学校へはバス通学なのもあって、ずいぶん久しぶりに乗った気がする電車を乗り継いで、手紙のやり取りのために前々から聞いていた住所に向かった。実際は携帯メールばっかりだったから、今回初めて聞いておいた住所の情報を生かしたような気がする。


 インターホンを押して応対してくれたおばさんは、記憶より少し老けたような気がするけれども、長年の重荷が降りたような、晴れ晴れとした顔をしていた。実際降りたのだろう。


 僕の顔を見た途端、お久しぶりねえと言って、雪華の部屋まで通してもらう間にちょっとした世間話をしたけれども、その口調は明るかった。


 本当に夢みたいに元気になってしまった雪華は、もうすぐにでも学校に行けるらしい。編入なんかも考えていて、雪華は僕と同じ学校に行けたらいいのになんて言っているらしい。頭いいから編入でもいけそうではあるけど、通学がちょっと面倒じゃないかなあ。一緒の学校に行けるようになったら、僕も嬉しいんだけどね。


 雪華の部屋の前まで行くと、あとでお菓子持っていくからごゆっくりと言って、おばさんは去って行ってしまった。このまま立ち往生しているわけにもいかないので、僕はドアをノックする。


「雪華―? 約束通り、会いに来たけど……入っていい?」


 返事はない。もう一度ノックしたけど、結果は同じだった。勝手に入っていいもんかなあと少し思ったけど、考えてみれば初めて雪華と会った時も不法侵入だったんだよなあ。子どもだったとはいえ。


 とりあえず今日はきちんと約束をして来たのだからということで、ちょっと気は引けるけど入ることにした。


「入るよー?」


 やっぱり返事はない。どうしたかはわからないけれど、さすがに片付けたらしく、ボロボロのぬいぐるみがお出迎え、ということもない。


 普通の部屋よりは広いけれど、大きい本棚と勉強机とベッドが置いてあるだけの、まあ普通の部屋だ。雪華のように想えなかったとはいえ、昔は遊びに来るたびたくさんのぬいぐるみが出迎えをしてくれたものだから、本当に『死んで』しまったのだなと寂しい気持ちになる。


 ざっと見回しても雪華が見当たらないので、入れ違いになっちゃったかな? と思ったけれども、ふとベッドを視界に入れて、やっと納得した。


 雪華は、白雪姫のように眠っていたのだ。

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