ぼっち姫、地獄からの使者。


 私は自分の中に燃え上がる殺意を必死に堪えた。

 何をしに来たのかを忘れないようにしないと、目の前で馬鹿な事を言ってるデュクシのどてっぱらに風穴を開けてしまいそうになる。


 我慢。我慢しなきゃだめ。


 ……ふぅ、よーっし♪ 大丈夫そう。

 私えらいっ☆


 気を取り直して周りの様子を見渡すと、あの赤い鎧の人を黒服達がずるずる連行していくところだった。


「まったく、警備として雇ってやったのになんでぶっ倒れてるんだこいつ?」


「知らん。どうせ酒も飲んだ事がないお坊ちゃんだったんだろう」


「役に立たないなら外へ放り出してこよう」



 ……あの赤い鎧の人には悪い事しちゃったかな?

 でもデュクシに酒なんか飲ませるのが悪い。


 だから私は悪くないし、ぶっちゃけあの人がどうなってもしーらないっ☆


「俺の事を無視する姫も可愛いよ」


 デュクシが私の耳元で急に変な事を言い出すので寒気で飛び上がっちゃいそうだった。


「うっさい!! いいから早くお金稼ぐっ!」



「おやおや。なかなか景気がよさそうですねぇ」


 ……おっと? これは思ったよりも早く来たかな~?


「あんた誰? 私達に絡んできたってお金はあげないわよ?」


「姫の言う通り。俺達に近寄ると火傷するぜ」


 お前は一体どんなキャラになってるのよ……。

 もうデュクシにはお酒飲ましちゃダメね。


「いえいえ。別に私は貴方達からお金を巻き上げようなどと思ってはいませんよ。申し遅れました。私はこのカジノのオーナー。トウネリバーと申します」


 よっしゃあたりっ☆

 私の目的はここで荒稼ぎをして悪目立ちする事。

 そして私達を放置できなくなった上の連中をひっぱり出す事。


 大抵こういう場所で百発百中で勝つような人はイカサマをやってる確率が高いから、そんな奴は粛清しちゃる! って事でお呼び出しがかかるって寸法ね♪


 トウネリバーって人は初老、身長はデュクシよりも高いしシルバーの髪をオールバックにしていてなかなかに渋いおじ様って感じ。


 ほっぺたに思いっきりでっかい切り傷があるのが、闇の住人感を醸し出してる。


「……俺達に近寄るなら火傷どころか火葬になっても……」


「デュクシうるさい」


「姫、俺は姫に近寄る虫を殲滅しないと不安で不安でしかたないんだ。虫が君の白い肌に赤い痕を残すんじゃないかとね」


「デュクシ、だまりなさい」


「やれやれ。うちのお姫様には敵わないよ」


 マジなんなのこいつめっちゃ腹立つー!

 あーこの場じゃなかったら殴ってやるのに!!


「ははは。なかなか面白い人達だ。どうでしょう? もしお金を稼ぐ事が目的であれば……もっと高いレートのゲームをしませんか?」



 ふーん。

 とりあえず、お前らイカサマしてんだろとは言えないから自分の土俵に上げて仕留めようって事かな。


 私達に勝って有り金全部奪うつもりか、はたまたイカサマを見破って無理矢理現金を回収するつもりか。

 あるいは問答無用で奴隷にするつもりっていうのもあるかもね。


「……で、いかがでしょう? 今までよりも一度で一気に稼げるレートでやりませんか?」


「それ、私に拒否権はあるのかしらね?」


 私の言葉を聞いたトウネリバーは、さも悪人面って感じでニヤァっと笑う。


「全てお見通しというやつでしょうかね? お分かりなら話が早い。とりあえず奥の部屋までどうぞ。そちらで思う存分楽しみましょう」


 少なくとも私達とギャンブルをする気はあるらしい。

 ならこっちももう少し付き合ってあげよう。


 こっちがボロ勝ちして、支払いを拒否するようなら暴れるだけの正当な理由ができるし。


 よっしゃやってやろうじゃないの!


 私達はトウネリバーに案内され、沢山の人々の称賛の声に手を振って返しながら一番奥にある豪華な扉の前までやってきた。


「さぁ、どうぞ中へお入り下さい」


 トウネリバーが笑いながら私達を部屋の中へと導いた。


 そこは、確かに豪華なシャンデリアとか調度品で飾られたすっごい空間だったけど、ギャンブルをするような場所っていうよりは成金の自室って感じだった。


 もしかしたらギャンブルの相手っていうのはトウネリバー本人なのかもしれない。


 だとしたら私達には好都合だわ。


 破産するくらいむしり取ってやるんだからねっ☆


「いらっしゃいませ。ここが地獄の入り口ですよ」


「ここが地獄……? お笑いだわ」


「何か、おかしい事がありましたか? 本当にここは貴方たちにとって地獄に……」


 そりゃ笑っちゃうわよ。



「残念だけど私、地獄からやってきたのよ♪」


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