ぼっち姫、厄介事を頼まれる。
「とっ、とにかく……あの魔物は撃退したのである! この町にそのホビットドワーフが住まう限り、我はこの町に手を出す事はないと約束するのである! では……さらばである!」
ライゴスの言葉と共に、わっと歓声があがる。
どうやらあっちは全部終わったようだ。
これでこの茶番の幕が下りる。
俺はどっと疲れてしまってその場にへたり込んだ。
やっぱりこういう小細工は俺の性に合わないんだよ。
リュミアさえ居れば、あいつが民衆に「こいつらをよろしく頼む!」と言ってやればそれだけで済む事なのに。
そんな簡単な事ですらリュミア抜きではここまで面倒で気苦労が多い苦難を越えなければいけないのだ。
勇者ってすげぇなぁ。
やっぱ俺にはリュミアの代わりなんてできない。
できるとしたら……いや、やっぱりダメだ。
とにかく一刻も早くリュミアを見つけて無理矢理にでも勇者に復職してもらわにゃ俺の体……というより精神が持たない。
俺とめりにゃんはとりあえず、あの後ライノラスをこっそり町の外まで案内して、外でライゴスと合流し、ぬいぐるみに戻してプルットの家まで帰ってきたのだが……。
「結果的にうまくいってよかったっすね!」
「姫! 素敵でした。惚れ直しました!! 一生ついていきます!!」
あーあー。
自己嫌悪ってのはこういう事を言うんだろうか。
こんな事はもう二度とやらない。
絶対にだ。
とにかく、これでこの町とゴギスタ達の件は解決したと思っていいだろう。
「いやぁ~セスティ殿、それにしても恐ろしい強さでしたなぁ~。約束通りこのホビットドワーフ達は私がぁ~面倒見ますからねぇ~」
プルットが言うにはこの屋敷で掃除などをやってもらって、慣れてきたら炊事洗濯、そしてプルットの仕事に関する書類整理などの手伝いも任せるつもりだという。
町民にある程度の理解が得られたと確信できたら、外へ買い物などの用事も頼むつもりなのだそうだ。
俺が最初に思っていたプルットという人物像は、何か企んでいる質の悪い商人という感じだったのだが、どうやらただのお人よしだったらしい。
「そうそう。ちなぁ~みにですねぇ。ゴギスタ達を奴隷として売り捌こうとしていた商人なぁ~んですけどぉ~」
ん? 奴等の話ではリュミアがどうにかしたと言っていたが?
「勇者にこっぴどくやられた彼らはぁ~、拠点を別の町へ移しているらしいんでぇすよぉ~」
あぁ、リュミアの事だからこの町から追い出すくらいで許してしまったのかもしれない。
優しすぎるのも考えものなのよね。
私が隣でちゃんと見ていてあげないと……。
「セスティ殿」
リュミア一人じゃいつか悪い人に騙されて利用されちゃったりするかもしれないし……早く私の元に取り戻さないと……。
「セスティ殿?」
「えっ? な、何かしら……じゃなくて、なんだ?」
まただ。
特にリュミアに関する事になると気持ちが高ぶりやすい傾向にある。
これは気を付けないと、本当に近いうちに俺がどうにかなってしまいそうだ。
「セスティ殿はこの後どこへ向かうご予定ですかな?」
俺はこの町を立った後、リュミアの痕跡を探すためにナランへと向かうつもりだとプルットに伝えた。
「それならぁ~好都合ですぅ。こちらで身分証については用意しますのでぇ~。ナランに潜んでいる奴隷商人共をとっ捕まえてぇ頂きたぁ~いのです」
……はぁ?
「じゃあリュミアが懲らしめた奴隷商人共は今ナランに潜んでるって事か? それを俺に探せと?」
「はぁい。そのとぉ~りです。頼まれてはぁ~もらぁえませんかぁ~?」
うーん。正直言うとナランはかなり大きな街だし、うまく潜伏しているなら見つけるのはかなり大変だろう。
出来れば余計な時間を使いたくはないのだが……プルットにはいろいろ借りができてしまったからなぁ。
「ナランでなんの情報も無しで探すのは難しいと思うぞ? それとも何か当てがあるのか?」
俺の疑問にプルットはちゃんと答えを用意していたようだ。
「それに関してはぁ~大丈夫ですぅ。ナランには信頼している私の知人がぁおりましてぇ~。既に通信はぁ~入れてありま~す」
既に通信アイテムで連絡済みって事か。
じゃあ俺が断ったら身分証は発行しないつもりだったかもしれない。
やはりこの男……なかなか食えない奴なのかもしれない。
「出来ればぁ~私の縄張りでふざけた仕事を~してくれたそいつ等にはぁ、地獄を見せてやらないと気がすまないのでぇ~」
……。にこやかに今とんでもない事言いやがったなこいつ。
「それでぇ~。セスティ殿。もぉ~ちろん、やってくれまぁすよねぇ~?」
あ、はい。
顔はにこやかなままだけどこいつ目が笑ってねぇぞ。
それにしても、ゴギスタ達、大丈夫なんだろうか……少しだけ心配になってきた。
強く生きろよ。
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