ぼっち姫は目立ちたくない!【完結】

monaka

第一部:プロローグ。

勇者逃亡パーティ崩壊。


「俺、勇者を辞めようと思う」


 突然そんな事を言い出したのは俺のパーティで勇者をやっているリュミアだ。


 外見はこれ以上無いほど整っていて、身長は高く細見で女子と見間違える程の美貌。

 そんな外見だから女性からの人気はとても高く、彼の名声が広まる度にファンクラブの人数はどんどん増えていく。


 パーティに居なくてはならない人物だ。


「どうして突然辞めるなんて…考え直してくれよ。お前が居なくなったら俺達のパーティはどうなる? 世界中がお前に期待してるんだぞ!」


 俺は必死にリュミアを説得するが、彼の決意は変わらない。


「それだよ。俺はそんな期待されるような勇者じゃない」


 ちょっとメンタル的に弱い部分があるのが玉に瑕だが、勇者に必要なのはカリスマ性だ。


 この人にならついて行きたい。


 この人ならきっと魔王を倒してくれるに違いない。


 この人なら…。



 そんな風に思える人物である事が重要なのだ。


 それに必要な要素はいろいろあるが、一番わかりやすいのが外見である。


 俺はリュミア程整った外見の人間を知らない。


 こいつ以外には有り得ないのだ。


 勿論勇者というからにはそれなりの実力が伴わなければいけない。


 リュミアならそれもそれなりにクリアしている。



「なんでそんなにネガティブに考えてるんだよ。今までだってずっと勇者としてやってきたじゃないか」


「そんな物は見せかけだっ!」


 リュミアが顔を真っ赤にしながら大声で叫ぶ。


「そんな大声出すなよ。何がそんなに気に入らないんだ?」


「勇者なんてただの偶像だ。あいつ等は俺っていう人間をアイドルか何かと勘違いしてるんだよ!」


「それの何がいけない? 最近は魔王軍もおとなしいが、みんな魔物を恐れ、何かに縋りたいんだよ。お前ならやってくれるってみんな信じてるんだ。その期待がプレッシャーだって言うなら心配するな。お前は十分立派な勇者だよ。俺が保証する!」


「お前の保証? ふざけるなっ!」


 リュミアはその整った顔をくしゃくしゃに歪ませて俺を睨む。


「姫に保証されても嬉しくもなんともないんだよ! だって、だって…」


 ついにリュミアはぼろぼろと大粒の涙を零す。


 どうでもいいけど姫って言うなや。


「俺の活躍は…みんな、ほんとはみんなお前がやった事じゃないか! うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 その言葉を最後にリュミアは俺たちが泊まっている宿屋を飛び出し、行方をくらました。


 俺も慌てて追いかけようとしたのだが、間の悪い事に突然隣の部屋から我がパーティの格闘家であるジービルが出てきた。


 勢いよく開かれた扉が俺の目の前いっぱいに広がり、走っていた俺は当然扉に激突してしまう。


「いってぇーなジービル! ドアはもっと静かにあけろよ!」


「んー? あぁ、姫じゃないか。さっきの、騒ぎは……いったい、なんだ? 何か、あったの……か?」


「姫って言うな! それよりリュミアが逃げた!」


 ジービルは寝起きでうまく頭が働いていないらしく、俺の言葉を聞いても「あー?」とか「うー?」とか言っていたが、やがて状況を把握したらしく「え、えらい、こっちゃ!」と宿屋を飛び出していった。


