第4話山田敬浩の葛藤
校門前────
辺りが薄暗くなってきて校門前の電灯には、田舎だから無数の小虫が群がっている。
そこに1人の女が立っているのが見えた。
「おい、来てやったぞ。話を聞こうじゃねぇか」
「やっと来ましたか。少し場所変えますか?ここではなんなので...」
「いや、ここでいいから早くしてくれ」
「先輩少し警戒してません?嫌だな〜、私は喧嘩をしたい訳じゃないんですよ。むしろ、その逆ですよ、逆」
「はぁ、理解が出来ないんだけど、お前のさっきの発言からはそんな風には思えないぞ」
少し微笑んで音無は喋り出した。
「まぁ、そうですね。そう思うのも無理ないですよね。でも、何度も言いますが私は、喧嘩したい訳じゃないですよ。むしろ、助けて欲しいんです。先輩に...」
意味が分からなかった。音無が何を目的にしているのかが、「サイン、コサイン、タンジェント」の存在意義並に理解が出来なかった。ちなみに、俺は数学が嫌いだ。
彼女が何を目的にしているのか見極める必要があると思い、質問をしてみることにした。
「助けて欲しいなら、何であんな反骨的な態度を取ったんだ?」
「それは...」
少し音無は頬を赤く染め、顔を下に10度ぐらい傾けた。
「先輩、彼女居ますか?」
「ほぇ?彼女?」
見当違いの質問が来て思わず、キャラとは違う声が出てしまった。
「答えてください!!」
「い、居ないけど...?」
「良かった...」
俺は、嫌な予感がした。
1つ理っておくが、俺はリア充になんかなりたくないんだ。
あんなブタ野郎共と一緒になるぐらいなら、本物の豚と戯れた方がマシだと思っている。人間よりも俺は動物の方が好きなんでね。
「まさか、お前告白したいとか言うなよ?」
「うん」と音無は小さく頷いた。
「帰る。じゃあまた来世で...」
「ちょっと待てください!!!いきなり酷くないですか?」
「うるせぇ。だいたい、さっきのお前の雰囲気からして告白したいなんて誰が思うんだよ!?絶対シリアス展開て感じだったじゃん。絶対やばいやつて感じだったじゃん」
だいたい、告白したい奴にあんな口調で話すてどんなラブストーリーだよ!?
「それは...、言わゆるツンデレ的な感じで...私、緊張すると口調が男らしくなってしまうんですよね...」
「どんな設定のキャラだよ!?」
「いやー、昔父が好きだったヤクザ物のVシネマを一緒に見てたので口調が移ったんですよね。仕方ないです」
そう言って音無はニコッと笑った。俺は、意味が分からなかった。
「まぁ、さっきの雰囲気と口調の理由は、分かったけどなんで...」
自分で言うのが恥ずかしかったので、察して貰えるような素振りを見せることにした。
俺の、察して察して光線に気づいたらしく音無は察した質問に答えた。
「えーと、単刀直入に便利そうだからです」
「便利そうだから?」
「はい、私は2時間前まで先輩に告白するつもりはありませんでした。でも、今日の先輩のあの変人ジェラシックパークでの立ち振る舞いから、『あーこの人便利そう』と思い色々手伝って欲しくて告白することにしました」
俺は、脊髄反射より早く頭の中で結論を出した。
「うん、とりあえずお前の今の印象は最悪だ」
「なんでですか?」
「それが分からないとお前相当やべぇぞ」
「でも、人と一緒に居たいて気持ちを恋て呼ぶなら、私の今の気持ちは恋て言うんじゃないですか?」
音無は真剣な顔をして言ってきた。こいつは、真っ直ぐに曲がっている奴なんだなと思った。けど、それを真っ直ぐにする役目が年長者である俺の役目だ。
「いいか音無、人を好きになるて言うのはそんな簡単に決めていいもんじゃないんだよ。便利とかそんな感じの理屈なしで、この人と一緒に居たいて思った時が本当の恋なんだよ」
我ながらかっこいいことを言えたと思った。ラブコメにありそうなセリフを言えて若干嬉しかった。
「なるほどです。でも、先輩て恋愛した事ない童貞ですよね?千鶴先輩が言ってましたよ。そんな人に言われても説得力ないですよ」
俺の心に会心の一撃がクリーヒットして、一気に心のHPが赤ゲージまで下がった。確かに、説得力の欠片もない。俺は所詮ただの童貞だったことを思い出した。
うぅぅ...悔しいです...
