13

 ──本当に?


 世界一大好きな人の世界一大好きな声が聞こえる。僕は全力で拝聴する。声が聞こえて嬉しくて全然全く気が付かなかったけれども、雪が止んでいた。

 

 ──本当に、仁さんは、雪華のことが、大好きなんですか?


「当たり前じゃないか!」


 即答した。すると、氷山にものすごく大きなヒビが入った。一筋の大きなヒビは、クモの巣状に広がって、砕け散った。砕けた氷が花びらみたいに散って、降ってくる。落ちてくる間に溶けてしまったのか、水滴が見上げる僕の頬に当たった。


「仁さん――っ!」


 落ちてきたのは溶けた氷のカケラじゃなかった。世界一綺麗なお姫様の流す、宝石のような涙だった。落下してくる彼女に向かって、僕は手を伸ばす。


 僕に呆れた夢が味方したのか、可憐でかわいい雪華でもこんな距離から受け止めたら大変なことになるはずだけど、まるで天使の羽でも生えたみたいに軽かった。


「仁さん、仁さん、大好き!」

「僕も大好きだ!」

 

羽のように軽い彼女を片腕だけで支えながら、僕はいつの間にか持っていた、踏んで砕いてしまったはずのガラスの靴を、彼女の片足に嵌める。


 しつらえたみたいに、綺麗に合った。


「言ったからにはもう一生離れませんからね! 嫌になったって離れませんから!」

「嫌になんかなるもんか!」

「なら、絶対──っ!」


 自由になった両腕で雪華を抱きしめた途端、彼女の体が強張った。僕を嫌がったのかと桃色に染まっていた脳みそで一瞬考えたけれども違った。明らかに顔が青ざめている。


「雪華? 雪華?」

「ぐ……あっ、苦し……っ」


 浮かれていた気持ちが、急激に冷えていった。止んだ雪がまた降ってきたかのように、寒くなった。脳内麻薬が出て感じていなかった痛みが、再び全身に走る。まだだ。

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