終章・その後の世界

 僕は数日ほど学校を休んで、入院する羽目になった。健康そのものでしかないけど、急に前触れもなく倒れたので一応ひと通り検査入院をすることになったのだ。


 化け猫フックの言葉によれば、僕は現実の世界に戻れば後は元気に過ごせるそうなのだけど……。父さんも母さんも「あんたのボケーッとしたところが治るかもしれないし見てもらいなさい」とまたボロクソ言って押し切ったので、入院することになった。


 僕としては病院を抜けだしてでも雪華に会いに行きたかったけれども、母さんの監視が中々厳しくてしつこかったし、何より心配をかけてしまったという負い目があるので、結局出来なかった。


 その代わり、雪華とは病院に設置されている十円電話で話すことが出来た。チャリチャリと十円おかねをきっちり飲み込んでいく電話は、とっても現実のシビアさを思わせる。


 機械越しとはいえ、現実の雪華の声はずいぶん久しぶりに聞く。そう思うと幸せだなあと思ったので、思いっきり耳をすませた。


「お医者様は、こんなことは奇跡としかいいようがないっておっしゃってました」


 雪華も僕と同じように、夢のセカイでのことを、現実の世界に戻っても覚えていた。雪華が夢のセカイで自分で言っていたように、雪華はもうどれだけ体が持つのかわからない、そんな状況だったらしい。


「お母さんとお父さんは、まるで何があっても最後はめでたしめでたしで終わるおとぎ話みたいだって言ってました」


 ちょっとした皮肉を混ぜたように、雪華はころころと笑っていた。僕と雪華にしかわからないジョークだった。二人だけの秘密を共有するというのは、中々気分がいい。


 ふと、大あくびが漏れた。雪華の笑い声が強くなる。


「眠たいんですか? 夜更かしはダメですよ」

「いやー、消灯早いから早めに寝てるんだけどねえ」


 これは本当だ。そうでなくてもここのところ眠たくて、夕飯を食べたらすぐに布団にもぐって寝てしまっている。今日だって昼まで寝ていたくらいだ。見舞いに来た母さんがまた意識がなくなったんじゃと取り乱してその騒ぎでようやく起きたくらいだ。


 思うにこれは──現実に近い夢の中ですごいケガをしたのを、現実でも引きずって体を休めようとしているんじゃないかと思う。


 やたら眠い以外はなんともないから、ちょっとした副作用みたいなもんだと思うけど。


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