ぼっち姫、億万長者を目指す。

「姫ちゃん、結局何がどうなってるんすか? 俺全然状況を理解してないんすけど……」


「ナーリアがさらわれたの」


 すたすたと先を急ぐ私の後をデュクシが小走りで追いかけながら、状況の確認をしてくる。


「それさっきもジャックスさんに言ってたっすけど、あのナーリアが簡単にさらわれるっすかね?」


「その辺はちょっと面倒な事になってる可能性が高いのよね。ナーリアの昔の知人がナーリアを連れ出してそれっきり。早く帰ると言っていた以上あの子が約束を破るとは思えないし」


 デュクシは俺の隣までやってくると、少し息を整えてから、「確かにそうかも知れないっすね……」と呟く。


「それで、これからカジノっすか?」


 私とジャックスとのやりとりは一応聞いていたみたいだ。

 説明が面倒だから助かる。


「私を怒らせた事、後悔させてやるんだから」


「姫ちゃん……その状態で静かに怒るの、めっちゃ怖いっす」


 うっさい。


 ジャックスからカジノまでの地図と、入り方を教わった。

 表向きにやってるわけじゃなくて、あくまでも闇カジノだから普通に入ろうとしてもダメみたい。


「少しでもそれっぽく見えるようにした方がいいかもね。マリス、起きてる?」


「きゅ…?」


「ほら、寝ぼけてないでちょっと力を貸して。またあのドレスお願い。今度は顔隠さなくていいから」


「むきゅ……」


 しばらく待ってみたけどマリスが反応しない。


「こら、寝てる? 起きなさい! ていっ」


 頭の上のリボン、つまりマリスを指先でつっつくと、「きゅー!? きゅきゅ!」って鳴いて、マリスが巨大化し私の体にまとわりついたかと思うと、一瞬でヒラヒラした真っ赤なドレスに変わる。


「うん♪ 相変わらず可愛い☆」


「姫ちゃん……今更言うのもなんなんすけど……えっと……その、そ、それめっちゃ似合ってるっす」


 デュクシが何か言おうとして違う事を言った。

 私にだってそれくらい分かるんだからね?


「デュクシ」


「は、ハイ!」


「今日はめっちゃくちゃこき使ってあげるからね♪」


「が、がんばるっす」


 うん。いい返事♪



 カジノの場所は少し離れていて、完全な繁華街の中心地にあるみたい。


 五階建てくらいの大きな建物が並んでいる区域に入り、地図を見ながら、とある建物と建物の間の細い路地を進んで行くと、ボロボロのドアがあった。


 コンコン。

 コンコン。

 コンコンコンコン。


 そのドアを二回、二回、四回、のペースでリズムよくノックすると、ドアが内側から開き、薄暗い部屋に通される。


 そこは飲み屋になってるみたいできっついお酒の匂いがぷ~んと漂っていた。


「うおぉ……酒くさいっすね……俺酒ダメなんすよ。匂いだけでも酔っちゃうんで……」


 こいつ割と弱点多いわね。


 でも今はデュクシの事なんて構ってられないから。ナーリアの無事を確認するまでは帰れない。


 私はガラの悪い連中の視線を集めながらカウンターへ向かい、椅子に座らずカウンターを指先でトントン。と叩く。


「へぇ。どこかのお嬢さんかい? 悪い事は言わねぇからミルク飲んで帰りな」


「あら、私ミルク大好きなのよ」


「あぁそうかい。じゃああっちに非常口があるからお帰り下さいな」


「そうするわ」


 話しかけてきたマスターとのやり取りを終え、言われた通り非常口らしきドアへ向かう。


「ちょ、ちょっと姫ちゃん。どういう事っすか? ここはもう用無いんすか?」


 デュクシが混乱するのも分かるけど、説明めんどいの。


 私がドアに近付き、ノックすると、ドアの向こうから声がする。


「お帰りですか?」


「ええ、少し気分が悪いの」


「かしこまりました」


 ここまでがジャックスにもらったメモ書きに書いてある手順。


 つまり、こんな面倒なやり方をしないとカジノには通してもらえないって訳。



 ドアが開き、向こう側へ出るとさらに薄暗い小部屋があって、タキシード姿でオールバックのおじさんが立ってた。


「ではメンバーカードを拝見いたしましょう。……ふむ。本物ですね。そこの男性がお連れの一名という事でよろしですか?」


「えぇ。それで構わないわ」


「かしこまりました。お嬢様は問題ありませんがお連れ様は……申し訳ありませんがこちらで服を貸し出しておりますので着替えて頂けますか? それと、武器もこちらで預かります」


 私はマリスドレスのおかげで大丈夫だったけど、デュクシは薄汚い冒険者ルックじゃダメだってさ。


「貸してくれるって言ってるんだから早く着替えちゃいなさい」


「えーっ、姫ちゃんが見てる前で着替えるんすか……?」


人が着替えてる所に問答無用で入ってきた前科がある癖に何言ってんのよ。


「それでしたらこちらに簡易更衣室を用意してありますので」


タキシードおじさんが部屋の隅に移動し、壁にあるスイッチを押すと、どういう仕掛けなのか天井からカーテンのような物が降りてきて、部屋の一角を囲った。


デュクシはタキシードおじさんから服を受け取り、頭をポリポリやりながらその中へと消え、次に出て来たときにはなかなか様になっていた。


「俺こういう堅苦しい服苦手なんすよ……」

「そう? でも似合ってるわよ♪」


デュクシに貸し出された服はこのタキシードおじさんと同じような服装で、これがなかなか見れる感じになってる。


「それではこちらからお入り下さい。どうぞ心行くまでごゆっくりと」


 タキシードおじさんが深々とお辞儀をしながら手振りでドアを示す。

 こうやって何か所もチェックを入れて、連れ以外の一見さんは入れないようにしていくわけね。


「うほぉ……こりゃすげーっすね!」


 ドアの向こうは今までの薄暗い空間とはまるで違い、豪華なシャンデリアが微かに揺れ、沢山の人が思い思いに様々なギャンブルに興じていた。


 みんな楽しそうだけど、それは勝ってるうちだけ。

 負ければ……。


「や、やめろぉ! 離してくれ! 明日なら、明日なら金を用意できるからっ!!」


 太ったお爺さんが黒いタキシードを纏った男性二人に両脇を掴まれ、どこかに引きずられてく。


「姫ちゃん……あれって……」


「んー? 未来が終わっちゃった人だよ? よく見ておきなさいね♪」


 デュクシは私の言葉に黙り込んだ。


 だってわざわざこんな所まで来てギャンブルするなんて自業自得でしょ?

 だから負けて人生終わる人の事なんてどーでもいい。


 私は何もしてないのにひどい目にあってるかもしれないナーリアを助け出せればそれでいいの。


「さぁてデュクシ」


「な、なんっすか……? 俺、嫌な予感がするんすけど……」



 いい勘してるじゃん♪


「めざせおくまんちょーじゃっ☆」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る