ぼっち姫、衝撃の事実に混乱。


「めりにゃん……お前いったい……」


「どーじゃっ! 凄いじゃろ? 凄いじゃろ? 褒めてもいいんじゃぞ?」


 めりにゃんが目をキラキラさせてこちらを見つめてくる。

 そんな目で見られたらとりあえず褒めるしかないじゃないか。


「助かったよめりにゃん、本当に凄いよ。ありがとうな」


 少し背丈が大きくなって、俺の顔までの距離が近くなったその頭を撫でてやると「えへへ……♪」と笑いながらめりにゃんが俺の腕に絡みついてきた。


 ははは。可愛いやつめ。

 と、言って居られるのは最初だけで、かなり大きくなったアレが腕にめっちゃ押し付けられてきて一気になんとも言えぬ気持ちになる。


 自分はめりにゃんの保護者くらいのつもりでいた筈なのだ。

 だから、ある意味彼女は娘のようなもんであって、娘に胸を押し付けられたからってドキドキする親って結構ヤバい気がするんだよ。

 だからつまり落ち着け。

 冷静になれ。


 しかし、逆に考えるならこんなそわそわした気分を味わってる間は少なくとも男の俺のままで居られる訳だよな?

 それはそれでありなんじゃないだろうか?


「グルルオォォッォォッ」


 あっ、ごめん本気で忘れてた。

 俺の足の下で地面にめり込んでいるボアルドがあちこちからじゅくじゅく変な音をさせてもがいていた。


 どうやら再生力が高い方らしく、俺がめりにゃんと戯れている間に手足が治りかけているようだ。


 先ほどのめりにゃんの笑顔を見てしまったらすっかり毒気が抜けてしまい、足元のボアルドをどうにかしようという気分にはなれなかった。


「メディファス。こいつの狂戦士状態の解除を頼む。できるか?」


『……否定。精神が混乱状態になっている、あるいは洗脳状態などの、正常状態を上書きしているような場合ならばそれを排除する事で対応可能ですが、この者の場合はむしろ失っている為どうにもなりません。体の欠損等は癒す事ができても心は癒せません』


 メディファスの長々とした説明を聞いて、めりにゃんの顔からどんどん輝きが失われていく。


「つまり、ボアルドはもう助からないという事かのう……?」


『……』


「おい、どうなんだよ。何か方法は……」


『否定。現時点の我の能力では……』


 こいつはなんで俺の言葉にしか反応しないんだ。もう少し融通きかせてくれたっていいだろうよ。


「めりにゃん。残念だけど……こいつは俺が殺すよ。見たくなければ離れて」


 めりにゃんは俺の言葉に一瞬ハッとした表情をしたが、下唇を噛みながら少しだけ悩み、俺の体をぎゅっと抱きしめた。


「めりにゃん?」


「セスティ……。儂が、儂がやるのじゃ」


 めりにゃんは思いつめたような、それでいて覚悟を決めた目で俺を見つめる。


「……わかったよ」


 めりにゃんが自分の知っている相手を殺すと覚悟を決めたのだから邪魔はできない。

 俺は見守るだけだ。


「ボアルド……お主は、もう……本当に、本当に……もう……」


 覚悟はしたものの、やはりいざとなると怖いらしくめりにゃんが肩を震わせながらぽろぽろと涙をこぼす。


「び……ビルで、がルダ……ざま」


 ボアルドが地面に伏せたままめりにゃんを見上げ、目をギョロギョロとさせながら苦しそうに言葉を吐き出した。


 今こいつは自分の中に残っている僅かな自分を必死にかき集めてめりにゃんに語りかけようとしているのだろう。


 なかなか、やるじゃないか。


「ぼ、ボアルド! お主、意識が……意識があるんじゃな!?」


「ご、ごろじ、デ、グダ、ザい……」


「ボア……ルド……」


 めりにゃんは、ついに俺の手を放してしまい、また力が封印される。

 その小さくなった両の掌で顔を覆い、「うわぁぁぁぁぁぁん」と泣き崩れた。


「おで、がイ。ごどジデ」


「メディファス。最後の確認だ。こいつをどうにか救う手段は無いのか?」


 このボアルドとかいう魔物、漢じゃねぇかよ。


 出来れば殺したくなかったからメディファスに最後の確認をするが、『残念ながら』と無慈悲な即答が返ってくるだけだった。


 俺は辺りを見渡し、デュクシの落とした炎の魔剣を見つけるとそれを拾ってボアルドの頭に突きつける。


「めりにゃん。やっぱり俺が殺す」


「ひっぐ……えぐ……っ。ま、待つのじゃ……儂も、儂もやるのじゃ。ボアルドは儂に殺してくれと頼んだのじゃ。だから……だから……っ」


 めりにゃんは剣を持つ俺の手を両手で包み込むように握りしめる。

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら。


「あじ、あじガ、トう」


 俺とめりにゃんがその頭に剣をずぶりと突き立てる直前、ボアルドがとても安らかな顔でニッコリと笑った。


「めりにゃん。俺今までさ、自分の体を取り戻す為だけに魔王を倒すつもりだったんだ」


「……うん」


「だけどさ、遺跡でも言ったけど、俺魔王様って奴が大っ嫌いだわ。許せねぇよ」


「……うん」


 めりにゃんは俺の決意を、やはり複雑そうな顔をして聞いていた。

 静かに頷きながら、何かを確かめるように。何か、覚悟を決めるかのように。


「セスティ、儂は……儂は……っ」


「セスティ殿!! ご無事でしたか!!」


 遠くの方から俺に向けられた声。ライゴスだ。あいつも無事だったか。


「遅いよ。この二人であの数の魔物を相手できる訳ねぇだろうが」


「申し訳ないのである。魔王軍幹部のライノラスという者が来ていたので手一杯であった。セスティ殿が来てくれなんだら村を守るという約束も守れなかったであろう……不甲斐ないのである」


「まぁ結果はオーライだからいいさ」


「お、お前はライオン丸!? ライオン丸がなんでこんなところにおるのじゃっ!?」


「ライ……そ、その名前で我を呼ぶとは……セスティ殿、セスティ殿の後ろに隠れているその、お方は……まさか」


 あぁ、そういえば仲間の魔物がライゴスだとは言ってなかったもんな。めりにゃんの知り合いだったのか。


「ま、魔王様ではありませぬか!!」



 ……ほぇっ?

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