ぼっち姫、たてがみを触りたい。

「そういえば結局魔王軍はなんでこの村を襲おうとしたんだ?やっぱりリャナの町が目当てなのか?」


 ライゴスは膝についた砂を払いながら立ち上がる。

 やっぱり間近だとでけぇな。


「それもあると言えばあるのであるが、一番の目的はこの近くにある遺跡なのである」


 遺跡……?このあたりに遺跡があるなんて話は聞いた事がなかったが。


「その遺跡は魔王軍にとってそんなに重要なものなのか?」


「遺跡があるっすか!? 遺跡探検は男のロマンっすよ!」

「馬鹿デュクシちょっと黙ってなさい! 姫の邪魔です!」


 後ろで二人が騒いでいる。

 やかましい奴らだが、なかなか肝が据わってきたな。仲間になったとはいえ魔王軍の幹部を目の前にそれだけわいわいやれるのは大したものである。


「我等も最近になって発見した物なのだ。その遺跡から膨大な魔力が漏れ出しているのが分かり、その調査と、もしアーティファクトならば回収せよとの命でな」


「アーティファクトだと!?」


 確かにアーティファクトがあるとなれば魔王軍が確保に動く理由も分らんでもないが……正直眉唾である。

 アーティファクトというのは神々が残した遺産と言われており、それ単体で恐ろしい程の効力を持った器具である。


 まだ世界に三つ程しか発見例が無いのだが、それぞれの効果は物によって違う。


 例えば一つは王都ディレクシアが保有していて、半径十キロほどの区域に完全防御壁を張る物だと言われている。

 ただ、範囲と効果が絶大な代わりにその基準がはっきりしないという噂だ。

 つまり、何から守る防御壁なのか。


 それが常時発動式の防御壁だったとして、人間は普通に出入りできている。

 人間と魔物を区別する何かがあるのかもしれないが、マリスは王都に問題なく来れていた。

 可能性としては防御壁内へ直接転移してくる場合は大丈夫なのか、あるいは強い悪意の持ち主や攻撃だけをはじく物なのか。

 その詳細は王を含め数人しか把握していないらしい。

 昔騎士団の知り合いに聞いただけだからどこまで正しい情報かもわからないが。



 二つ目はエルフが保有しているらしいが詳しい事はわからない。

 あの連中が人間に重要な情報を開示する訳がないのだ。

 残念ながらアシュリーはハーフエルフ故に、エルフの森に住んでいるとはいえそういう重要な情報を知る立場には無かったらしい。

 そもそもハーフエルフというのはエルフ内からは嫌われていて、そのせいで森の中でも隅の隅、僻地に追いやられているのだから知らなくても仕方がない。


 三つ目は魔王軍が保有しているという話だがこれも詳しい情報はわからない。

 ライゴスなら何か知っているだろうか?


「ライゴス、魔王軍が持ってるっていうアーティファクトはどんな効力なんだ?」


 ライゴスは無言で、自分の首のあたりを指さした。


 そういう事か。

 つまり魔王は自分の配下が裏切らないようにアーティファクトを用いて呪いをかけていたのだろう。


 俺でも壊せなかった所を見るとアーティファクトの能力というのは侮れないのがよく分かる。


「それで、その遺跡にもしかしたらアーティファクトがあるかもしれないんだな? でもなんだってわざわざここに拠点を作る必要がある?」


「それなのである。実は既に先遣部隊が調査に入っているのだ。そして、誰も帰ってはこなかった」


 なるほどな。要するにそれだけ危険な場所だという事だ。だから一度近場に拠点を築いて、本格的に遺跡探索をしようという訳だな。


 そうなると問題がある。

 ライゴスを味方にしたところで、その遺跡の謎が解明されない限り再び魔王軍はこの村を襲う。


「我が敗れたと知れば奴らはすぐに行動に移すであろう。この村か、あるいは直接遺跡か……どちらに行くかは我も分りかねるが」


 どっちが優先だ?

 村は守らないといけない。でも遺跡をどうにかしないとこの村は襲われ続ける。


「ライゴス。頼みがある」


「なんなりと言うがいい。命に代えても果たしてみせようぞ」


「なんだか俺たち蚊帳の外っすね」

「寂しい…けど仕方ないのです。我慢しなければ」


 二人がだんだんやさぐれてきたな。


「おい、お前らにも頼みがあるんだが」


「「はい!」」


 急ににぱっと明るい顔になって俺の近くまで小走りで寄ってくる。

 まるで子犬のようだ。


「まずお前らは、ライゴスが危険じゃない事を村に残っている奴らに説明しろ。もともと紳士的だったし、俺に負けて仲間になったって言えば村長なら信じるだろう。ほかの連中はお前らがどうにかしろ」


 問題はテロアだなぁ。

 下手をするとライゴスに切りかかってくるかもしれない。ライゴスならなんともないだろうけれど。


「ライゴス、お前はもしこの村が再び襲われるような事があったら……」


「承知。必ずや守り切ってみせよう」


 こいつほんとにさっきまで人間の敵だったのか?仮にも魔王軍の幹部だろう?

 そんなに魔王って奴は人望がないのかね? そりゃ呪いかけて無理やりこきつかってるような奴だからしかたないか。


 しかしライゴスは察しがいい。

 俺が言い終わる前に自分がすべき事を把握して食い気味に返事してきたな。


 頼もしい味方ができたものだ。


「お前らも何かあればライゴスのサポートをするんだ。邪魔にならないようにな」


「はいっす! 俺も村を守るっすよ!」

「私だって。弓で遠距離からなら邪魔にならず援護できる筈です」


「お主等…我が怖くはないのであるか?」


 ライゴスはどう接していいのかわからないようだ。

 しかしこいつらにそんな気を使う必要は無い。


「姫ちゃんを好きな人に悪い奴はいないっす!」

「姫のしもべであれば私たちは同列、仲間ですよ」


 ライゴスが、二人の言葉を聞いて困ったようにこちらを見ている。

 額からきらりと一筋汗が落ちていった。


 わかる。わかるよ。お前は正常だ。

 俺の苦労を分かってくれるか?

 ライゴスはふさふさのたてがみを撫でながら気持ちを落ち着かせ、「よろしく頼む」と頭を下げた。

 しかしいいなぁそれ。後でそのたてがみ触らせてもらおっと。



「じゃあお前ら私が留守の間はよろしくお願いね」


 私はあっちをどうにかしてこよう。地下に広がる遺跡なら大人数だと動きにくいしね。


 さってとー!


 そうと決まれば!


「遺跡探検、してくるねっ☆」

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