2-10
フーリアとしばらく話を交わし、ある程度『ウィング』についての知識を得た後、キズタは先程の少年のことを質問した。
「『ライトニング』それがあいつらの名前です」
「『ライトニング』……?」
「はい。私達と同じようなもので、人間のグループです」
『ウィング』はフーリアのことを見て分かるように『妖精族』のグループだ。主に風属性の魔法を使用するのだとか。魔法に関しては、キズタは門外漢も甚だしいので(というか、この世界ではおよそ全てのことが専門外だ)、一旦無視することにした。それよりも、気になったのは。
「でも、どうやって『ライトニング』だって分かったんだ? お前の話を聞く限り、いくつもグループがあるみたいだったけど」
「消去法です。それ以外のグループで私達を壊滅させられるところはないですから。いえ、それ以前の問題として、人間のグループで私達に勝てるところすらないはずなんですけどね」
「それこそ、他の『
フーリアは首を振った。
「ありえません。というのも、ここでは『
妙に断定するなあと、キズタは思った。
まるで自分の言ったことは正しいと信じて疑わない姿勢。キズタが通っていた小学校にもそのような人が沢山いた。もっとも、中学校になってからは徐々に人数が減っていき、ついには片手で収まる程度の人数に変わってしまったが。
この世界にきてから、まだ二日間しか経過していないというのに、彼は懐かしいものを思い出すように空を仰いでいた。しかし、すぐさま意識を鈍色の彼方から目の前のフーリアに戻す。
頭を現実に戻すために、彼女がありえないと言った理由を訊いた。
「……? だって、ありえないでしょう? 『
「……ごめん。ボクはちょっと世間に疎くて。だから、確認したくって。風属性の魔法は土属性の魔法に有利を取れる。間違ってないか?」
「大丈夫ですけど、確認いるほどなんですか? 火は風を喰らい、風は土を舞わせ、土は水を飲み込む。当たり前のことでしょう?」
およそ彼の頭の中にあった相関関係で間違いはないようだった。ゲームはあまりしていなかったが、現代に生きていたためか、どこからか情報が入ってきており、そこら辺の知識がいつの間にか形成されていた。
しかし。
「あれ? でも、そうなると水属性はどうなんだ? 普通、火に有利を取れるんじゃ?」
「おかしなことを言いますね。確かに、火には水ですけど、でも、使うのはあの『
そういうものなのか。と彼は深く考えることを止めて、納得することにした。これ以上は訊けば訊くほど本題から離れていってしまう。
話を聞く限り、『ライトニング』は、その人数でもって『ウィング』を壊滅させたのだろう。いくら魔法で有利を取れていたとしても、人海戦術の圧倒的物量の前に屈するほかなかったに違いない。
では。目の前の少女は、いったい何に勝機を見いだしているというのだろうか。
大まかな流れは何となく理解したキズタであったけれど、その一点。もっとも重要な問題が未だ不透明なままだった。少なくとも、彼ごときが参戦したところで戦力差をひっくり返せるとは到底思えなかった。
だが、キズタが疑問を呈するよりも速く、フーリアは言った。
「じゃあ、もう行きますよ。流石に、これ以上ここにいるのは時間の無駄です」
「行くって、どこに? まさか『ライトニング』のもとだなんて言わないだろうし」
「それはありえません。今から行っても私達は捉えられておわりです。ですから、まずは準備です。もっと言えば、人手を借りに行くのです」
「人手を借りる……?」
「ええ、そうです。だからこそのあなたじゃないですか」
「……?」
「だって、あなたはオーカム家のメイドでしょ?」
「…………?」
微笑むフーリアに対して、キズタの頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。メイドという部分はいいとして、しかし、オーカム家を強調した意味が分からない。少し前にも同じように強調していたが、それと合わせて理解できなかった。
だが、ここで口を挟むのも躊躇われたのも事実だった。具体的に説明されたところで、キズタが完璧に理解できるはずはないし、それに具体的なところは、目の前の少女に任せればいいという気もする。だって、彼はこの世界について何もしらないのだから。
実は、キズタの抱いた疑問は至極当たり前のものだった。異世界から来ただとかは関係ない。例え、彼女の頭の中をのぞき見ることができたところで、彼は理解できなかったに違いない。
一四歳の彼には決して理解できるものではなかったし、一般的な大人であっても結果は同じだ。
だって破綻している計画は誰にだって理解できないのだから。
無駄が多すぎて、そして虫食いだらけのものに意味を見いだすことは、困難を極める。いっそのこと放棄してしまった方が能率は高い。
ゆえにキズタが真にするべきだったのは、あの時、過去のクラスメイトの姿を思い出した時、そのまま目の前の少女と重ねることだった。素直に、愚直に同一視するべきだった。
そうすれば、彼は自分が抱く
言葉遣いと迷いのない振る舞いのその奥底で隠れている、フーリアの年相応の――否、年に不釣り合いなほど幼稚な思考回路に。
そうすれば、あるいはその計画が破綻しているものだと気づけたかも知れない。最悪でも、作戦の全貌を確認することぐらいはしたはずだ。
とはいえ、それはまだ一四歳の彼に課すにしてはやや難しいタスクであったし、そもそも、キズタは彼女とクラスメイトを同一視することは決してなかっただろう。異世界だからとかそういう理由ではもちろんなくて、もっと感覚レベルの話で許さなかったに違いない。
ゆえに、彼が少女の幼さに気づくのはもう数十分の時間が必要だった。
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