眼をやると、彼女も知らないらしく首をぶんぶんと横に振った。
「あやつの事は詳しく知らんのじゃ。父上の時代に特殊部隊に配属されて、ほとんど儂とは接点が無かったのじゃ……」
めりにゃんは申し訳なさそうにしながらも俺の腕をがっちり掴んで離さない。
それでいい。ライゴスは自力で形状変化を解除した後だしかなり消耗している筈だ。
なら俺がめりにゃんを守ってやらないと。
「なんにでも姿を変えられる訳じゃないって事は制限があるって事だろ? 自分の能力の不便さをわざわざ俺らに教えるなんて随分優しいんだな」
「くくくくっ。やっぱり貴方がたはおめでたい人達だ。気付いていないのですか? 死体をよく見てみなさい」
……死体だと?
まさかゾンビじゃあるまいし奴に殺されたら動く死体にでもなって動くなんてことは……なさそうだな。
「お、おい! サーリンの遺体はどうした!? 誰か移動させたのか!?」
テロアが顔を青くして叫ぶ。
どうやら遺体が一つ無くなっているらしい。
いったい何がどうなっているんだ?
俺らの目を盗んで死体をかっぱらって何をしようというんだ。
「ちょっと待って下さいよ! 遺体とか酷いですって。俺生きてますよ!!」
騎士団員の一人がテロアの前まで歩み出る。
「さ、サーリン!? お前さっき死んだんじゃ……」
「いやだなぁ。俺死んでないですよ。結構傷は深かったんですけどなんとか回復魔法かけてもらって塞がりました。心配かけてすいません」
「そ、そうか。ならいいんだ……取り乱してすまない。無事でよかった」
「えぇ、良かったです。貴方が間抜けで」
サーリンと呼ばれた男はテロアの前まで歩み寄ると、突然自らの剣を振りかざしテロアに切りかかった。
くそっ! 間に合わない!!
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