ある魔法使いの苦悩21 四獣の慰霊祭

 どうしたものかと次の情報収集先を探していると、ストーク君のうしろ姿が目に入った。


「おーい、ストーク君!」


 私の声に反応して、彼は立ち止まると顔だけ振り返った。すぐに私たちに気づき、今度はこちらに向き直る。


「どうしました? ファーレン先輩」


「いや、私たちも情報収集をしようとしていたんだが、うまくいかなくてね」


「そうでしたか」


 そう言うと、ストーク君は近くにあったベンチへ私たちを促す。さして広くないベンチには、サラとアメリア君を座らせた。


 ストーク君は私たちに聞く態勢が整うのを待ち、やおら話を始めた。


「今、この街でおこなわれているドラゴン祭りですが、どうやら元々の発祥は過去にこの地にいた四獣の慰霊祭のようなんです」


「四獣?」


 アメリア君が首を傾げる。サラも真似をしている。私も真似したいところだが、あいにく四獣のことは知っている。


「朱雀、白虎、玄武、それに青龍のことだろう?」


「そうです。その四獣です」


 だから去年までがタートル祭りで、今年からがドラゴン祭りなのか。他のふたつは何祭りになるんだろう? 白虎はタイガー祭りとして、朱雀はまさかバードか? 鳥といえば鳥だが、うーん……


「元々四獣がこの地にいたということは、ドラゴンもいたということになるのか」


「その可能性は高いですね。残念ながら、俺の知る限りではドラゴンの成体はしばらく現れていないはずです。それもあって、この街でのドラゴン祭りは由来はあまり意識されておらず、純粋な娯楽としての祭りとなっているようです」


 たしかにそんな感じはある。実行委員もドラゴンのこどもの噂話とは関係なく、十年に一度切り替わるタイミングでたまたまドラゴン祭りを運営しているだけのようだし。


「若い人たちはあまり由来を知らないようですが、年配の方であればそのあたりはいくらか差はあれど、皆知っているようです」


「ストーク君はあのわずかの時間でそんなに何人もに話を聞くことができたのかい?」


「はい。まぁ、そこまで多く聞いたわけではないですけど」


「私たちは実行委員と話ができただけだよ。収穫なしでね」


「運営も世代が切り替わって久しいようです。知らなくても当然といえば当然だと思います」


 ストーク君は本当にマルチタレントスキルを持っているようだ。いつのまにか極簡単に調査をし終えている。私たちが話しかけなければ、もっとたくさんの情報を入手していたかもしれない。


「もしかしたらの可能性ですが」


 そう前置きしてストーク君は私たちを順番に見て、また私に視線を合わせる。


「騎士団が聞いたという噂話も、ドラゴン祭りや過去四獣がいた件がごちゃごちゃに混ざって変な噂として聞いてしまったのかもしれません」


「たしかにキミの話を聞いていると、その可能性もありえそうだね」


「ドラゴンも売ってたしね」


 アメリア君はさっきの露天のことを言っているのだろう。ドラゴンにまつわる祭りを実行し、街中では魔物をドラゴンとして売っている。年配の方に話を聞けば、過去のドラゴンの慰霊をしているという話が出る。


 ドラゴンのこどもが生まれたんだ、なんて話をどこかの誰かがしていてもおかしくはないかもしれない。


「可能性はたしかにある」


 今度は私がストーク君をじっと見る。


「続きを」


「ああ。ドラゴンに関しての祭りがおこなわれていたのは正直予想外だけど、それでもやっぱりさすがの騎士団がただの与太話を真に受けるとは思えない。聞き間違いではなく、どこかで確実に耳にしたんだと思う」


 私の話を受けて、ストーク君が腕を組んで考え込む。それはあまり長い時間ではなかった。


「実は、俺もそう考えています。この街の雰囲気から誤解を受けるような噂話がなかったとは言えない。いえ、むしろ真実なんてどこにも含まれていない話ですら出てきたもおかしくないでしょう。お酒が入った人が、昔話と思い込みをごちゃごちゃにして話すことはよくあることです」


「もうちょっと調べてみる必要がありそうだね」


「最悪、この街では情報が手に入らない可能性もありますけど」


「そのときはそのときだよ」



 とか言いながら、私は情報収集を再びストーク君に任せることにした。彼のほうが確実に適任だし、彼自身も何の抵抗もなく受け入れてくれた。


 私たちは今回もただじっと待っているわけではなく、また違う場所に情報収集に出ることにした。情報収集といっても、実際のところはドラゴン祭りがどんなものかを確認する――つまり、普通に祭りに参加することだった。


 ストーク君から「サラさんにお祭りをたのしんでもらっていてください」なんて言われたもんだから、せっかくなのでその言葉に甘えさせてもらうことにした。


 サラもなんだかちょっとソワソワしていたし、アメリア君もどうやらドラゴン祭りに興味があるようだ。私はそこまで心動かされはしないが、ふたりがたのしめるようにエスコートすることくらいはできる。


「あそこで劇をやっているみたいですね」


 アメリア君が指差した先では、四〜五人の人が壇上で何かをしている。たしかにショーのようだ。


「ちょっと見てみるか」


 私とサラとアメリア君は、ドラゴン祭りのイベントのひとつであるショーを見てみることにした。

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