ぼっち姫、村救うってよ。


「……おいテロアさんとやらよ。うちの姫ちゃんは姫ちゃんだけどあんたの言う姫とはちょっと違う姫ちゃんっすよ」


 ちょっとお前黙ってろよ。かっこつけてるつもりなのかもしれないけどかなり何言ってるかわからねぇって。


「この馬鹿の言う通り、外見はよく似ていますが姫はローゼリアの姫とは別人ですよ? 姫は姫です」


 この外見を知っている奴が現れて二人ともテンパってるな。庇おうとしてくれるのはありがたいけどその説明だけで納得するのは難しいだろうよ。


「あなた方がどなたかは存じませんが、間違いなくこの方はローゼリアの姫君です。私は以前ローゼリアに使者として数日間ローゼリア城に滞在した事がありますし、このような美しい方を見間違える事はありません」


「美しいなんて褒めすぎだってば♪」


「……確かに、あの時とはどこか雰囲気が違う気がしますが……」


 おいてめぇこらどういう意味だよ。


 ……いや、いやいやそうじゃなくてだな。しっかりしろ俺。


「テロアって言ったよな? 詳しい説明は省くけど、俺はセスティだ。名前くらい聞いた事あんだろ?」


「セスティ? セスティというとあの鬼神のセスティですか? 勇者一行の? はは、ご冗談を」


「それが冗談じゃなくてよ。訳あってローゼリアの姫さんの体に俺の精神が入ってるって状態なわけよ」


 俺が丁寧に説明してやったというのにこの男は全く信じようとしなかった。


「流石に無理がありすぎでしょう。貴女がなぜこんな所にいて、何故鬼神の名をかたっているのかについては聞かない方がよさそうですね。何か大変な事情があるのでしょう」


 ちげーって。

 でもこれが普通の反応なのかしら。

 とりあえず誤解が深まれば深まるほど呪いが跳ね返ってくるのがこまるんだよね。


「もしこの村で用事があるのなら早めに済ませて帰った方がいい。とりあえず私が護衛につきますから」


「姫ちゃんには俺らがついてるっすよ!」

「姫には私達がついています!」


 思わぬ反撃に合いテロアが一瞬怯んでこちらへ視線を投げてくる。

 こいつからしたら二人は駆け出し冒険者にしか見えないだろうからこの反応は正しい。

 実際へっぽこ冒険者だしなぁ。


「姫様、こ、こちらの二人は従者でしょうか?」


「んー。まぁそんな感じかな♪」


 もうめんどくせぇからいいや。


「それより村長に話があるんだけど通してもらえる?」


 テロアは、「失礼いたしました」と言って道をあける。

 そして後ろをついてくる。

 お前はさっさとどっか行けばいいのに。暇人め。


 勝手についてきたテロアが「その奥に村長がいらっしゃいます」と言うので言われた通り一番奥にあるドアを開けると、以前も見たことのあるしわくちゃの老人がロッキングチェアに座り、緩やかに前後に揺れていた。


「……おや、随分久しぶりの方がいらしているようですな」


「誰の事っすかね?」


 デュクシの疑問はもっともだ。

 テロアは先ほどまでここにいたのだろうし、デュクシとナーリアもこの村は初めてのはずだし……。

 この爺もしかして……。


「まさか俺の事がわかるのか?」


 村長は「ほっほっほ」と顎から伸びた長くっ真っ白な髭を撫でながら「随分可愛らしい声になっておりますが分かりますよ」と笑った。


「どういう理屈かわからねぇけどそれなら話が早い。ここにリュミアは来なかったか?」


「リュミアとは勇者殿ですね?姫様は勇者をお探しなのですか?」


 テロアが会話に割って入ってきたが、俺は無視する事にした。

 余計なメンツが増えると面倒だし話が進まない。


「この歳になると目がほとんど見えなくてのう。目に見えない事もわかるようになってくるんじゃよ。……それはそうと、リュミアでしたら先日便りが届きましたな」


 マジか!? この村にはいないという事だがそれでも手掛かりになるなら助かる。


「それで、どこに居るだとかどこに行くとか何か書いてなかったか?」


「なにせ目が悪いもんで村の者に読んでもらったんじゃがの、特に今何をしているとかそういう話は無かったのう。昔ここに居た時の話や、またいずれ会いに行くだとかそういう話じゃった。それももうかなわないじゃろうけどのう。ワシは嬉しかった」


 ここに来るかもしれないなら村の人間に伝言を頼むなりすればなんとかなるかもしれない……が、この村が無くなってしまったらそれも無理か。


「おい、ジジイ。リュミアがここに立ち寄った時に無条件で俺にその情報を渡せ。何をどうするかは後で考えるから、まずは俺の条件を飲むかどうかだけ答えろ」


 テロア、デュクシ、ナーリアが、俺がいきなり何を言い出したのかとこちらを訝し気に見ている。


「それは構いませんが……村の者に聞いておりませんかな?この村ももう滅ぶ運命でしてのう」


 だから、


「俺の条件を飲むなら俺がこの村を救ってやるって言ってるんだよ」


「ちょっ、姫様、いけません! いったい何を考えていらっしゃるんですか!?」


 テロアがわざとらしいくらいに慌てだす。

 本当にうるさい奴だ。もう少し私の従者をみならったらどうなの?


「姫ちゃんならそういう事になると思ってたっすよ」

「姫なら困っている村を放置するはずありませんものね」


 気に入らないけど二人の言う通り。


「し、しかし満足のいく報酬などもこの村には……」


「だーかーらー。私が必要な時に必要な情報を横流ししてくれればそれでいいってば」


 村長は見えていないであろうその濁った眼を大きく見開いて、恥ずかしげもなくボロボロと涙を膝に落とした。



「お、おぉ……。ありがとう、ありがとうございます……」


「まっかせなさいっ☆」

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