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「ごめんなさい」
何かを察したらしい雪華が、電話の向こうですまなそうにした。
「名誉の負傷ってやつじゃないかな。大好きなお姫様を助けるためなら、このくらい全然なんともないさ」
電話の向こうの雪華以外には、歯がプカプカ浮いて宇宙まで飛んでくくらいの恥ずかしい台詞だと我ながら思う。いや雪華でも恥ずかしいかな? 切れていないのに、電話の向こうがしばらく無言だったから。
「それと──ぬいぐるみのことなんですけど」
雪華の声が沈む。
「お母さん達が家に戻って、わたしの部屋に物を取りに行ったら、一つ残らずボロボロになってたそうです。強盗にしては何も取られてないし、警察に届けるか迷ったみたいですけど、結局やめにしたみたいです」
グスッと、鼻を啜る音がした。
「きっと雪華の、身代わり、になって、壊れたんだろうって」
僕や雪華のご両親にしてみれば、雪華が戻ってきたのだから、それに代えがたいものなんてない。だけど、彼女にしてみれば、大切な人を失うにも等しい出来事だったのだろう。
他の人が聞けば、馬鹿らしいと笑うかもしれないし、不気味だと言うかもしれないし、或いは純真なのだと雪華を微笑ましい目で見るかもしれない。
だけど、ぬいぐるみは──化け猫フックたちは、間違いなく雪華を大事に想い、彼女を救ったのだ。
「わたしは、泣くんじゃなくて、笑わなきゃいけませんね。こうして、仁さんと話が出来るんですから」
「そうだね」
彼女は、自分に言い聞かせるように言った。子どもの頃遊んでいたオモチャのことを、大人になったらすっかり飽きて見向きもしなくなったりするそうだけれども、きっと雪華は、物を言わずとも自分を想っていたぬいぐるみ達を忘れることはないのだろう。
いつか記憶が薄れていっても、勇敢なナイト達がした行いは、一生彼女の中に残り続けるのだ。美しくも切ない、残酷な記憶として。
「そういえば雪華、自分のこと名前で言わなくなったんだね?」
「え? あ、はい。意識して直したわけじゃないんですけど、起きてお母さんたちと話してたら、自然に。お母さん達も変な顔してました」
大人になったってことなんだろうか。雪華にも分かってないみたいだけど。ぬいぐるみ離れをした女の子は、大人になる。
なんて言うとなんだかカッコいいし切ないけど、さっき思った通り雪華が化け猫フック達のことを忘れることはないんだろうな、と思うと、なんだか化け猫フックたちがちょっとだけ小憎たらしいような、そんな優しい雪華がいとおしいような、複雑な気持ちになる。
アイツ──アイツって言っていいのか、アイツらって言えばいいのか、未だにちょっと混乱する──なら、お姫様の心を射止めるために、自分たちを超えられるように努力しろって言うのかなあ。
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