 ジービルは格闘家としてはかなりの実力者で、一撃は凄まじく重たいのだが魔法によるサポートで素早さを上げないと非常に遅い。


 二メートルをこえる巨漢で、筋肉の塊であるジービルはとにかく動きがスローなのだ。


 そんなジービルがドタドタと追いかけたところでリュミアには追いつけないだろう。


「…あーあ。いつかこんな日が来るんじゃないかと思ってたのよね」


 いつから見ていたのか、未だに床に尻もちをついている俺の背後からアシュリーの声がする。


 アシュリーというのは我がパーティの魔法使い。しかも世界中に数人しか存在しない大賢者の称号を持つ程の実力者である。


 少し幼い顔、銀色の長くしなやかな髪。


 そしてその髪からのぞく尖った耳。


 アシュリーは人間とエルフの親から生まれたハーフエルフだった。


「だから私前から忠告してたよね? こんな関係いつまでも続かないってさ」


「……それは、そうだけど……。何もこんな突然……」


 アシュリーに返事をしながらゆっくりと立ち上がる。

 思い切り尻を打ち付けていたので少し痛い。


「リュミアはあれでいてプライドの高い男よ。今までは勇者としての責任感で耐え続けていたようだけれど……さすがに何の役にも立たなけりゃ逃げたくもなるでしょ」


「リュミアが何の役にも立ってないだって? あいつは勇者として世界中の人々の希望になってるじゃないか。それはあいつにしか出来ない事なんだぞ?」



 そうだ。いったい誰に勇者の代わりが出来るっていうんだ。

 リュミア以上にその資格のある人間などこの世にいるものか。


「相変わらず姫はリュミアが大好きみたいだね。でもさ、この前倒した魔王軍の幹部だって結局姫が倒したんだし、リュミアは民間人の避難誘導してただけじゃん」


「そうやって人の為に動く事が尊いんだろ? 汚い仕事なんか俺等に任せておけばいいんだよ!」


「……そういう所じゃないかな」


 どういう意味だ。


「姫がそうやって過保護にしすぎて、闘いは全部引き受けて自分だけでなんとかしてその手柄を全部リュミアの物にしてばっかりだから限界がきてしまったのよ」


 俺か?

 俺のせいなのか?


「俺がリュミアのプライドを傷付けてたって言うのか?」


「そりゃもうボロクソにね」


 ……うぅ。

 リュミア、いったいどこに行ってしまったんだ。


 早く帰ってきてくれよ。


 お前がいないと勇者御一行じゃなくてただのヤバい奴らの集まりになっちまうじゃないか。




「はぁ……はぁ……リュミア、どこにも、いない」


 そこらじゅう走り回って探してきたのだろう。

 ジービルが気持ち悪いくらいの量の汗を垂れ流しながら宿に帰ってきた。


「姫……リュミア見つからない。どうしよう?」


「勇者が居なくなったパーティか……これからどうするのよ姫」


「だから姫って言うなよ……」




 ほんとに、これからどうしよう。


 それから念のために一週間程その宿でリュミアの帰りを待ったが、結局帰ってくる事はなかった。


「俺、リュミア居ないなら国に帰る」


 肩を落とし、しょんぼりした顔でジービルが呟いた。


 彼は俗に言う気は小さいが力持ち、的なタイプで、力はあるのに自分を信じる事が出来ずにいた。


 とある闘いの中でリュミアが自分より強い相手に何度やられても負けずに立ち向かっていく姿に心打たれて俺達のパーティに加わった。


 ちなみにその時まだアシュリーは居なかったし、俺は雑用で買い出しに行っていた。


 ジービルの暮らしていた村が魔物に襲われた時、その場に居たのはリュミアだけだったのだ。



 結果的に勇気を振り絞ったジービルが魔物を退治したのだが、彼の中でリュミアはそれこそ自分がついて行くべき主人であり、英雄なのだ。


 それが居なくなってしまったのだからパーティに残る意味もなくなってしまったと、そういう訳である。


 さすがにそれを引き留めるだけの人徳が俺には無い。


「これで勇者と格闘家が居なくなった訳ね。これは流石に契約違反なんじゃない? 何か言い訳は?」


「……ない」


 アシュリーは、その当時既に名前が広まり始めていたリュミア、そして高スペックの格闘家、そして俺、というパーティに興味を持ってくれて、この面子となら一緒に旅をしてもいいとパーティに入ってくれた。


 もともと大賢者と名高いアシュリーは沢山のパーティからお誘いがあったのだが、その中から俺達のところに来てくれたのはリュミアを中心に集まったメンバーが居てこそなのだ。


「……あっそ。じゃあ私も帰るわね。もし全員がまた揃う事があれば連絡頂戴。そしたらまた力を貸してあげる」


 その言葉を残しアシュリーの姿が消える。

 転移魔法で家に帰ってしまったのだろう。



 一人ぼっちになってしまった。



 俺だけで何ができる?


 俺はリュミアが好きだ。


 あの純粋な所も、決して諦めないところも、弱い癖に前線で戦おうとする所も。

 そしてその優しさ、カリスマ性、容姿。


 実力以外の部分で勇者としての資質を完璧に兼ね備えている。


 俺にはリュミアが必要だ。

 あいつが勇者をしてくれないと困る。


 世界は魔王に狙われているし、個人的な理由もあるから倒さなきゃいけない。



 だけど


 だけど……



 俺は目立ちたくないんだよ!



 ほんと、これからどうしよう……?





――――――――――――――――


お読み下さり有り難うございます☆

数ある作品の中からぼっち姫を見つけて下さり感謝です(´;ω;`)

おかげ様でこの作品は小説家になろうにて【130万PV突破しました!!!】

これも応援して下さる皆様のおかげです!


先が気になる、面白いと思って頂けましたら是非応援ボタンポチっとして頂いたり☆評価などして頂けるとモチベが上がるのでなにとぞ!

(´;ω;`)

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