2ー14
緑と黄の閃光が互いの命を刈り取ろうと激突する。
しかし、力に関して言えばフーリアの方に軍配が上がった。属性的有利を抑えている上に、加速しながら接近したことによる勢いが、全て刀身に乗ったのだ。カイのナイフは真っ二つに折れてしまう。
死へと誘う一閃を彼は命からがら回避する。だが、それだけで彼女の一撃は終わらない。直後、暴風が彼の身体を呑み込み、容赦なくそのまま数メートル飛ばした。
カイは地面に転がりながら、地面からナイフを数本創り出す。間髪開けずに、迎撃のため距離を詰めてきた暴力の化身に投擲する。
だが、まるで壁でもあるかのように、眉間を狙ったナイフはことごとく見当違いな方向へと吹き飛ばされた。
「あー。やっぱり、それくらいはあるか」
顔を歪ませながらカイは後退する。
クラドを殺した時を思い出した。けれども、目の前の化け
彼は力というよりは、その使い方でもってカイを追い詰めた。力というよりは技である。『
技で上回ることは不可能。ならば、力で。もっと言えば、魔力量で上回ればいい。技術など及ばぬ程の歴然たる力の差。それを見せつければいい。
アレにはそれを可能にする力があった。否、それ以上の力があった。ゆえに、クラドは死を迎えたのだ。
カイは後退しながら、フーリアの繰り出す剣撃をなんとか捌いていく。そうしながら、彼女の隙を探った。アレを使用できる時間がどうしても欲しかった。
風属性の魔力が込められた斬撃は、容赦なく彼のナイフを砕いていく。
後退しながら、常に創造し、次の瞬間には破壊された。
防戦一方。少しでも変な気を起こせば、次の瞬間には命が消えているかのような死闘。そのような死線を彼はくぐり抜け続けた。
一歩先は死とでも言うべき激しい攻防。ある意味、硬直状態の戦場。
時折、仲間を避難させた方から、石が飛ばされてきたが、フーリアはそんなものには全く注意を払わない。着弾した石はそのまま砕けるか、命中せず、他の建物を砕いた。
無駄、どころか下手をすればカイに当たってしまうかも知れないと考えたのだろう。彼らはその行動を止めた。
再び、精神を削るような斬撃が繰り出された。彼は必死に軌道をずらし安全圏を確保し、そこに身体をねじ込ませる。無理な回避が祟り一瞬ではあるが、足が地面から離れ彼の身体は宙に浮いた。
フーリアはもうすでにナイフを振っていた。ゆえに、彼を切り裂くことは不可能。
でも、空中で硬直している彼がそのまま逃されるはずもない!
飽和した魔力が翼の形を取り、そのままカイを殴りつけた。
宙に浮いている彼に衝撃を逃がす術はない。
メキメキと骨が軋む音を感じながら飛ばされる。まるで蹴られた石ころのように転がり、辛うじて存在していた壁にぶつかって停止した。
ひどい痛みだった。もしかしたら、骨が数本折れているかも知れなかった。
だが、大丈夫だ。と彼は心の中で思う。
こんな痛みは、この数年間で幾度となく経験してきたのだから。
飢えていた日を思い出せ! 人を喰った日を思い出せ!
あの時の苦しみの方が、この痛みより酷かっただろ? ならば立てるはずだ。あの苦しみを一人で乗り越えられたのに、これに耐えられないはずがないだろ?
自分自身に語りかけつつ、彼は腰を上げた。
間髪開けず、フーリアという名の圧倒的な暴力が飛来する。
距離にして三メートルの距離で、彼は自分自身に残った魔力を使って、大きな壁を出現させた。岩など比べものにもならない程の質量を持つそれは、しかし、数秒の存在すら叶わなかった。
風の魔力でコーティングされた手が壁を貫く。
それで役目を終えたと言わんばかりに、壁は砂塵へと還り宙を舞った。
わずか数秒の空白。
だが、それで十分だった。
土埃を吹き飛ばしたフーリアは一歩進もうとして、本能的な恐怖から撤退を余儀なくされた。後退した直後、彼女のいた場所に杭が地面を破って現れる。
それは魔法としては酷く低級なものだ。カイが先程までやっていた地面を加工する魔法のさらに下。低級も低級、およそ誰でも扱えるものだ。
でも、その規模はおよそ一般的なそれではない。
少なくともフーリアを超えてしまっている。
カイの手から三つの透明な石が零れた。
それは本来黒い輝きを見せる石である。大きさの割に、強大な魔力をため込んでいる石だ。名称を魔黒石という。
わずかな間隙を縫って、彼は魔黒石を使用し、自らの魔力量を底上げしたのだ。
殺気を感じたフーリアは数歩後ずさりした。
ここにおいて形勢は完全に逆転した。
圧倒的な力の差による壁は完全に消失したどころか、カイの方に歩がある。唯一の圧倒的なアドバンテージをひっくり返されたフーリアがこの後、どのうようになるのかは、想像するに難くない。
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