「とにかく、私は先輩と付き合いたい!と思っています。その気持ちは変わりませんよ」
「いや、だからね、この際はっきり言うけど今俺は人と付き合いたくないのよ。一人の時間が愛しいの」
「それ一生独身貴族の人が言ってるセリフですよ。そんなんだから彼女いない歴=年齢なんですよ!!この際その汚れた経歴を捨てましょうよ!!」
「俺は、全ての選択に自己決定権がある事を言いたい!」
「なんですかそれ?意味わかんないですね」
意味がわかんないのはお前の方だと言うことを叫びたかった。
「どうしたら、お前は納得してくれるだよ?」
「どうするも何も、私と付き合ったら万事解決ですよ。先輩の彼女いない歴問題や、童貞捨てられない哀れな男問題や、リア充殺したいみたいな感情も抱くこともないんですよ!いい事しかないじゃないですか?」
「だとしてもお前と付き合う理由にはならない。第1お前は俺の事をなんにも知らないじゃないか」
「それは、そうですけど、相手の事を知るのは後でも遅くないと思いますよ、とにかく1度考えて見てくださいね。私はいつでもオケですからね」
「俺は、全然オケじゃないからな。第1お前が俺の事を知らなくてもいいのが問題じゃなくても、俺がお前の事を知らないのが問題なんだよ」
「ふーー。先輩、男なら私みたいな可愛い子と付き合えると思ったら知らないとか関係なく猛アタックしないとダメだと思いますよ」
あーーーーーーーー。うぜえええええええええええええ!!!!
なんなのこいつ、いくら断っても来るじゃん、めんどくせぇな。
だいたい、自分のこと可愛いて言う女と付き合いたくないってーの。
そんなに猛アタックして貰いたいならラグビー部でも入れよ。多分いくらでもアタックしてもらえるぞ。物理的にな。
だいたいメガネ女子が俺のタイプじゃないだよ!!
決してメガネ女子が嫌いて訳じゃなくて、俺は、基本的にスポーツ系の元気いっぱい系で挨拶する時に敬礼して「ヨウソロー!」とか言う感じの女の子が好きなんだよ。
もう音無には、はっきりと俺の好きなタイプとかけ離れてる事を伝えて諦めてもらう作戦で諦めてもらうしかないな。
混沌とする考えを、理性で押さえつけて喋り出した。
「あのね、この際はっきり言うけど音無は俺のタイプじゃないから無理です。付き合えません」
これで大丈夫だろうと安堵した。
「先輩の好きなタイプてどんなのですか?」
「まずメガネをかけていない」
「これ、伊達メガネだから外しても問題ないですよ。明日から外してきますね」
「次に元気いっぱいに挨拶をしてくれるようなスポーツ系な女の子」
「私、中学の時は空手をやってて一応、黒帯を持っているんですよね。明日から、先輩会ったら大きな声で挨拶しますね♪」
「......」
「先輩?どうしたんですか?」
「いやなんでもない、えーと、次に...」
「もうめんどくさいので私ができることを先に言っときますね。勉強は学年で3番目の成績です。そして、生け花を習っています。茶道も今習っています。料理は、趣味で好きです。スリーサイズは、上から81・58・80です。サイズはCカップです。以上です。他に何か聞きたいことはありますか?」
「もういいです」
ここまで来たら付き合ってやろうかなと思えてきた。
一周回って有りなんじゃなないかなーと思えてきている自分が居るのがやだな。
てか、こいつハイスペック過ぎんかっ!?
胸はそこそこあるし、料理は好きで教養もあり、女性らしい趣味もある。
それって、性格以外最高じゃないか!!
俺の変わり始めている意識の中で、付き合うか付き合わないかの葛藤がデットヒートしている。
どうせ、付き合っても嫌ならすぐ別れてしまえば良いしな...ここらで黒歴史も終わりとしようか。
「音無...」
周りが急に静かになったような気がした。そして、静寂の中から音無は、口を開けた。
「なんですか?」
「とりあえず1週間のお試し期間てことでお前と付き合ってやるよ。1週間経って契約更新するかはわからんけどな」
「分かりました。その条件を呑みましょう。その代わり私も1つお願いいいですか?」
「分かった、なんでもいいぞ。ただしできる範囲でだけど」
「週末に私とデートしてください。簡単でしょ?」
デートか...まぁ、女子ならそれぐらいのことをしたいと思うのは当然なのだろうな。よく分からんけど。
「いいよ、今週末にデートしてやるよ」
「ありがとうございますっ!先輩っ!とりあえず1週間よろしくお願いしますね」
「とりあえず今日は、もう遅いから帰るぞ。そっちの親御さんも心配するかもしれないからな」
色々あって今日は、いつも以上に体力を精神的にも身体的にも使って、疲れたから早く帰って寝たい。
「そうですね。じゃあ、先輩また明日、学校で会いましょう。私はこっちから帰ります」
「おー、じゃあな」
そう言いなから振り返り手を挙げて適当に振った。
だんだんと遠ざかっていく足音を聞きながら歩いた。そして、音が聞こえなくなってきた時に自転車を停めていた駐輪場に着いた。
嬉しいような、嬉しくないような、不思議な気分になりながら自転車を漕ぎながら、無心な心から一言が自然と出てきた。
「人生何があるかわからんな」
言ったあと誰にも聞かれてないのに恥ずかしくなり、自転車を漕ぐスピードを上げた。
日が沈むスピードが早くなった気がする。
早く帰ろう。
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