ある魔法使いの苦悩83 ひさしぶりにストーク登場
アメリア君による私たちへの魔法指導はしばらく続いた。
サラはめきめきと実力を伸ばし、私もそれなりに順調に進んでいる。シンクの魔力は徐々に徐々に上がっていってはいるものの、魔法を使うのに充分なほどには高まらない。まだまだ時間がかかりそうだ。
指導は毎日あるわけではなく、指導のない日は私は受け持っている魔法のカスタマイズの仕事をこなしていた。自分が使える魔法が増えていることもあり、カスタマイズも意外とすんなり行くことが増えてきた。本当に今までが嘘のように効率的に処理をすることができ、私に流れてくる仕事の難易度も徐々に上がっていった。
私はここ数日で無事にカスタマイズが成功した魔法の構造式を記したレポートを事務局に納めると、達成感を身体で現すかのように大きく背伸びをした。しばらく机での作業が多かったので、凝り固まった身体が解放感に嬉しい悲鳴をあげている。
「ファーレン先輩!」
そんなとき、聞き覚えのある声が私の背後から聞こえてきた。振り返るとそこには懐かしい顔があった。
「ストーク君じゃないか! しばらく見かけなかったけど、元気だったかい?」
「はい。おかげさまで順調です」
「おかげさまって、私は何もしていないじゃないか」
「確かにそうですね……でも、俺はあの日の経験を大事にしてるんですよ」
ストーク君の言う「あの日」とはもちろんドラゴン――青龍の救助のことだ。アメリア君と共にチームファーレンとしての初仕事となった私にとっても重要なイベントだ。
騎士ではなく魔法使いとして生きる道を選んだストーク君は、しかし持っている素質のためか戦士に近い魔法戦士というスタイルだ。私の目指す魔法戦士は魔法使い寄りなのでストーク君となら被らずに共存できる。肩を並べられるほどの実力など持っていない私がそんなことを思うのは傲慢にすぎないが、思うだけなら自由だろう。理想や目標は高いほうが伸び具合もいいと聞くじゃないか。私がストーク君のような魔法戦士を目指したっていい。
「ファーレンさんは白虎をも助けたと聞きました。さすがですね」
「いやいや、よしてくれ。頑張ったのはサラだよ。それに手伝ってくれた仲間の力も大きい。私だけの功績になんてできないよ」
「たとえサラさんが頑張ったのが事実だとしても、俺はファーレンさんもしっかりと貢献していると思いますよ。意外と自分のことは見えていないものですからね」
ストーク君はニカッとまるで太陽のように眩しい笑顔を浮かべた。クールタイプだと思っていたが、こういった爽やかさを出してもとても似合う。
それにしても、私をやたらと持ち上げようとするのはちょっとくすぐったいな。
「私の力を認めてくれるのは正直嬉しい。ありがとう、ストーク君」
「いえ、俺はただ自分が思ったことをそのまま言っただけです」
「どちらにしても同じことだよ。私はどうも今までの経緯から自分のことを過小に評価してしまう。どうせ私なんか、という奴だな」
私は苦笑いを浮かべた。こういう表情が出てしまうのも悪い癖だな。
「そういうところは時間をかけて直していきましょう。ファーレンさんはもっと自信を持っていいと思いますよ。評価軸としてはおかしいかもしれませんが、冒険のできる研究者は貴重です。なんのために騎士団や魔法兵団がいるのかっていう話ですからね」
「……そうだね。所長もそこを買ってくれているから、私に四獣の救助というミッションを与えてくれたんだ。私は他の人とは違うことをやっている。比較することなんてできないんだから、私は私のできる全力を尽くせばいいんだよな」
「いい感じです。俺も機会があればまたファーレンさんと冒険がしたいと思っていますから」
「ストーク君が? それは本当にありがたい話だよ」
ストーク君のような実力者がパーティーにいるのは戦力としてとても大きい。シンクという戦士が加わったものの、彼女は弓使いで遠隔攻撃が主体だ。私とサラは魔法使いだから、本来は前衛ではないシンクが前に出ることになる。サラが附与魔法を使って肉体強化をすることで前衛でも戦えるとはいえ、魔法使いはあまり最前線で戦うべきではない。
「そういえばストーク君は今何をしているんだい? 大規模魔法の開発でもしているのかな?」
「いえ、俺は調査です」
「調査?」
「はい。所長からの任命で少数チームで朱雀の情報を集めているところです」
「朱雀の情報! 所長が精査するとは言っていたが、その担当がキミだったのか」
「ただ……あまり芳しくないですね」
ストーク君は悔しそうに顔を歪めた。
「玄武チームのことまではわからないのですが、朱雀の情報は想像以上に少ないです」
「そうか……。ここまで長く生きた四獣だから今日明日動けなかったからといってどうにかなってしまうとは思えないが、少しでも早く助けに行きたいところだよ」
「期待に応えられるように頑張ります。俺は一旦報告と準備を終えたらまた出るつもりです」
「長居はできないのかい?」
「そうですね。成果が上がっていませんから、あまりのんびりというわけにはいかないかと」
「残念だよ。前回はキミの普段見られない姿が見れてちょっと楽しかったんだけどね」
「あれは! ……アメリアの策略にまんまと乗せられた俺の失態です。次はもうあんなことにならないようにします」
「そうかい? 弱点や苦手があったほうが人間味を感じていいと思うんだけどね、私は」
「その意見には賛成です。でも、やはりせっかくの機会を台なしにしたのは俺としては簡単には許容できません」
「なら、また行こうじゃないか。次はアメリア君に負けないようにしないとな」
「勝ち負けではないですが……そうですね。ぜひ行きましょう」
私とストーク君はガッシと握手をした。
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