ぼっち姫、戦慄のめりにゃん。

「……あれ、これは……夢っすかね? それとも天国っすか?」


「違うよ。よく頑張ったな」


「あぁ、やっぱり、これは夢っす。姫ちゃんが、俺を抱き抱えてるなんて……ありえないっす」


 自分でこの状況を引き寄せたっていうのにのんきなもんだ。

 でも、それはそれで好都合だなと、俺はメディファスにある事を頼む。


『可能。それでは実行いたします』


「あぁ。頼むよ。まだこいつは知らない方がいい」


「よく、わかんねぇっすけど……姫ちゃんの腕の中で、死ねるなら……それも、いいっす」


「ばーか。お前もナーリアも死なないわよ。あとはこっちでやっておくから少し休みなさい。……よくやったわ」


「へ、へへ……」


 それだけ言うとデュクシは意識を失う。

 実際よくやったよ。


 あのままメディファスが扉を開けるのを待って、それから急いでここに駆け付けたとしても……きっとその頃にはもう二人は殺されてしまっていただろう。


 デュクシとナーリアが生存し、かつ、この戦いに勝利できるのは……。


「デュクシ、お前のおかげよ」


 あの時、デュクシはきっとスキルを使ったのだ。

 運を天に任せる。


 しかも、これはおそらく、なのだが……。

 あの極限状態で自分の力の正しい使い方に気が付いてしまったのだろう。


 つまり、確率操作のスキルで運を天に任せるの効果を常に最大限活用する。

 こいつの確率操作を使用すれば、何が起きるか分からない一か八かの危険なスキルをはずれを引く事なく利用できる。


 勿論それでも何が起きるのかはやってみないと分からないのだろうが、確率操作をするのであれば本人の望む結果が得られる現象がおきる筈だ。

 そして……このスキルは危険すぎる。


 今回は戦闘に勝利する為にデュクシが望んだ事が、『俺をこの場に呼ぶ』事だったからいいが、もしこれが仮に巨大な隕石を敵に落とすとかだったらどうなる?

 デュクシを含めこの辺一体は間違いなく消し飛ぶだろう。


 デュクシのスキルを聞いた時にもしかして、と思っていた事だが、実際にこの使い方が出来てしまうのであれば今のこいつにはまだ早い。

 俺はメディファスに記憶の操作ができるか確認し、運天を使った前後の記憶を改竄した。


 本来そんな事は許されないし、魔王がやった洗脳とあまり変わらないかもしれない。


 それでも……。

 こいつがもっと自分の決断にきちんとした覚悟を持てるようになるまではダメだ。

 その場の戦況が悪いからってこれを簡単に使うようでは困る。


 もっと成長して、安心してこの恐ろしい能力を任せられる日が来たら。

 その時は……。


「ぐるるるる……グォォォッ!!」


 おっと、忘れてたよ。まだお前が居たんだったな。


「セスティ。もし可能なら……」


 俺の隣には元の幼い外見に戻っためりにゃん。

 彼女の言いたい事は分かる。精神を操られて狂戦士化しているのであれば正常に戻してやりたいという事だろう。


 勿論それには同意するけれど、やっぱりやられた事はやり返さないと気が済まないよな?



「ボアルドって言ったっけ。とりあえず死なない程度にボコるけどいいよな? もし文句が言えるようになれば後で聞いてやるよ」


 俺目掛けて突進してくるボアルドの牙を掴んで相手の勢いを利用してぶん投げる。

 投げっぱなしじゃつまらないしすっきりしないのでそのまま地面に思い切り叩きつけた。


 お前がデュクシにやった事だよ。


 そのまま八回ほど振り回して地面に叩きつけ続けると、どうやらあちこちの骨が折れたらしくボアルドの手足が変な方向に曲がった。


 それでも狂戦士化しているボアルドは止まらず、俺が手を離すと折れた手足で無理やり地面を這いつくばるように突進を繰り返す。


 こうなってくると哀れでしかない。

 本人の意思とは無関係に動き続ける機械か何かのようになってしまっているのだ。


 そして、俺の一方的な暴力を見ても怯むことなく、周りを取り囲む魔物達が俺めがけて一斉に飛び掛かってきた。


「じゃますんじゃねぇよ!」


 そいつらを一匹ずつぶん殴って粉々にするが、どうやらこいつらも恐怖という感情が欠落してしまっているらしい。

 いうなればこいつらも被害者なんだろう。

 ……が、申し訳ないがお前ら全員にまで気を配ってやる余裕は俺には無い。


 だがこの量は確かにやっかいだ。

 一匹一匹は大した事ないし負ける事は無いのだが量が多すぎて時間がかかる上にうっとうしい。


「セスティ! もう一度じゃ!」


 突進してくるボアルドにかかと落としを入れて地面にめり込ませた所で、めりにゃんが俺のところへてってけ駆け寄ってきた。


「めりにゃん。近くに来ると危ないぞ」


「儂の事はいいのじゃ。それより……」


 そう言ってめりにゃんは俺の手を握る。

 ……そういう事か。


「いいのか? あいつらはめりにゃんと同じ魔物だろう?」


 めりにゃんは一瞬だけ、複雑そうな表情を浮かべたが、すぐに俺の方をまっすぐ見つめて「儂はもうセスティの仲間じゃ」と言った。


「分かった。よろしく頼むよ」


 俺はメディファスに要件を伝え、めりにゃんの力が開放される。


「ふふふっ。久しぶりに本気を出すのじゃ。儂の力をとくと見よっ!!」


 一回り大きくなっためりにゃんが羽根を数回はためかせて、空いている方の手を魔物の群れに向け叫ぶ。


超絶極大爆炎殺陣アルティメットエクスプロージョン!!」


 めりにゃんの手のひらから幾つもの細い炎の線が数本飛んで行く。

 意外と見た目は地味な攻撃魔法だな、というのがパッと見の感想だったのだが、それは大間違いだった。


 掌から伸びた線が地面に巨大な魔法陣のような物を描き、そこから再び、今度はその場に居る魔物全てを目掛けて炎の細い線が高速で飛んで行く。

 それらが魔物に触れた瞬間、とてつもない轟音が響き渡った。

 一体一体に伸びた線が同時に、その魔物を中心に大爆発を起こす。


 その一つ一つが俺の見た事がある魔法の威力を遥かに凌ぐ威力であるのは爆発の規模を見ればすぐにわかる。

 正直俺達まで巻き込まれるかと身構えたのだが、その辺は計算しているのか、爆風も爆炎もすべてこちらとは反対側へと吹き荒れていた。


 俺は言葉が出なかった。

 こんな大規模で、視界に入る全ての魔物を同時に捕捉し、かつそれぞれがとてつも無い威力で爆発を起こす。

 そんな魔法見た事が無いし聞いた事も無い。


 威力だけならアシュリーでも再現可能かもしれないが、この量の魔物を確実に捕捉する能力、爆発の向きの調整、それらがとても繊細なコントロールの上で発動している。


 俺はめりにゃんを過小評価していた。

 まさかここまでとんでもない奴だったとは思ってもいなかったのだ。


 せいぜい幼女な魔物が第二成長期少女な魔物になったくらいにしか思ってなかった。


 俺がそんな事を考えながら呆然とめりにゃんを見つめている間に、爆炎は収まり、残った物は魔物の残骸……いや、煙が消え視界がクリアになった時、そこには塵も残っていなかった。


「どーじゃっ☆ ヒルデガルダ・メリニャン様の力思い知ったかーっ!」

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