17
真っ白な天井が目に入った。薬品くさい臭いに顔を顰める。何度かまばたきをしてみたけれども、頭がボーッとして、力が入らない。
すごく印象の強い夢を見た時、ちょうどこんな感じになるなあと思いながら、夢現な気分でいると、誰かが僕を呼ぶ声がした。
「仁……? 目が、目が覚めたのね!」
動かすのも億劫な体を、強引に持ち上げられた。思いっきり抱きしめられる。ツン、と強い香水の香りが鼻を突いた。ああ母さん、この香水ぶっちゃけ臭くて臭い消しとしても逆効果だからやめろっていつも言ってるのに──。
「道端であんたが倒れてたって聞いて! どこにも外傷がないのに、意識がないって──! いつ目が覚めるかもわからないって!」
僕の体を抱きしめながら母さんは一方的にまくし立てる。ああそう言えば化け猫フックたちが今のお前は死んでるようなもんだって言ってたなあ。
「ホントにあんたは──っ! 昔からボーッとしてて、ふわふわ考え事ばっかりしてる子だったけど! 本当に、おとぎの国でもいっちゃったのかと──」
本当にさっきまで似たようなところにいたんだよ。とは言えなかった。僕の体を開放して、僕の顔をじいっと見つめている顔が、心からの安堵に満ちていたからだ。
「意識不明だった癖に、相変わらずボーッとした顔してるわね、我が息子ながら」
酷い言われようだ。似たような母さんの表情とセリフを、ずっと昔にも見て聞いたような気がする。そうあれは確かデパートでボーッと歩いてていつの間にか迷子になって、迷子預かり所で待ってた僕を母さんが迎えに来た時──。
考えに沈む前に、乱暴にドアが開く音がした。ドタドタと走り寄って、おい仁が意識不明ってホントか目が覚めたんだなよかった、と父さんが背広姿のまま叫んでいる。
母さんの泣き声と、父さんのマシンガンみたいな喋りを、まだ少しだけ夢現のまま聞きながら──。
僕なんかを心配してくれる人は、雪華以外にもいたんだなあと実感していた。
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