「こんにちはー」

「こんちゃーっす」


 部室のドアを開けてあいさつをすると、既に来ていたらしい何人がの部員が、ポツポツ返事をしてくれた。まあみんな、パソコンの画面から全然目を放しやしないんだけど。


 退院してから、なんとなく部活に入ることにした。僕の後ろの席に座ってたクラスメイトの火野が、退院後学校に来たら、やあ久しぶりだなと言って声をかけて来て、景気づけにパーッとパソコン部の入部届けにパーッと判子を押さないかと意味の繋がらない変なことを言ってきたのがキッカケだった。


「まあなんだ、無理に入らずとも、お前と話でもしてみるかなと思っただけなのだが」


 火野は、メガネの位置を直しながら照れくさそうに頬を掻いた。


 なんでも窓際の後ろから二番目に座っている僕がしばらく休んだことで授業中の居眠りその他自主的読書(と言っても漫画だ)などの内職が見つかりやすくなり、あいさつくらいしかしない僕の存在の尊さがわかったのだとかなんとか。なんのこっちゃ。


 急に倒れて意識不明になったのは担任の口からクラスメイトに伝わっていたみたいで、しばらくの間はちょくちょく気遣うような言葉をみんなから聞いたりもした。


 僕なんか全然認識もされてないと思っていたけど、視界には入っていたんだなあ。それで僕は、まあいいかということで入部届に判子を押して、パソコン部に入った。


 といってもこの部活、実質やりたい放題の部活になっている。ネットサーフィンなんかはともかく、萌え萌えな美少女がどうこうなるゲームをやってるやつなんかもいたりして。


 怒られないのかな? と思うけど今のところお怒りの言葉を聞いたりしないから大丈夫なんだろう。これといって何をするとかが決まってないので、僕も顔を出して適当に部員の人とくっちゃべったりしてダラダラ過ごしている。


 最初は何を話していいのかわからなくて困ったけど、火野を始めとするいわゆるオタク人種の人間はとにかく好きなことに対してペラペラ喋りたい人間であるらしいので、聞き役に徹することで難を逃れた。


 雪華の話にずっと耳を傾けて過ごしたこともあるくらいだから、話を聞くのは得意だ。それがあんまり知らないアニメやゲームのことでも。火野からしてみれば、僕みたいなやつもオタクに分類されるらしいけど。


 まあクラスに一人はいる、休み時間ずっと机に座って本読んでるやつだからね僕も。ゲームだってたまに遊んだりするし。


「やあ、尾羽よ。お前も一緒に瑠璃美(るりみ)ちゃんの魅力を分かち合わないか?」


 言いながらも火野は、パソコンのディスプレイから顔を離さず、マウスをクリックし続けている。器用だなあ。僕なんか本読んでる時は本に集中しないと内容に入り込めないけど。


「いや今日は用事があるから顔だけ出したんだ」

「用事?」

「うん。引っ越していった知り合いに久しぶりに会うんだ」


 僕が言うと、火野はガタン! と大きな音を立てて立ち上がった。わなわなと肩が震えている。


「その口ぶりは……女、女だな! このリア充野郎めが!」

 

 知り合いとしか言っていないのに、火野は早合点して僕を罵ってくる。まあ彼の推測は正解なんだけどね。


「そんなところ。じゃあまた明日」

「うおー、もうお前なんぞ友達でもなんでもないわい、チクショー!」


 火野は僕のことなんか眼中にねえよと言わんばかりに再び席につき、ものすごい勢いでゲームに没頭し始めた。


 他の部員からもブーイングが来たので、さっさと部室を後にする。明日ちょっと来づらいなあ。まあどうせ、また顔合わせる時にはいかに昨日クリアしたゲームが素晴らしかったか、どこがダメだったかの力説に忙しくて忘れてるんだろうけど。

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