ぼっち姫、念願の「お前を屠る者の名だ」を言う。
「姫様! そんな事断じて認められません!」
村を救う契約をしたのだが、テロアがいつまでもギャーギャー騒いでうっとうしい。
「お前少し黙ってろよ」
こういうのって上手くいくか分からなかったのでとりあえず試しに手刀を首筋にかましてやった。
「うごっ」という声をあげたテロアは白目を剥いてその場に崩れおちた。
倒れて口から泡を吹いている。
…ちょっとやりすぎたかもしれない。
「姫ちゃん、こいつどうするんすか……?」
「ジジイ! どっか適当に部屋借りるぞ」
村長は、いまいちどういう状況か分かっていなかったようだが、そんな事問題じゃない。
「デュクシ、ナーリア。そいつを縛り上げてどっかの部屋に放り込んどいて」
俺の言葉に二人がかりでテロアをどこかへ運び出した。
「おいジジイ。あの騎士は何の用でここに来たんだ?」
「あ、あぁ……それはですな」
村長はテロアを心配しているのか若干困惑しながらも今までの経緯を話してくれた。
つまりは、この村から逃げた者が王都に直訴したらしい。
数日後に村が魔物の群れに襲われる。助けてほしい、と。
しかし、こんな何もない村を群れで襲ってくるとは信じられなかった奴らはまず人を送って調査をしにきたのだとか。
それに立候補したのがあのテロアだった。
わざわざこんなところまで一人で調べに来るって事はそれなりに正義感がある男なのだろう。
結局、村長の言葉を信じたテロアは、王都まで戻って部隊を用意する時間がない事に気付き、村人をなんとか非難させようとしたそうだ。
しかし、村長は目も見えず足も悪い。
他にも老人たちは動けない者もいる。
同じく村と運命を共にしようとする者達も。
結果的にテロアは諦めるしかなかった。
だが、奴は一人で魔物と戦うつもりだったと村長は語る。
「テロアって野郎がどのくらい強いのか知らないが、俺が来たからにはもうこの村は大丈夫だ。安心していい。それで、期限の日はいつなんだ?」
「予定では、明日がその期限なんですじゃ」
確かに今から王都に戻っていたらここに再び到着する頃には村が滅びているだろう。
俺ならここに粉を巻いて王都に一瞬で行く事ができるが、大人数を連れて帰ってくる事はできない。
せいぜい五人がいいところだろう。
そんな事に大事な転移アイテムを使いたくはないし、自力でどうにかしよう。
その夜、テロアは目を覚まし俺らに対してずっと説得を繰り返したが、あまりにうるさいのでもう一度昏倒させた。
勢いあまって殺してしまわないかちょっと心配だったがこの体だと以前ほどには力が出ないのである意味丁度良かった。
「しかし魔物の群れとは……私達に何かお役に立てる事があるのでしょうか?」
「お、俺もできる限りの事はするっす!」
二人はこんな所で大型戦闘に巻き込まれる事になってしまい大分緊張しているようだ。
「今回は規模が規模だからな。お前らは俺のうち漏らしがあった時に村人を守ってくれさえすればそれでいい」
そう、今回はさすがにこいつらには荷が重いだろう。
できる限り俺だけで対処しないと。
そして翌日、その時はやってくる。
「魔物が群れでやってくると聞いたんだが?」
意外な事に、村に訪れた魔物は一体だけだった。
しかし、その魔物を目にした瞬間デュクシとナーリアは完全に戦意を喪失した。
それくらい危険な相手だった。
特に態度で圧をかけてくる訳でもないのにこの存在感とオーラは大したものである。
そして、一瞬にして自分達との格の違いに気付いた二人も、思ったよりは成長してきているのかもしれない。
「……小娘。悪い事は言わん。今すぐここを去れ。そうすれば命は助かるのである」
「あら、心配してくれて嬉しいわ♪ ……でも、残念だけど今すぐここをされば命は助かるって、お前の方だからな」
「そうか。無益な殺生は好まぬのだが……そちらがどうしても邪魔をするというのなら仕方あるまい。逃げたくなったらいつでも命乞いを聞いてやるから気が変わったら早めに言うのである」
なんだこいつ。随分紳士的だな。
その魔物は身長が大体二メートル半ってところか。
獅子のような顔、厳つい体。そしてゴツゴツした鎧を身に纏っていて、ひときわ目立つのが肩に担いだその巨大な斧だろう。
「我はお前のような勇敢な人間は嫌いではない。しかし、自分の力量を図れぬ愚かな人間には教育が必要であろうな」
「今の言葉そっくりそのまま返してやるぜ。お前名前はなんていうんだ?」
見た感じ確実に幹部クラスだろう。
幹部クラスには通常魔王が名付けた名前があるはず。
「我の名はライゴス。イオン・ライゴスである。小娘、貴様の名はなんという?」
「……一度言ってみたかったセリフがあるから言わせてくれよ。俺はセスティ。覚えときな。お前を屠る者の名だ」
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