第5話山田敬浩の長い1日の始まり


次の日────

どうすればいいんだ?

教えてくれ!!

誰か教えてくれ!!

家の前に迎えに来た彼女との接し方を!!!!!!!

事は数十分前にさかのぼる...

7時5分...

いつものように俺は、起床し眠たい身体を起こして階段を降り、半分寝ている状態で朝飯を食べていた。

ここまでは、いつも通り、何も変わる事のない1日の始まりだった。


しかし、ここから日常の異端が始まった。


「ピンポーン!」

玄関の方からインターホンが鳴った。

こんな朝早くから誰だろうと思いながら、トーストにいちごジャムを塗っていた。

「ピンポーン!ピンポーン!」

「チッ!」と舌打ちを打って、重い腰を上げて玄関の方に向かった。

「ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!」

「はい、はい、今出ますよ」

俺は、玄関をかったるい気持ちを持ちながら開けた。

一体誰だよこんな朝早くから、家にやってくるなんて馬鹿じゃねぇのかと思った。


「おはようございます!先輩!お迎えに上がりましたよ!」

音無だった。馬鹿の正体は昨日からよく分からない理由で付き合う事になった音無だった。

「音無...」

「はい!なんですか?」

「朝早すぎる。俺は、まだ朝飯食べてるから、先に学校行っててくれ」

「じゃあ、玄関の前で待ってますよ。私、尽くされるより尽くしたいタイプなんでっ!」

「そうか、あと30分ぐらいかかるけどいいか?」

「はい!」

音無は、純粋無垢な笑顔を向けてそう言った。

「じゃあな」と言い俺はドアを閉めた。

玄関から手を離そうとした時、心の中の小さい俺の良心が痛み出した。

「外は、まだ寒いのだから入れてあげるべきだろう...」と言う声が心の中から出てきた。

俺は、あまり乗らなかったが音無しを中に入れて待って貰うことにした。

「ガシャンッ!」

「どうしたんですか?」

俺はしかめっ面で「中に入って待てよ」と言った。

考えてみろ、一人暮らしの男の部屋の前に女の子が1人で待ってるなんて明らかに不自然だろ。

ご近所さんに後で何か言われない為にも今は、音無しを中に入れた方がいいと判断しただけだと理由を急いで作って音無しに話した。

「ふっ...先輩。まさかのツンデレですか?」

ニヤニヤしながら少し嬉しそうに言ってきた。

「うっせーよ。ちょっとそこで待ってろ、あと少しで飯食い終わるから」

「はーい、わっかりましたー」

舐めてんなー、こいつ。朝から手玉に取られてる感じがして少しイラッとしてきた。


「そう言えば、先輩て一人暮らしなんですか?」

「あぁ、そうだよ。正確に言うと父さんが単身赴任中でそれに母がついて行ったんだよ。あと、兄が2人居るけど2人とも遠くの大学に行ってるから、家には俺一人なんだよ」

「そうなんですね。先輩は、凄いですね。1人でなんでも出来て、流石私が見込んだ男です!!」

「そうでもないよ。出来ることなんて軽く料理作ったり、洗濯したり、掃除したりするぐらいだよ」

トーストを食べながら、ちょっと鼻にかけて言った。

「それ普通に女子力高いですよ!!先輩いいお嫁さんになれますね」

「いや、男だし...」

そんな会話をしていたらトーストを食べ終わった。コーヒーを一口飲んで席を立ち、制服に着替えるため自分の部屋のクローゼットに向かった。

「先輩どこ行くんですか!?」

「制服に着替えるんだよ。ちょっと待ってろ」

「了解しましたー。先輩着替えるの手伝いましょうか?」

姿は見えないが言葉のイントネーションだけでからかっているのが分かる。

「いらねぇよ。1人で充分だよ!」

「手を借りたい時はいつでも言ってくださいね。せ・ん・ぱ・い!」

ムカムカしながらも制服の袖に腕を通し、全身カガミで身だしなみを整えた。

ようやく準備が出来て、玄関に荷物を持って向かった。


「やっとですかー、遅かったですね」

「お前が来るなんて想像してなかったし、てか来たとしても早すぎるんだよお前は!」

「いやー、善は急げと言うじゃないですかー」

「それ、使い方間違ってるぞ」

「まぁ、いいじゃないですか、先輩の準備も出来たことだし行きましょうか」

「あぁ、そうだな」

こうして俺の新しい1日は、始まり出したのだった。

玄関のドアを開けようと手を伸ばした時だった。

「先輩1つ聞いていいですか?」

「どうした?」

音無は、モジモジと手を合わせ、顔を少し赤くして喋り出した。

「あの、その、また来てもいいですか?」

一瞬だけど、仮染の彼女が可愛く見えた。こんな顔も出来るんだなと少し、きゅんとしてしまった。

「好きにすればいいよ。来たいなら来ればいい、来たくないなら来なくてもいい。俺は、正直興味ないからな」

最後だけ、少し嘘をついたのは内緒にしよう。バレたら色々めんどくさいし。

「はい、じゃあ好きにしますね!」

「行くぞ音無、これ以上もたもた話してたら学校に遅れちまう」

そう言って、ドアを開けて音無と一緒に学校に登校した。


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音楽鑑賞部の憂鬱と悦楽 光矢野 大神 @junia1125

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