ある魔法使いの苦悩20 ドラゴン祭り!?

「まずは情報収集から始めよう」


 私たちは休憩を挟みつつ、騎士団がドラゴンのこどもの噂を聞いた街へとやってきた。


 そこで驚いたのが、この街がすでに”ドラゴン祭り”を開催していたことだ。


 ドラゴンのこどものことはまだ噂段階の話だと思っていたが、もしかしたらもう誰かが見つけていたのだろう。そもそも噂になるということは、その存在を確認した結果の可能性は充分ある。


「ファーレンさん、何だかスゴイ賑わいですよ」


「本当だよ。もしかしたら私たちはもう出遅れてしまったのかもしれない」


「少し話を聞いてきます」


 街の中は安全と判断したのか、ストーク君はサラを私に預けると、スタスタとどこかへと行ってしまった。


 行動力があるなぁ。


「あたしたちはどうします?」


「ただ待っているのもあれだけど、バラバラに動いてストーク君は私たちを探せるのかな?」


「それなら大丈夫だと思います。ストークは空間把握能力が高いって評判だから、誰がどこにいてもわりと簡単に見つけちゃうんですよ」


「そいつはまたスゴイ能力を持っているな。全部入りだな」


「全部入り?」


 アメリア君が頭の上にハテナマークを乗せる。


「あぁ、あまり使わないか。全部入りっていうのは、トッピングができる料理にそのトッピングを全部追加しちゃうことを言うんだ。だから、ストーク君は”魔法使いの全部入り”だなってね」


「そういうことですか! たしかにストークはあたしと比べるとアレコレとできることが多いんですよね」


 マルチタレントというスキルがある。正確にはスキルではなく状態だが。


 運動もできて勉強もできるのに、外見も美しくて立ち居振る舞いすらも上品とかそういうのもあるし、魔法も使えて剣術にも秀でて、交渉力もあって行動力もある。その上で外見にも気を遣って、控えめでやさしいとか完璧超人だ。


 これが全部ストーク君に当てはまるのが怖い。


「ストーク君の情報収集能力はとても期待できそうだけど、それじゃあ彼にもうしわけない。やはり私たちも聞き込みをしておいたほうがいいだろう」


「賛成。ここは無難に酒場ですかね?」


 アメリア君がジョッキを煽る仕草をする。にへっと笑うさまは存外にかわいらしい。


「さすがにまだ時間が早いだろう。この街の警備を担当している者が適任だと思うけど、まずは祭りに参加している人に声をかけてみようか」


 私たちはまずはドラゴン祭りで盛り上がっている住人に話を聞いてみることにした。


 結果から言ってしまえばハズレだ。


 住民やこの街を訪れている旅人や旅行者は、ドラゴン祭りの意味もわからずに参加していた。盛り上がっている祭りには参加するだけでもたのしいから、それも仕方がない。


「ファーレン、あれはなに?」


 サラがどこかを指差す。


「ん? あれは、ドラゴン? ……じゃないよな、さすがに」


 露天のお姉さんがケージに入れた生き物を売っているようだ。この距離からだと爬虫類のように見えるが、やけに大きい。ドラゴン祭りなだけに、まさかのドラゴンの販売もありえるのかとも思ったが、さすがに希少種のドラゴンをあれだけの数手に入れるのは現実的に難しいはずだ。


「あれは魔物ですね。今はあのケージに収まるくらいの大きさだけど、成長したら両手を伸ばしたくらいの大きさになるわ。危険度は高くはないけど、飼育するような対象じゃないと思います」


「魔物を売っているのか。いくらドラゴン祭りとはいえ感心はしないな」


 かと言って商売の邪魔をする気もない。どこでもなんでも商売にする人はいる。売る人もいれば買う人もいる。あからさまに危険な行為以外は私たちがどうこうできる問題でもないのだ。


「ファーレン、あそこはなに?」


 今度はサラがどこかの建物を指差す。大きなドラゴンのハリボテが屋根に取り付けられている古めの外観の建物だ。何の店だ?


「ドラゴン祭りの実行委員がいるっぽいですね」


 アメリア君が立て看板を指差している。よくこの距離から見えるな。


「まさにここじゃないか。ドラゴン祭りを主催しているところなら、さすがに今ドラゴンのこどもがどうなっているかくらい知っているだろう」


 私たちはドラゴン祭り実行委員会の準備会場に入ってみることにした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 私たちが訪れると、実行委員のひとりが私たちに気がついた。


「ようこそドラゴン祭り実行委員へ。何か問題でもありましたか?」


 気の良さそうなお兄さんが、心配そうな顔をして近づいてくる。いきなりこの質問からして、普段は苦情や相談が多いのだろう。


「私たちは南の王都から来たのですが、騎士団がここでドラゴンのこどもの情報を聞きつけたというもので調査にやってきたのです」


「ドラゴンのこどもですか!」


 ん? テンションが合わないぞ。


「その話はこちらも聞いていません。ドラゴンのこどもが生まれたのですか!?」


「……私はそう聞いたから来たのだけど、噂すらありませんか?」


「どうだろう? ちょっと待っててください」


 委員の青年は私たちに待っているような手振りをして、奥へと引っ込んでいってしまった。見えないところに他の委員がいるのかもしれない。


「どういうことですかね?」


「さぁ。噂話だから知っている人と知らない人がいるのかも」


「ドラゴン祭りとドラゴンのこどもは関係なかったんですね」


「……そうだろうね」


 待つことしばし。委員の青年は走ってきたのか肩で息をしながら戻ってきた。


「やはり、我々実行委員にその噂を聞いた者はいませんでした。騎士団の方は、どこでその話を聞いたんでしょうね?」


「それは私たちにもわかりません。この街でドラゴン祭りをやっているくらいだから、てっきりドラゴンのこどもが見つかったお祝いなのかと思ったくらいです」


「ドラゴン祭りは今年始まったお祭りです。十年に一回対象を変えたお祭りを開催しているのです。去年まではタートル祭りで、最終年となる十年目はとても盛り上がりました!」


「タートル祭りって聞いたことがあるわ。この街でのお祭りだったんですね」


 テンションが上がりっぱなしの青年委員の話にアメリア君が乗っかる。


 タートル祭りか。私は調査や採集くらいでしか王都を出ないから、近くの街でやっている祭りにもあまり詳しくない。


「ドラゴンのこどもの噂があったということは、きっとドラゴンのこどもは生まれている気がします!」


 青年はもう随分と盛り上がってしまっている。これでは情報収集どころではない。


「盛り上がっているところもうしわけないんですが、私たちはもう少し情報収集を続けないといけないので、今日のところはこれで失礼します」


「そうですか。残念です。よろしければ、ぜひドラゴン祭りもたのしんでいってくださいね!」


 青年に見送られ、私たちはドラゴン祭り準備会場をあとにした。

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