14
牙を向いた夢が根負けしても、現実は負けていない。現実の痛みは、確実に雪華を蝕んでいる。痛みから逃れるように、雪華が僕にしがみついた。
僕も全身がすごく痛かったけれども、絶対に雪華を落とすまいと、しっかり抱きしめた。
「絶対に嫌! 仁さんに好きって言ってもらえたのに、こんな、こんな……っ」
「僕だって嫌だ! 雪華と離れるなんて!」
だけど僕の全身の痛みはどんどん酷くなっていって、雪華の顔も、それこそ雪みたいに白く、生気を無くしていく。
「ゲホッ、ゲホ……ッ」
雪華の唇から乾いた咳が吐き出される。口元が赤く染まる。血だ。
「えへへ、せっかくのお洋服が台無しですね……」
「何言ってるのさ、こんな時に……」
「こんな時、だからですよ……」
最期の力を僕にしがみつくことだけに注いでいるように、雪華が僕の首に回した腕の力は強かった。僕のことを、殺そうとしてるみたいに──。
「ねえ仁さん。雪華、一人ぼっちは嫌です。仁さんに大好き、って言われたら、ものすごい欲張りになっちゃったみたいです」
「言っただろ、雪華──。雪華がいないなら、死んでやるって」
「好きな人のことを殺せない、なんて言ったくせに、私、悪い子ですね」
悪い子と言う発言を否定するように、僕も強く抱きしめる。折れそうな体を、本当に折る勢いで。僕は、雪華が一緒に死んでほしいって言ってくれて、幸せなんだ。だけどどんな言葉もこれ以上告げると全てが嘘っぱちになりそうで。そうしたらこの腕の中で痛みに苦しんでいるお姫様をもっと苦しめてしまいそうで。腕の力だけで全て伝わればいいのに、と願いを込めて行動で語る。
「抱きしめ合いながら死ぬなんて、どんな童話よりもロマンティックですね」
「ああ、本当に──」
雪華と、現実の空の下を歩けないのは残念だけど。雪華と一緒にいられるなら、これっぽっちも惜しくは──。
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